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(3) 最安の・・最終兵器?


 高度10万メートル前後の宇宙空間を巨大な輸送船が飛び廻り始める。プレアデス運輸が空輸を初めて、南米周辺で捕獲された魚を1時間後には旧横田基地、西東京空港や旧厚木基地、大和・厚木空港へ届ける。その日のうちに店頭に魚が並び、輸送の革命が起こった。

輸送機は人形劇の通り「Thunderbird2」と名付けられ、機体デザインこそ、人形劇のモデルを踏襲してはいるが、人形劇では26mの全長を52mと巨大化した。全てはモビルスーツを運搬、搭載を前提に設計された。推力を生み出す動力源には、ノア型輸送船の核熱エンジンを流用している。推力に加え、特に機体離発着時の十分な揚力を得るために、可変翼を付けた。無重力・無大気空間の移動時の大半は翼を折りたたむ。丸みを帯びた機体デザインは、これまでの航空力学の常識を覆してしまった。ベネズエラが核熱エンジンの開発、製造に成功したので、強力な推進力を得る事が出来た。今後のベネズエラの航空機は、今までとは異なる形状へと、変化してゆくだろう。

日本のそれぞれの空港で魚介類を受取ったIndigo blue japan社の輸送部門が,日本全国の自社スーパーに配送し、南半球の「春の魚」を店頭に並ぶ。空身となったThunderbird2には、日本の南部で収穫された、採れたての新米を積み込んで、今回はベネズエラとアルゼンチンへと帰ってゆく。運送会社や流通業者には脅威となる。地球の真裏にある南米の漁業国アルゼンチン、チリ、ペルー、エクアドルから、僅か1時間で新鮮な魚介類が届く時代になった。季節が日本と逆なので、普段店頭に並んでいる魚とは異なる。その為、日本の漁協や漁師にとっては影響は比較的軽微だ。秋のサンマを買わずに春ガツオ、カンパチ、金目鯛等の春に旬を迎える魚が買われ、若干の売上減少が予想される。それでも、九州や北海道の魚を東京に運ぶのと同じように南米から生鮮食品が届くインパクトは物凄かった。大きく変わるのは、Indigo blue系列の鮨屋、回転寿司、スーパー店頭売りの寿司や刺し身だ。春の旬の魚が、秋にネタとなるのは大きい。「当店は冷凍の魚を一切扱いません」とポスターを店舗内に掲げている。確かに味がまるで違う。どうしても冷凍した魚を解凍すると、解凍時の水滴に魚の体液が漏れ出てしまい味が落ちてしまう。世界中から冷凍魚を集める寿司業界、刺し身市場に一石を投じる格好になる。IndigoBlue社は、南米の鮮魚を新たな武器に加えて、消費者に訴求し始めた。   

社長の岩下香澄は、フィリピンの南国フルーツに引き続き、競合他社との違いを打ち出せたと、満足していた。Indigo blue社は鮮度を追及して日本の食文化を牽引してきた。今回の南米海産物は、その方針、企業姿勢の決定打となるかもしれない。ASEANの店舗へ展開してゆくのもありだろう。その一方でモリから指示を受けていた。中国の店舗への展開は、日本政府と協議が必要だと・・。                         ーーー                     G20の会合に参加している各国の首脳も、当事国の阪本首相にさえ、この新型輸送機の情報を伏せていたので、宇宙空間輸送に対しての第一声は、「早くなるのは、まぁ助かるわね・・」程度のものだった。失礼な表現だが「主婦目線」程度でしかない。まさか、モリが一度に10機の巨大輸送船を投入しているとは、阪本も知る由もなかった。従来の航空機体と形状が大きく異なり、パーツ数も少ない。それ故に組み立て自体も楽なものになっており、簡単に製造出来る。製造拠点も日本の群馬だけでなく、ベネズエラ、アルゼンチン、そして火星基地でも建造している。輸送機10機が地球上を飛び廻り始めると、各国の軍部は大慌てとなる。例えば、中国・中南海では・・

「君たちは、あのサンダーバードのどこに脅威を感じているんだ?あんな図体の大きな船など、ミサイルで一撃だろう?」          

昔の日本の歴代の防衛大臣のような事を言うんだな、コイツは・・と、人民解放軍の参謀長は思ったが、グッとこらえた。          

「大臣、我々が確認したところ、あの輸送機は日本からイタリアまで30分掛からずに到着しています。勿論、我が国のどのミサイルよりも早く、そして戦闘機よりも高く飛ぶのです。それに作戦中であれば、新型の宇宙空間用の戦闘機も護衛につくでしょう」                

「いつまでも宇宙空間を飛び続ける訳にもいかんだろう。何れは地上に着陸するのだから、その着陸時を狙って、ミサイルを放てばいい。あんなに大きな的なんだ。外すこともないだろう?」国防相が得意げな顔をしている。 

「米軍ではない、相手は中南米軍なんだぞ!」参謀長は罵倒の声を上げずに堪える、同時に胸の痛みを感じた。

「大臣閣下、話の本論は、着陸時に攻撃可能かどうか、ではないのです。既に、あの輸送機が10機も世界中を飛び回っているのです。おそらく、通常の航空機よりも建造が容易なのでしょう、カエルみたいな図体ですからね」 

「多少は撃墜されても構わん、ということか。ならば宜しい。撃墜プランを立てて、搭載しているモビルスーツごと破壊してしまおうじゃないか」

「大臣、宜しいですか。中南米軍の基地から、ASEANの基地に向かった輸送機を、我々が攻撃できますでしょうか?」           

「それは出来ない。確かに攻撃しようがないな」急に勇ましさを失い、自分の味方が甘かった事に気がついたようだ。この程度のヤツが実際の戦闘時に指揮を執るのかと思うと、背中に虫酸が走った。中南米軍は我が軍の輸送機、輸送船を容易に攻撃しまくるだろう、と思ったが、参謀長はまたもや胸にしまい込む。しかし、軍を統括する大臣がこのレベルでは、嘗てのロシア軍のように、言いたいことが言えなくなるかもしれない、と考えていた。  

「中南米軍は、この輸送機を得たことにより、瞬時に初動部隊としての戦闘機と、必要な物資を運搬できるようになります。これは我が軍には大きな驚異となります。中南米軍にはジェット戦闘機が2000機程度あると推測しておりますが、宇宙空間戦闘機であれば、100機程度で包括できるのではないかと考えております。彼らが近年、プロペラ機や無人ドローン機を増やしているのも、この宇宙戦闘機と輸送機が計画されていた為だと、断定しています」・・爺さん、これで理解してくれよ・・

「100機とした根拠はなんだね?2000機からの戦闘機をそこまで減らしたら、パイロットに余剰が出てしまうじゃないか?」                                       コイツは、中南米軍自体をよく分かっていないで発言しているのだ・・・ 

「100機のジェット戦闘機を世界中どこであろうとも迅速に移動できる、こんな空軍力を持つ国は、ベネズエラ以外にはありません。また、中南米軍のパイロットは300名程度と分析しております。今までの戦闘機の大半はロボットか、AIが操縦しますので、それほどパイロットを必要としないのです。また、これは私の個人的な推測ですが、パイロットの200名以上が月面基地に交代勤務に当たると見ています」 

「100機の根拠が私にはよく分からないな・・参謀長、本件もう一度、説明してくれないだろうか」参謀長は心のなかで項垂れて、将校の一人にこの場を任せた。時間の無駄だと思ったからだ。参謀長は部下に煙草を吸う仕草をして、敬礼して部屋を出た。喫煙室に入ると、無能大臣を忘れるかのように、分析を始める。・・中南米軍はジェット機を作るのを止めるのだろう。2000機が100機になれば、軍事費は大きく削減できる。その分、輸送機を増やし、モビルスーツを増やすだろう。航空戦闘力をこれだけ向上させながら、且つ兵站能力を際限なく高めて、数を減らして軍事費を枠内に抑えてしまう。これだけの絵が描ける人物が中南米軍には居るのだろう・・そう思っていたら、火の付いたタバコの灰が床に落ち、我に返った。   

映像で主席と外相が、日本とベネズエラと会談をしている。どう見ても屈した態度を全身で表現している。日本のフィリピン進出が本格的になった今、我が国には抵抗するだけの能力が既にないのを、聡明な2人は察知しているだろう。実際問題として、中南米軍と自衛隊の連合軍との交戦シュミレートすら、したくなかった。どう足掻いても勝てる見込みすらない・・・、もはや従属しか、道は無いのかもしれない。         

ーーー                     軍事衛星は無くとも、天文台だけは数多く所有している。地上戦力の監視能力は劣化した状態だが、太陽系で何が行われているのか情報収集能力はそこそこ有している。事実、地球上で天体観測能力が最もあるのは今でもアメリカだった。 

今回、インドと日本が天文台を月面に設置すると言っているので、以降はどうなるかは分からない。観測地点として見れば、地球上に比べて大気も殆どなく、地上の天体望遠鏡を軽々と上回るかもしれない。                      日本とベネズエラが一々情報公開するのを止めると、その情報を当てにしていた軍は、慌てて各天文台に支援を訴えた。渋々了解を得ると、天文台毎に仕事を割り振っていった。火星から月にやって来る船団数やその到着の間隔、地球上に投下する鉱物資源の量や、火星で製造した航空機の台数等を把握し続けていた。 当初、火星から月への移動に有した期間は輸送船の台数を増やし、エンジン数を増やしたことで、、3ヶ月から2週間おきとなり、今では1週間となっていた。投下する大気圏突入ポッドも数が毎度のように増え、今回の投下作戦では2機のサンダーバード2と5機のゼロが、無塗装状態で投下され、ベネズエラのミランダ基地に降り立っていた。モビルスーツ同様に地上で、外装や内装作業を行うのだろう。日々頭を抱える。圧倒的なまで軍拡を成し遂げながらも、その勢いを止めようともしない。この圧倒的なまでの軍事力格差を生み出しているのが、地球外にあって、その溝を埋める手段が今のアメリカは勿論、出来得る国があるはずもなかった。  

別の天文台からの情報として、ベネズエラもしくは日本が、木星の衛星まで到達しているのが新たに確認されたという。米軍の分析官達は、この新たな情報に絶望する。ベネズエラとの交戦は異星人との戦闘と同じではないかと。もはや、そんな内容で報告書を纏めるしかないだろう。分析官達は笑いあった後で、意気消沈する。「これで、アメリカの没落は確定した」と、この中の誰かが、腹をくくって報告書を作成する必要がある。

ーーーー                 

記者会見の場で、日本人記者が率先して切り込んでゆく。他国の記者では聞き辛いだろうと、若干の忖度をした。阪本首相も越山大統領も、無下には出来ない、ネーション紙の阿部記者だった。 

「昨今、様々なメディアで制空権、航空優先という表現で中南米軍の優位性を各メディアが書きたてるようになっています。大統領は、この点をどうお考えになっていますでしょうか?」    越山が阪本に会釈をして合図を送る。阪本が僅かに顎を引いて了解の意向を越山へ伝えると、越山がマイクに向き合った。

「基本原則になるのですが、我々の軍隊では制空権と航空優位という用語は、日頃使っておりません。我軍のいかなる書式でも利用していません。中南米軍は軍隊ですが、自衛隊から派生して出来た組織ですので、自衛隊法がベースとなっているのは、皆さんもご存知かと思います。先ずは攻撃を仕掛けて来た相手から身を守る防衛に徹します。防衛する上で、侵略者・攻撃者を攻略せざるを得ないケースも出てきます。これが自衛隊には出来ない、敵基地攻撃能力を含めた、武力行使に当たる箇所です。その一方で、中南米軍は従来の軍隊では無いのも皆さんはご存知だと思います。相手の攻略のためならば、あの手この手を使います。空がダメなら、陸海から試すなどと、その場面場面に応じて臨機応変に対応できるように、数々の戦術バリエーションを用意しています。

新たに戦闘機ゼロ、輸送機サンダーバードも加わった今、新たな戦術バリエーションが大量に追加されました。従来の兵器や武器のコンセプトのままであれば、まずは制空権を抑えるのがセオリーだったのかもしれません。今だから言えるのですが、中南米軍は発足した当初から、ユニークな軍隊でした。先の大戦中に確立された、従来の戦術や兵法といったものを疑いながら、軍のコンセプトを作リ上げて参りました。制空権なども同様です。各国の軍隊が信奉する傾向を、恐縮ですが懐疑的に捉えています。パターン化した戦術に見合った兵器や武器で武装されているので、穴だらけなのです。特定の国の武器に頼る傾向があるのも、同じ問題を抱えてしまいます。ベトナムやアフガニスタンがなぜ強いか、それはユニークな存在だからです。決して米国の武器が有効では無かったのが立証されています。制空権を語る前に、特定の国の戦闘機に頼ってしまっている現実にも、目を向けるべきでしょう。決して完全ではないのです。穴は幾つも見つかっています。中南米軍は自衛隊の頃から各国との防衛協定の中で各国の兵器を拝見し、分析を続けています。空だけでなく、海にも、陸にも穴や漏れが幾つも存在しているのを知っています。それ故に古の戦術には懐疑的なのです。現在進行系ですが、今後は、地上だけでなく宇宙空間での戦闘ノウハウを身に付けて参ります。無重力と空気抵抗のない環境下で、最適な兵器開発をして参りますので、自ずと兵器の種類も内容も変化してゆくでしょう。各国の軍隊が困惑なさるのも、仕方がないと思います。我々は、定型的な軍隊になろうなどとは、全く考えていないのです。

阿部順子さん・・大変、失礼致しました・・阿部記者に逆に伺います。どこかの軍関係者、もしくは軍のOBでも結構です。中南米軍に制空権を握られたと言っている方は居ますでしょうか?そうですよね、プロであれば軽々しい発言は控えるのが当然です。大前提として、今は平時なんです。また、我々中南米諸国には「侵略」という言葉は不要なのです。制覇や覇権とは無縁なのです。故に、そのような不謹慎な記事と話題は、軍事をあまりご理解されていない評論家や政治家が、いたずらに事を荒立てているだけ、もしくは雑誌や新聞の売上を上げる目的のゴシップ記事だと受け止めております。私の中では読み飛ばし対象の記事となっています。

そうですね・・AIに確認して見ましょうか。ベネズエラ政府としての見解を申し上げておきますね・・あぁ、やはりそうですね。我が国の分析情報ですが、マスコミにコメントを求められて、得意気に我が物顔で話している専門家や学者が確かに多いようです。ベネズエラとしては、必要としない方々ばかりです。識者としては見ておらず、痴れ者、異端者としてカテゴライズしています。AIも、読む価値はゼロと判定しています・・」 

阿部記者が、けむに巻かれたような顔をして悩んでいると、中東の記者が引き継いだ。    「まず防衛してから、必要とあれば攻勢に転ずる事もあると大統領はおっしゃいました。 例えばの話です。貴国に取っては友好国でもあるビルマとタイが紛争を起こしたとします。これもありえませんが、このイタリアを、NATOに所属する国が攻めてきたとします。中南米軍はどのように対処するか教えて下さい」           

「同じ中東の国同士でも可能性としてはありえるケースですので、基本原則で回答させて頂きます。まず、隣国同士で紛争が起きる可能性が生じた場合は、紛争が起きる前から仲裁役として介入させて頂きます。双方が友好国であれば尚更、そうするでしょう。但し、ミサイルを打ち込んだとか、空爆を行ったとか、何らかの軍事行動が先行した場合は、相手が誰であろうとも、中南米軍は徹底的に抗戦致します。相手が撤退しても、謝罪の姿勢すら見せる気配がなければ、即座にカウンター攻撃に転じます。最短時間で、事態の収束方法を見出して、相手が白旗を揚げるまで、手を緩めずに圧倒してゆきます。因みに、中南米軍は「殺傷しない軍隊」と世間では呼ばれているようですが、皆さん誤解されています。間違いです。はっきりと申し上げておきますが、ゴム弾や熊よけスプレーばかり使う、軍ではありません。相手が常軌を逸し、正常な状態では無いと判断した場合は、例え友好国であろうとも我軍が保有するありとあらゆる殺傷兵器を利用します。これまで、数多くの作戦に参加してきましたが、どれもこれも、実弾を使うまでもないだろうと判断したからなのです。中南米軍に歯向かっても実弾は使わないと思い込まないで下さいね、どうか、お願いです」   

阪本首相が越山の隣で笑いを噛み殺している。実弾を大量に消費したのに、ペイント弾だけの中南米軍に敗れたイギリス軍には、越山のこの発言は形無しだっただろう。

復活した阿部記者が、再度戦線に戻ってきた。 「新型戦闘機も、輸送機も、ほぼ宇宙空間を高速移動が可能となりました。火星と月の間は輸送船が行き交い、月面基地では、戦闘機の訓練も始まっています。この事実を踏まえて「中南米軍が制空権を得た」と論じる記者は「軍事の専門家ではない私を含めて」多数を占めています。私達記者は中南米軍が侵略をする組織だとはこれっぽっちも考えておりません。逆に、中南米軍に歯向かう事はもはや出来ないだろうと、抑止力の観点で記事を纏めています。少々おこがましい物言いですが、世論を啓蒙しているつもりで居るのです。中南米軍の軍事力が、相手が攻撃を手控える抑止力に繋がっているという点ですが、大統領はどのようにお考えでしょうか・・」
                      
「抑止力という表現は、主に核を所有するという観点で用いられてきたと思います。
中南米軍は地球上では、核兵器を製造しない、所有しない方針を取っています。世界では核融合技術が確立していないので、核廃棄物がどうしても生じるから、というのも理由の1つです。中南米軍が原子力空母や原潜で生じる核物質は、全て火星に持ち込み、活用します。これも地球を汚したくない一心で、勝手に決断したのです。さて、ここからは日本連合の一員として、発言させていただきます・・・」     

越山は水を一口飲んでから、隣の阪本と視線を合わせた。阪本が「やっておしまい!」と言うような表情をしている。越山は微笑み返して、阪本の意を汲み取った。      

「私は、来年から北朝鮮の総督に就任しますので、来年はこのG20の場に来ることも無いので、思い切って申し上げます。G20の場に集まってきている国の大半が、核保有国です。
我々は、核保有国が核保有を無意味だったと理解されて、核兵器を廃棄し、原発を停止するその日まで、永久に訴え続けます。地球上から核撤廃を達成するまで、あらゆる手段を講じます。どの時点で核保有国が核の所有を諦めるのか、それは皆目検討もつきません。はっきり言って、分かりません。それでも、地球上からの核廃絶は、被爆国である我々日本人に課せられた責務だと捉えています。ベネズエラは軍事面を宇宙圏も含めて、未来永劫まで永久に強化し続けます。日本はテクノロジーとアイディアを磨き続け、北朝鮮がこの2カ国をしっかりと支え、そこに世界中の賛同いただいた同盟国に加わっていただく、そんな連合体制を構築しようと考えています。月面基地をインド政府と一緒に稼働させようとしているのも、この体制構築の一部分になります。
核保有国の中には、核の優位性を未だに信奉している国が、あるかもしれません。 
日本連合が考える方法や手段は証しません。その都度、公言する事もないでしょう。現時点でもそうなのですが、新しい技術や製品や兵器もとにかく数が多すぎるので、全てを公表するのを止めました。公開する労力を惜しんで、大願を成就する為の手段や開発に時間を費やしたいのです。それ故に、核廃棄を私達から強要する事はありません。各国が自主的に廃棄を決断される日をいつまでもお待ちしているだけなのです」     

越山が笑みを浮かべながら、記者の顔を見回し、話を続けようとしたら、阿部記者が怒っているのが見えた。

「ベネズエラ火星基地の存在に全く触れなかったように、順ずると仰っているのですか、大統領閣下!」阿部記者が非難めいた口調で、越山に食って掛かってきた。越山は矛先を少し変える様に仕向ける事に決めた。
                      「ええ、そうです。発表の度に、株価が上がってしまい、困り果てているのが事実です。各国が技術的に追随出来ないのなら、情報公開を多少はサボってもいいのではないでしょうか。私たちは最終兵器や世界征服を企んでいる訳ではなく、単純に地球上からの核撤廃だけを願っているだけですので」 

「何らか手段で情報公開を続けていただけるよう、お願い致します。これだけの技術力がある日本連合なのですから、様々な手段を講じる事ができてしまうのです。大衆ですら、あれこれ想像して、有りもしない手段を口にするようになっています。これは避けるべきだと考えています」 

「確かにモビルスーツを登場以降、アニメの世界と混濁して理解される傾向にあるのは、私達も憂慮しているのは事実です。だからといって、中南米軍はコロニー落としや、小惑星落としを核廃棄のカードには使いません。アニメの世界では、人類の半数が居なくなったんですよ。そんな戦争犯罪行為には与しません。原発反対だからと言って、原発の破壊工作もしません。地域住民の方々が死に直面するなんて、考えもしません・・」 

この2人のやり取りではキリがないと察した阪本が、マイクに向かう。それを見て、越山も発言を控えた。    

「軍事のお話でしたので、日本としては差し控えておりましたが、皆さんが疑問に思われるのも仕方がありません。越山の後任の大統領は、身内にも内緒で火星基地を建設してしまい、5年間もの間、誰にも言わなかったんですよ。奥さんにも、私にもです!挙句の果てにモビルスーツをこっそりと実用化していましたからね。人を驚かして喜んでるんですよ、アイツは!」  そう言って、場の流れを変えた。            

「実際、ベネズエラの火星基地では様々な研究が行われているようです。従来の航空力学を根底から覆した 人形劇から飛び出してきた輸送船や、核動力源の技術が備わった各種のモビルスーツ開発にしてもそうです。もし、ベネズエラが核融合に成功したら、モリは地球上でホワイトベースやモビルスーツを飛ばすんじゃないかと、私も正直の所、少なからず期待を抱いています」そこで記者たちの顔色、反応を確認して先を続けた。「プランB」を話す必要はなくなった・・と阪本は判断した。             

「地球の上空を戦艦やモビルスーツが飛ぶようになると、各国の軍は困るでしょうね。宣戦布告の1時間以内に、大気圏外や成層圏のかなたから、ミサイルや隕石が雨のように降り注いできて、既存の防空システムを難なく無力化していきます。戦闘機とモビルスーツが航空部隊と地上部隊を壊滅させながら、大統領府、もしくは隠れ家にロボット部隊が大量に降下していきます。 核の発射ボタンを奪ったら、マイクの前で負けたとその日の内に口にするのです・・。これが私なりに想像する核保有国への攻撃方法かと思いますが、中南米軍にはそれだけではない兵器も武器もあります。越山大統領が言われたように、既存の抗戦術とは異なる・・そう、異星人を相手に戦うようなものではないでしょうか。     
ベネズエラが同盟国で良かったと心から思うのと同時に、友人でもありながら、彼に恐れすら感じるのです。何しろ、一人でワシントンに殴り込みを掛けるんですから・・。アメリカの方々に於かれましては、その節は大変申し訳ございませんでした」 阪本が深々と頭を下げた。     

「首相、いま、隕石が降り注ぐとおっしゃいましたよね?」 ネーション紙の阿部記者が、周りに押されて質問すると、「あっ、しまった」といった表情をしながら、阪本が後頭部に手を回した。日本人にしか分からない、リアクションだ。  

「すみませんでした。全て私の独断で他国の軍隊を想像しておりました。ただ、越山、櫻田にしても、モリにしても、日本政府としては攻撃手段や防衛策については一切話さないと決めています。それも、中南米軍の戦略が随時変更しているからです。防衛協定を締結している国の近隣で何かが起これば、直ぐにマニュアルが変更されていきます。越山が先程、可変的だと申し上げたのはそんな意味も含まれているのです。        隕石投下については、私の完全な持論ですが中南米軍は間違いなく考えていると思います。そう思った理由は、次期大統領が、「ど」の付くケチだからです。火星のアステロイドベルトで隕石は幾らでも手に入ります。勿論タダです。気候変動を齎すような巨大な隕石ではなく、基地の大半を破壊してしまうサイズの隕石を、大気圏の摩擦熱で燃える配分を考慮して選んでおきます。AIが瞬時に質量計算の判定をしてくれるでしょう。その隕石をモビルスーツが回収して、輸送船に積み込み、月面基地に投下専用の武器として倉庫に置いておくのです」阪本が越山を見やると、越山が口に手を当てて驚いた表情をしている。 

「どうやら、大枠は当たっている様ですね・・。ではツメに行きましょうか・・。何言ってんのよ、この位の事はどの国だって当然考えてるわよ」越山が止めてくれと言っているが、阪本は続けた。 
「大気圏突入ポッドのコントロール能力を各国は分析していると思います。あれだけの能力があれば、基地や戦艦をピンポイントで狙うのは造作ないでしょう。物凄い計算プログラムだと私も睨んでいます。隕石一つでは、迎撃ミサイルに落とされるかもしれませんが、隕石の落下速度マッハ30を超える速度のミサイルでなければ落とせません・・」・・マッハ20が現行のミサイルの最高速度だった・・        

「大気圏突入して地上に到達するまで5秒も掛かりません。狙っている間に地上に直撃します・・。モリのことですから、全く同じコースに、若干の時間差で複数の隕石を投下するでしょう。同じポイントとなる対象・・おそらく、滑走路や兵器庫でしょう。大気圏で燃え尽きなかった隕石の部分が地球に衝突すれれば、キノコ雲が上がるのと同時に地面に大穴が出来ます。こんな安上りで効果的なんだから、彼が使わない訳ないわよね? それに、どのアニメもなぜ小型隕石を武器に使わなかったのかしら? 飛躍しすぎでしょう、いきなりスペースコロニーであり、アクシズ落としになっちゃうんだから。まあ、ヤマトの遊星爆弾のパクリになって、訴訟が頭をよぎったのかもしれないけどね・・。ジャブローに小型隕石500発も投下すれば、連邦軍は総崩れ、ジオン軍の圧勝だったのに。いきなりコロニーの住民を殺害してコロニーごと地球に落として、人口の半分が死亡っていうのは、さすがに鬼蓄の所業よ・・どう?越山大統領閣下、合ってるんでしょ?だから、MS-01に大気圏突入ポッドの投下を任せてるのよね。あれは練習を兼ねているんでしょう?」

「そんなの、言えませんよ・・。お願いです、もう勘弁して下さい・・」

「と言う訳です。どうやら大正解だったようですね。皆さんも、自国内に隕石を落とされないように気を付けましょう〜」阪本がカメラに向かって手を振ってから、続けた。

「来週の国連総会の演説では、フィリピンで実証実験中のアンモニア発電を環境対策プランとして、フィリピン、ベネズエラと3ヶ国の共同提案としてお話させていただきますので、そちらもご期待下さい。では、持ち時間が終了したので、次の国にバトンを委ねます。ご静聴ありがとうございました」阪本がお辞儀して立ち上がると、慌てて越山が後に続いた。 会見場の退出口には、カナダの首相が呆然とした顔をして立っており、阪本がハイタッチしようと手を挙げたので、カナダ首相も高く掲げてハイタッチすると、そのまま阪本と越山の後ろ姿を呆然と見送った。 この一部始終がニュースで流れた。

ーーーー

「アクシズ落としって、何?  ジャブローって、何?」   
テレビを見ていた茜が、妹の遥に聞いたのだが、遥は助け舟をあゆみに求めた。すると彩乃がインターセプトして、任せておけという顔をして答える。    
「アニメの設定なんだけど、地球連邦軍とジオン軍に分かれて人類同士が戦っていた。これはいいかな?」

「うん。コロニーを落としたのはジオンだよね?」

「そうなのよ。ジャブローっていうのはアマゾン流域のブラジルの地名なんだけど、そこに地球連邦軍の本拠地があるって設定だった。ジオン軍はこの連邦軍の本拠地をエリアごと破壊して、戦争を終わらせようとした。だけど、コロニーが落ち始めて連邦軍がコロニーを破壊しようとするの。コロニーは分裂して落下軌道が変わって、シドニーに落ちてしまう。 ジャブローは助かったけど、地球の総人口の半分は亡くなりましたって話。 そのジオンとの戦いが終わった後で、シャアが率いるネオ・ジオン軍がまた戦争を始めて、今度は増えすぎた人の数を減らす目的で、アクシズっていう小惑星を地球に落とそうとするんだけど、アニメの力で落ちないで終わる。茜が知ってるシャアもアムロも、その小惑星の爆発と共に死んだことになっている・・」

「そうなんだ・・」

「シャア専用ザクの登場で、記者さん達もガンダムの勉強を始めたんだって、今度はどんなモビルスーツが出てくるのか、どんな兵器を作るんだろうって理解するために。それでアクシズとかジャブローとか、誰も説明を求めなかったのかもしれない」         
あゆみ自身は困った事になったなと思いながら回答する。次のモビルスーツなんて、考えていないからだ。これだけあれば十分だろうと・・

「ね、次はどんなモビルスーツを考えているの?」ベネズエラからやってきた玲子があゆみに訊ねた。「いや、それが無いのよね・・」と言い出すと「水陸両用モビルスーツを投入します!」と彩乃が胸を張った。母親達は何が何だか分からないまま、拍手している。あゆみがキョトンとした顔をしてから、嫉妬心が擡げてきた。「また、勝手に彩乃と企んでた!」と察した。玲子があゆみの表情を理解したのか、肩に手を当てて微笑んだ。そうだ、こんな事はしょっちゅう様々な場所で起きているのだ。あのエロオヤジが誰にでもいい顔をするから、こうなってしまう・・   

彩乃がタブレットを見せながら、嬉しそうに話している。デザインまでもう決まっているのかと、彩乃を恨めしく思った。

(つづく)

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