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「核無き世界」は実現不可能。3つの指摘

矢野 義昭 日本の陸上自衛官、研究者。拓殖大学・岐阜女子大学客員教授。学位は博士(安全保障)拓殖大学・2013年)最終階級は陸将補。

現在、「核兵器なき世界」と謳われているんですけれども、私はこれには反対なんですね。核兵器なき世界という事になると、かつて第一次、第二次大戦に経験したように、大国間の戦争はまた再発する可能性がある。

これは裏返して言うと、米露と中露の間に核による相互確証破壊という相互抑止が成立している。それ故に、直接交戦することが避けられている。

今のウクライナもそうですが、戦争が大規模に拡大することが予期されているというのが現状です。これをもし核兵器をなくしてしまうと、その枠組みが崩れてしまう。

それから、実際になくすとなった場合に、合意しても、その過程においてその安定性が損なわれる。これはかつての米ソ間の戦略核兵器の削減交渉でも同じです。

お互いに信頼性があり検証手段が取れる、そして指摘されると確実に履行するという、そういう関係があって初めて成立するわけで、且つ、その当事者が増えると、特に中国などが現在驚異的姿勢を取ってますが、中国を巻き込んだ形でないと意味がないんですけれど、そういったことが可能なのかどうか。

そして、プロセスにおいて非常に不安定な時に、誰がどうコントロールするのかという問題が解決できない。

それから核というものの、秘密と知識をもう既に人類は持ってしまっているわけですね。核兵器の製法というのも解っている。そういう中で、仮に世界中が核を廃絶した場合、どこかの大国あるいは小国の独裁国が、地下かどこかで見えない形で核兵器を密かに開発して、ある時突然、それを世界に宣言して、それに対して世界は何もできない。

あるいはテロリストの一部の組織がそういうことをやる。ということもあり得ないことではない。そういった場合に、世界は核の”秘密”を知ったことを前提に、どう平和と安定を維持するか考えなければいけない。

その点で核廃絶というのは、その逆を行かれた場合に非常に世界が危機に陥る。そういう危険性があるということを指摘しておきたいと思います。

2つめは反核平和運動についてですね。私もそうなんですが、だいたい小中学校くらいで広島、長崎に行って、ケロイドに爛れた姿を見せられると、皆恐怖心を覚えてしまって、そこで思考停止するというのが多いんですけれども、じゃあそれで何か平和に繋がるかというと、実効性がないわけです。

例えば金正恩とか習近平、9条もそうですけれども、反核平和の願いを届けて、彼らが素直に聞いてくれるなら何も問題ないですけど、未だかつてそういうことはないし、事実、NPT(核兵器不拡散条約)でも世界の核軍縮をやるということを核保有国は約束しながら、実際には守られていないわけです。そういう現状を見ると、ほとんど実効性がない。

むしろ冷戦時代の教訓から言うと、反核平和運動が日本も含めて欧米で盛んだったんですが、ソ連の謀略によって、特にアメリカとの戦力格差がある段階で、その足を引っ張るといいますか、それを遅らせるために意図的に掻き立てられたものだと。要するに謀略に利用されているんだと。

それが現在の世界においても、特に日本でですね、そういった動きをするということは、結果的に、核の戦力増強を目指している独裁国、共産主義国等に牛耳られてるんじゃないかと、そういうことがあるんだと、それが世界の現実なんだということを理解する必要がある。

それから3つ目に、核の傘の信頼性の問題ですけども、これは原理的に言って、核保有国が核の傘を提供する「提供国」、ディフェンダーと言いますけれど、これを受ける側の「被保護国」ですね。日本は被保護国の立場です。

その両国の間の国益というのは、最終的には必ず相反、矛盾するということが理論的にも言われていて、要するに、核の傘を提供する側は、自国が核戦争に巻き込まれる危機を回避するために、被保護国の好戦的姿勢を抑えるという方向で国益を追求する。

それに対して被保護国は、約束に従って核の傘を提供してくれと。たとえ核戦争のリスクを冒してでもディフェンダーとして約束した以上は核の傘を提供してくれと要求するのが被保護国の立場です。

ここに本質的な国益の対立が必ず生じるというのは明らかになっています。

更にリアリズムの立場で言えば、実際に核の傘を提供するかどうかというのは、その時々の核戦力バランスによって決まってくるわけです。

つまりバランスが不利であれば、その核保有国は、核を持っていても、優勢な核保有国対してあえて核戦争にエスカレーションするような軍事挑発はできない。

これが現実には、20年前と全く状況が変わってしまって、現在はアメリカが劣勢になっているというのが実態であって、特に中国とロシアがウクライナ戦争を契機に、戦略的な友好関係、パートナーシップを組んでいるという状況では、戦略核も含めて劣勢で、中距離核、戦術核についても、これは特にINF(中距離核戦力条約)に拘束されなかった中国が優勢です。

戦術核については、従来から国境線を守るために拡大してきたロシアが未だに1800発以上持ってるわけです。アメリカは数百しかない。中国はどれだけ持っているのか判らないという状況で、どの段階においても戦力的にアメリカは劣勢になっている。

そのような状況で、日本に核の傘を提供するはずがない、できない。アメリカの大統領はそういう決心をするだろう。

仮に核戦争をやったら、一方的にアメリカが、例えば数千万の犠牲を出してしまうと。そういうことはアメリカ大統領の立場では決心できない。
つまり核の傘は、実質的にも理論的にも、核戦力バランス上も空洞化している。信頼性はもうないんだということ。これが現実だということです。

だから日本としては、核の傘が有効ではないということを前提に、自国の核抑止をどうするかということを考えなければならない。そこまで来ている。

日本の立場についてもう少し言いますと、今回のウクライナのことも特にそうですが、三正面の連携ということを許してしまった。

今までは個別だったんですけど、これが、お互いに連携するようなっている。例えば先日も北朝鮮がミサイルを撃ちましたけども、その背後には、エンジンの提供、技術の提供でロシアの支援があると。同じようなタイプを使っているということが言われてます。

それから中国も、核ではないですが、ロシアとの軍事的な提携は強まっている。現に日本周辺で軍事演習をやっているわけです。

それから台湾周辺においても同様で、日本のEEZ(排他的経済水域)に撃ち込むというようなことをやっているわけです。これは明らかに核恫喝で、ロシアがウクライナでやってるのと同じようなことを、今、日本と台湾に対して中国がやっていると。

こういう状況にまで来ているわけです。したがって、日本としては自立ということを前提に、核兵器の時代においてはもう核なしには大国たりえないと。これはジョン・ミアシャイマーも言っています。

まさにそういう時代になっているわけで、日本はかつてないほど不利な立場に置かれている。世界的にも地域的にも、核の脅威というのがかつてないほど顕在化している。高まっている。

私は結論的に言えば、日本独自の核保有というものを追求しなければならない。そういう情勢に来ているとみております。


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