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24章 特大ブーメラン(1) カテナチオ発動  (2025.2改訂)

会談を終えた日本の議員達が天安門広場へやって来た。議員達がビルマ兵で囲まれているのでメディアも質問を出来ないが、記録の為にアジアビジョン社の吉井カメラマンだけが撮影を許され、議員の後方から小型ムービーで撮っていた。
後で吉井カメラマンの映像と自分の映像を張り合わせる。ブルートゥースで配信されている吉井のカメラの映像をスマホに表示しながら、香椎ユーリ記者は自撮りカメラに向かってコメントを発し続けていた。吉井が献花の順番を待っているモリの顔を捉えているので、香椎は発言する。

「1989年、天安門事件勃発時、モリ議員は学生でした。小学校の頃から中国を愛し、歴史を学び、シルクロードを旅するのを夢見ていた青年が、
民主化を求める群衆に刃を向けた中国政府と、他国よりも先駆けて借款援助を再開した日本政府を憎悪の対象に転じたキッカケとなった日です。ご覧ください、当時の映像を思い出して居るのでしょう。涙が溢れそうな状態になっています。
献花を終えた夕夏議員、由布子議員、咲希議員が夕夏議員を中心にして横に並び、手をつなぎ、一礼しました。あっ、歌い出したのでコメントを一時、止めます」

夕夏がアカペラで歌い出したのはマツタセイコ氏の「瑠璃色の地球」だった。
「天安門広場でアメイジング・グレイスを歌うつもり」と昨日は言っていたが変更したようだ。宗教色の薄い方が相応しいと判断したのかもしれない。

香椎記者は何も言わず、周辺の日本人記者の顔を撮り出す、記者達の殆どが泣いていたからだ。香椎自身も泣いていた、思わず鼻をすする自分の雑音をマイクが拾ってしまったので、慌ててハンカチを鼻に当てた。 曲の2番目から、由布子と咲希のコーラスが加わり音に厚みが出ると、香椎の涙腺が決壊した。

「・・争って傷つけあったり 人は弱いものね
だけど愛する力も きっとあるはず
ガラスの海の向こうには 広がりゆく銀河
地球という名の船の 誰もが旅人                       一つしか無い、私達の星を守りたい

朝日が水平線から光の矢を放ち、
2人を包んでゆくの 瑠璃色の地球」

このエンディング部の3人がハモった状態で歌は終わった、感動の余韻を周囲に遺しながら。
3人が手を繋いだまま一礼してから、3人で肩を組んで抱き合っている。
「良い同級生に恵まれましたね、先生」と香椎記者は思う。              

世論と中国がどう反応するのか、まだ分からないが、地球という星を対象にしている楽曲なので、反体制的な要素はまず考えられないだろう。
ましてや中国政府を批判する内容でもない。
香椎なりに敢えて分析するなら、曲中に登場するカップルなり、当事者として歌っているディープ・フォレストのメンバーが、死者に対して「恋愛が自由に出来る、そんな自由な社会を私達が作って参ります」と宣言したと仮定した場合、香港でも顕在化した様に天安門広場で民主化を完全否定した中国共産党を、間接的に非難した歌・・と、こじつけるのは強引だし、かなり難があると、ハンカチで涙を拭いながら香椎記者は考えていた。            

日本の少数野党の8人は、先程まで中国政府に対峙して真っ向勝負に挑んでいた。壮絶な神経戦を強いられたであろうと判明したのは、会談後の国家主席と前田元外相、越山元厚労大臣の共同会見の場だった。タフなモリが事を終えて眠り込んでしまった程だった。モリの寝顔をカメラが捉えたのは、史上初かもしれない。それに中国の人々は「あまり強い人ではない」と勘違いしたかもしれない。 

壇上で前田外相が発言する際、前提条件を述べた。                  

「私達は政権を担っている立場ではありませんので、どうしても日本の全ての地域を担う立場ではない、まだ小さな政党なのだと再三会談中にご説明差し上げました。
しかし、社会党知事と市長の各県各都市と、9人の国会議員の県は概ね統率でき、何れ全ての都道府県の長が我々の仲間となった際には、出来うる事項も今以上に増えるかもしれませんと申し上げ、ご理解いただきました。
一方で、我々が提供できる経済的な支援も、私達の協力会社様が提供されるものが大半であり、企業買収以外の件には関与できない、というのもご理解いただきました。では、我々がお約束した事項を私からお話し致します」 

前田はバラ撒いた「餌」を説明し始める。   一つが厦門湾内に中国専用の石油備蓄基地を共同で建設する事だった。         
与那国島の沖合いに建設を計画している備蓄基地の姉妹版となる。           
この場では明かされはしないが、石油を中国に提供するようイランに提案したのはモリだ。安価なイラン産原油をプール出来る専用の貯蔵施設を持つことで、中国内での燃料の使い勝手と輸送の効率化向上が想像できる。      

2つ目が、IT大手のバイドゥと自動車大手の吉利が共同出資してEVメーカーを設立したものの価格競争に耐えられず廃業した「極越」を、プルシアンブルー社が買収を前提として隠し負債がないか、親会社による資産横領等がなかったか等、身体検査に乗り出すというものだ。
極越の各工場内を視察した上で「使える」と同社が判断すれば、救済型の買収に踏み切る。プルシアンブルー社の悲願でもあるEV車の生産を中国で始めるという内容だった。       

3つ目が、中国のスマホやPCメーカー向けに、レッドスター社の2ナノの汎用半導体、ダイオード・コンデンサ・LED・抵抗等を提供するというものだ。プルシアンブルー社がアジア経済圏に特化するので、それ以外の欧米・南米・オセアニア・アフリカ、そして国内市場で製品競争力を付けて頑張って下さいという話だ。    

これら「餌」に対する、しらさぎ会派の「見返り」は誰も想定していなかった極めて衝撃的な内容だった。ここから説明役が越山元厚労大臣に変わった。

1つが、社会党知事県、社会党市長等の市町村では、外国籍の者は土地や建物を購入出来なくする。また、各地の大学、高校では留学生を認めないとした。但し例外があって、日本人が受けるのと同じレベルの正規の受験をパスした者は、入学を認めるとした。      
越山が説明を続ける。           

「住宅費と電力費を削減し、居住者の生活に潤いを実感いただき、人口減少に歯止めを掛ける政策を我々しらさぎ会派は打ち出しました。
日本の一部で見られる海外籍の方が土地を買い漁っている状態は、国土が狭く、居住地が限られる我が国の不動産事情では看過できない話となります。日本人が手に入れたい土地が見つからなかったり、生まれ故郷に住めないとなるのは本末転倒な話だと考えます。           

大学・学校に関しては、日本人の入学生が減少したので、海外の若い方を補助金を出して入学を認める学校が非常に増えています。その手の学校法人は、明らかに学校経営能力そのものが無いのですから、国や行政の支援をスッパリと打ち切り、廃業すべきだと私達は考えています。とここまで申し上げてまいりましたが、我が国の外国籍の大半を中国籍の方が占めているのが実情ですので、この流れを断ち切りたいと政府の皆様方に説明し、ご理解いただきました。

2つ目が我々が国会で法制化を目指す、春節期の中国人渡航者の期限限定的な入国停止措置です。
昨年の春節時の中国からの渡航者受け入れが、結果的にコロナ蔓延の要因となったのは皆さんもご存知の通りです。
第二第三の伝染病が冬期に生じる可能性を私自身が重要視しているのもありますが、中国の皆さんに同じ悲劇は繰り返したくないと再三ご説明して、ご理解頂きました。
差し当たりまして、次回の2月春節から3年間を対象として渡航者の方の受け入れを停止する法案を、年内中を目標に成立致します。
3年の猶予期間を頂戴できれば、直ぐにオーバーツーリズムに陥ってしまう日本の観光地の脆弱な状況を、数年後の大勢の観光客を受け入れが可能な状態にする為の強化期間に当てる、という側面もございます。            

並行して、季節性インフルエンザや鳥インフルエンザ等の情報共有も含めて、中国衛生局と適時情報を交換し、早期のワクチン製造や薬剤の開発と生産に、富山県の製薬会社各位様の協力と支援を仰ぎたいと考えております。

最後となりますが、この法案の法制化に、元厚労大臣として私は率先して取り組んで参る所存ですが、中国の皆さんの温かいご理解を得られましたので、今はかなり自信を抱いているのが正直な所です」 

そして、習々近平主席が話し出す。
「過分な提案を頂きました事に、先ずは御礼申し上げます。プルシアンブルー社のサミア社長とレッドスター社のアリア社長からもビデオレターを頂き、それそれのトップが本気でいらっしゃるのがよく分かりましたし、非常に心強く感じている次第です。 
今、我が政府は買い替え支援策を各製品ごとに推進しておりますが、スマホやタブレット、PC等の精密品については対象から一時外し、精密半導体を内蔵した新商品を対象にして、改めてキャンペーンを打ち出したいと考えています。

日本の皆さんの見返りの小ささに、私達が驚いたのが正直なところです。本当にこの2つだけで良いのですか?と何度も私も確認したほどです。 

今回、皆さんがお持ちになられた日本の中の同邦人のデータを拝見したのですが、我々の同胞がこれだけ増え続けていたとは露知らず、お恥ずかしながら全く把握しておりませんでした。
「日本人を地球上から絶滅させない、それを使命に掲げて議員になった」と亮磨議員がおっしゃられたので、若い彼をそこまで追い込ませてしまったかと強く反省している次第です。    

某国の前大統領が、コロナの発生源は我々国内の研究所だと度々言われましたが、そこは明確に否定しつつも、昨年の春節の頃に日本を訪れた同胞達がウィルスを日本国内に拡散したのは紛れもない事実だと認めるのと、この場をお借りして心より謝罪申し上げます。
日本は島国ですから、ウィルスの侵入に対して本来は堅牢な立地であるのは間違いないからです。我が国もコロナの変種や未知のウィルスの蔓延には細心の注意を払ってはおりますが、冬季の渡航のみ抑制していただければ大丈夫ですと、越山議員から力強く言われたので今は安心しています。
そうそう、紅葉の頃に北海道と沖縄への日本への訪問を招待頂きました。  その際は家内と共に伺いますとお答えいたしました。皆さんとの友好関係が末永いものと成ることを願うのと同時に、そうでなければならないと自念している次第です・・」           

日本に滞在している中国人が、統計だけでも外国人300万人中80万人に及んでいるのを、国家主席が知らぬはずが無いのだが「全く知らなかった」と発言したので、誰もが白地んだ。      
また、自分達の過剰な補助金政策が国内EVメーカーの過当競争を引き起こし、鳴り入りもので創業した極越社を廃業に追い込んだ尻拭いをプルシアンブルー社が行う件では、礼の一つも口にしなかった。さすが、自分達の失敗は決して言及しない中国共産党だった。           

その一方で、事実上の中国人排斥を中国政府に容認させた訪中団は、大金星を上げたと香椎記者は思った。 
その為なら石油備蓄基地建設だろうが、汎用半導体の提供販売だろうが、潰れたEV企業買収など安いものだと、プルシアンブルー社の関連会社職員である香椎記者は頭の中で試算していた。 
日本人の大半が、しらさぎ会派を支持するのはこれで間違いなくなった。逆に、中国寄りの支援策を講じ続けてきた与党の立場は完全に無くなったからだ。            
在日中国人80万人という法外な数にしてしまった責任が永久に与党に付いて回る。それはそうだろう、東京の隣の山梨県の人口並にしてしまったのだから。
このまま中国寄りの与党に任せていれば山梨県人口では済まず、千葉県並み・埼玉県並みに到達するのも時間の問題だ。何しろ、大陸には10億人以上の潜在力があるのだから。
また、昨冬にコロナを国内に蔓延させた「実行犯」が、旅行者の購買力(インバウンド)目当てにホイホイと受け入れた間抜けな与党だと見做されるようになった。そんな政府を「誰が信用する?」という話に完全に置き換わる。それもたった8人の議員の1度の訪問で、である。   

「パパさん、お疲れっすね。寝てますよ・・」
吉井カメラマンが囁くので、香椎記者がモリを見ると、隣に座っている息子の肩に頭を載せて、思いっきり寝ていた。          
この映像が拡散するのだが、訪中団の事実上の長として全てを出し切ったのだろうと好意的に解釈される。その対比の様に共栄党の4議員の真剣な眼差しが取り上げられた。与党のじいさんばあさんなら、揃って爆睡カマしているのが関の山だ。そんな与党議員との対比する投稿動画が大流りとなっていた。    

「与党の2世議員とは格も質も全てが違う」
「党首に相応しい」等と亮磨は評価された。

「訪問団の影のMVP」と評価された夕夏・由布子・咲希の3議員は
「与党の芸能人議員を始めとする女性議員なんかと、比較するのも烏滸がましい。アイツらは何の役にも立たない、無駄飯食らいだからな」
「共栄党の秘密兵器!」
「とにかくサイコー過ぎる」と褒められっぱなしだった。

確かに、従来の議員からは該当者が見当たらない程、全く異なる能力を発揮してみせた訪中となった。「社会党・共栄党が次の選挙で大躍進するに違いない」と述べ始めた評論家や識者も見られるが、8人は次回の選挙を全く考えていない体でいる。           
「やることがいっぱいあって、其れどころじゃないです」と亮磨議員も事あるごとに口にしている。                                     

「・・あ、そうか。私が選挙に立候補すればいいんだ」                
香椎記者が口にしたので、吉井カメラマンが 「はぁ?何言ってんすか?」と間髪入れずに突っ込んだ。  

ーーーーー

ニュージーランド首都に本拠地のあるウエリントン・フェニックスに杜兄弟4人が合流して4日目、公的には祖母だが、2人の実の母でもある金森鮎富山知事の金・月・火曜日の有給休暇も終わり、明日日本に帰国する。

一行がニュージーランド入りした際には、駐留中のモン族のビルマ兵達が地元の大工さんの建設に加わってくれており、2棟の住宅が完成していた。
人数でスピードを上げたので、完成まで3週間掛からなかったらしい。1棟は杜兄弟の住居と成るが、隣の棟はモデルハウス兼、兄弟達の護衛のモン族の宿舎を兼ねる。         

「タンニ中将の部下たちが選定したので、能力的な問題は全くございません」とダフィー副大統領からの書簡を見せられたが、鮎は溜息を付いていた。  
確かにアフガンの英雄部隊に混じって早朝訓練をしている護衛の女性兵の光景から、その強さは伺いしれてはいた、しかし、だ。
「何故こんな美人さん達が未亡人のままなの?ビルマの男たちは何をやってるの?」と率直な疑問を抱いていた。この子達の父親なら、1日と保たずにベッドに連れ込んでいるだろうと思った。 

孫たちの食事の準備をするものだと思っていた鮎は、4人の完璧な家事により何もすることがなく帰国の途につく。
やった事と言えば、兄弟達の専属護衛ならぬメイドが、いつの間にか決まっていたので、   「それは日本に来てから考えよう」と理由も言えずに押し通した。
どうせ、自分が居なくなれば止める者が居なくなるので、元の木阿弥となるのかもしれないが。 沖縄に居るシャン族のアリアに聞くと、

「モン族は後発参入になったから、息子さん達をターゲットにしたのかもしれない。亮磨さんの護衛達もモン族が選定してビルマから北海道に向かおうとしているって聞いたから」と言われて頭が痛くなった。          

まさか、初めて付き合う女性が未亡人という組み合わせが、エロ小説のタイトルの様な俗なものばかり鮎の頭に浮かんでくる。それなのに、護衛役が非番の2人とこうして飲んでいると、凄く素敵な方たちじゃないの、と納得してしまう。
AIが父親の好みを分析したデータが有るとも聞くし、そんな基準で選定された人達なのかもしれない・・

「あれ?3人で飲んでるんだ・・」
鮎の実子の火垂が2階から降りて来ると、冷蔵庫を明けて牛乳パックを取り出して、自分のマグカップに入れて飲み始める。兄弟達はニュージーランドの乳製品と肉の旨さに完全に魅了されてしまっていた。ヤンとジルバ達には試合以外の日は魚料理メインでお願いした。練習帰りにハンバーガーショップやファミレスにチームメイトと寄ってから帰ってくるので、肉ばかりになってしまうのだ。

「センセイとお別れの夜ですからね」
ジルバがニュージーランドワインの入ったグラスを鮎に向けて来るので、鮎も慌ててグラスを持って重ね、ヤンとも重ねる。         

「程々にしときなよ、それ高いボトルなんでしょ?・・あれ、父さんだ。天安門広場って献花なんかする場所だっけ?」 
火垂がテレビを見ながら言う。
ニュージーランドのニュース番組が訪中している一行を放映するのも、ビルマとの軍事提携が着々と進んで居る中で、関心のあるニュースに該当するからだ。当事者の親子が関わっていればニュージーランド政府もどうしても注目する。   

「異例中の異例よ、多分。どの国の政治家もやったことはないはず」          

「それだけの相手だって、中国が認めたのかな?」火垂がテーブルに座ってテレビを見始める。                    「これで、お父さんは与党を籠の鳥にしてしまった。籠の鳥っていうより、セリエAとかイタリア代表で言うカテナチオって言ったほうがいいかな?」

「どっちも相手チームが手も足も出ない状態になるっていう話だよ?」

「その位、ワタシだって知ってるわよ。今じゃあなた達のサポーター代表だからね」 
火垂が笑った目で母を見る。
この場では祖母と孫として、互いに演じきる。そんな事をしなくなるのもそんな先では無いような気もするのだが・・ 

「お父さんは今回の中国人優遇措置の撤廃を現代版・籠城戦って呼んでるんだって」   

「籠城するのは与党だよね?手も足も出ないんだから」                

「そうね。これだけ最後に説明しておくね。お父さんの作戦通りになったら、4人で褒めて上げなさい」                  
鮎は立ち上がって、リビングの電話の隣にあるメモ帳とペンを持ってくると説明を始める。
                      「まず、今回の報道がされて慌てているのは誰だと思う?」              

「不法滞在中の中国籍の人だ。旅行ビザで入国したまま帰ろうとしない。期間延長しているのかもしれないけど」

「そうね、そういう人達は日本で既に住んでいる中国人に相談したり、中国人の情報網に縋って、どうしたらいいかアドバイスを求めてるでしょうね。でも、彼や彼女たちは観光目的で入国したのよ。延長申請時ももう少し観光したいからって届けてるでしょうね。
そう申請したから、仕事が見つかったとか、妊娠したとか言っても、早く国に帰りなさいって話になる。最悪は強制送還対象になる。
怒りの矛先はしらさぎ会派になるだろうけど、在日中国人は、自分達を受け入れた与党に縋るしか無いって気付く。突然話が変わるのはおかしい、中国の主席が言ったからって従わないで欲しい、我々を守ってくれってね」    

「それは身勝手すぎるんじゃないかな・・」

「でも十中八九そうなる。もう一つの動きが東京の中国大使館員になる。「社会党知事やしらさぎ会派の県から脱出しなさい、与党議員か与党知事の県に行きなさい」って情報を大使館員がこっそり流す。大使館から流したとは思われないように口頭で一人一人に伝えるの。後で大使館員から聞いたと言われても、「言う訳無いでしょう。誰かから聞いた話と勘違いしてるんじゃ無いですか?」で逃げる。これは中国大使とお父さんが結託して考えた」 

「ちょっと待って。不法滞在の中国人って、どのくらい居るんだろう?」        

「公的な数値では日本で生まれた2世3世で戸籍を持っている人を含めて80万人って言われているけど、コロナ後に中国人観光客は元通りに増えているから、実数は把握していないのが実情ね。でも、お父さんは1万人の不法滞在者が与党知事の県に転出しただけで、ゲームの趨勢は決まると見ている」

「1万人・・身を隠せる都市部だろうね。北海道・仙台・東京・横浜・名古屋・博多以外、あ、沖縄もか。関東なら東京に近い埼玉か千葉・・関西なら、大阪と中華街のある神戸?」 
            
「そこに中国人が千人づつ増加してご覧なさい。住民からのクレームが役所に殺到するわよ。ゴミの日を守らないだけでね」         

「父さんの性格って、そんなに悪くないよね?」火垂が実際の状況を把握していないのが分かり、少々残念に思った。しかし、頭を切り替えて、伝えられる機会が得られた事に鮎は感謝した。 

「いい?さっきもちょっと言ったけど、日本在住の中国人と親戚だとか養子縁組したとか、留学中だとか様々な言い訳を言って日本の医療機関に居る中国籍の医師が治療したり、出産したりしてるケースが凄く増えているの。それで親戚だって理由で簡単には認めないようにしてるんだけど、中国人医師が「問題は無い」って一筆書いちゃえば問われなくなる。  
今は少子高齢化だから、出産費用は全額自治体負担なのよ。日本人が収めた税金や年金が使われてるのよ、結構な額面でね。医者の中には悪いのも居てね、中国人で国籍が無いのを知ってて出産の手術をするの、そもそも全額行政負担だからね。そんな出産ツアーもある位なのよ」     

「日本人の出生数が合わなくなるじゃないか」

「いいえ。日本で生まれたんだから、日本国籍が取得出来る可能性ができたでしょ?
そこで、暫定的に見たことも会ったこともない日本人男性と籍を入れた様にすれば、母も子も日本国籍が支給される。暫くしたら離婚して、本当の父親を日本に呼んで家族でそのまま日本に居座る・・そんな闇ビジネスも存在するのよ。日本人自体の出生率は減少しまくっているから、そんなケースもプラスにカウントされちゃってる」

AIタブレットで2人の日本語を英訳していたヤンとジルバが、モン語で何か言っているが護衛役の4人は労働ビザで入国しているので、何の問題もない。

「だから、しらさぎ会派は排斥活動を始めた」 

「そう言う事、悪い医者や業者が集まっている特定の都市に自然と集中するように仕向けたの。先ず大宮・川越・千葉市や関西が悲鳴を上げれば、少しづつ問題になるでしょうね。でもね、種を蒔いたまま、放置していたのは与党だって誰もが気付くのよ。日本語が話せない転校生が突然小学校や幼稚園にやって来れば、子供だって驚くでしょ?」        

「今度こそ政権が持たないんじゃないかな。いや、与党自体の存続が怪しくなるね・・スゴイな、なるほど、籠城戦って言ってた意味がやっと分かったよ。与党はしらさぎの法案を容認せざるを得ない。もし、廃案にでもしたらボコボコに国民から叩かれる」       

息子は、天安門広場で涙を拭っている父の映像を見つめていた。
何故、献花し泣いたのかはネットで調べれば直ぐに分かる筈だ・・

アナタ達は最高で最良の父親に恵まれたんだよと鮎は思いながら、長男の横顔を潤んだ目で見る。

そして、この日を最良の日として胸に刻もうと誓った。

(つづく) 


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