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【時事抄】 欧州議会選挙の余波は第2ラウンドへ

若い人はご存知ないでしょうが、今から15年ほど前に「ギリシャ危機」という混乱がありました。リーマンショック後、各国が市場の不安心理をあの手この手の政策で抑え込んでいた矢先、突如ギリシャという小国の財政不安が露見し、欧州発の危機へと発展していきました。キッカケは2009年のギリシャ政権交代でした。

負の連鎖は、欧州域内で財政問題を抱えるイタリア、スペインなどの大国の信用不安と結びついて、EU崩壊の瀬戸際まで問題が加速したのです。ギリシャという「ちっぽけな」国の信用不安が、欧州全体まで広がるとは予想だにしませんでした。戦前の政治家の"迷言"どおり「欧州は複雑怪奇」です。

外交安保分野を専門とする秋田浩之氏による、欧州情勢をめぐる最新記事を見てみます。

<要約>
日本は戦前、欧州情勢を読み違え、歩む道を踏み違えた。

1930年代後半、台頭するナチスドイツに傾斜し、英米ソ連と対峙する。しかし39年8月、ドイツは突如ソ連と不可侵条約を締結する。そのとき日本はソ連とノモンハンにて交戦中。裏切られたに等しい。「欧州は複雑怪奇」と狼狽に似た談話を残し、平沼騏一郎首相は職を辞す。だが日本は後にドイツと軍事同盟を結んで英米に対立し、41年の対米開戦に突き進んだ。

いまロシアのウクライナ侵攻で欧州は准戦時の空気に包まれている。欧州の動きがアジアに及ぶ影響に目を凝らしたい。懸念すべき欧州議会選挙の結果だ。欧州連合や移民を批判する極右や右派が勢いづき、全720議席の2割超に至った。フランスでは極右政党の得票率がトップに、ドイツでも第2位に躍進した。

極右勢力は自国の利益を最優先に考え、ウクライナ支援に消極的な政党もある。ロシアに宥和的な姿勢を取り、中国の浸透も顕在化した。その一例として、今選挙で躍進したドイツ極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」に所属する欧州議員の側近が、中国側スパイ容疑で4月に逮捕された。

◆経済安全保障に火種
もちろん欧州議会が直接に外交や安全保障を担うわけではなく、欧州が直ちに右傾化するとは考えにくい。だが、その危険が迫っていると今回の選挙結果は示唆している。欧州議会はほとんどの法案を承認し、国際協定への同意権ももつ。極右の発言力が強まれば、例えばウクライナへの追加支援が彼らの反対で停滞し、情勢の緊迫化から米軍ウクライナ支援の比重が高まり、これが東アジアが空洞化を強めて中国や北朝鮮の行動を制する力が弱まる。

短期的にはアジアと欧州の中間地にある「旧ソ連圏」へのロシア支配が広がりかねない。親ロシア勢力に一部領土を支配されるモルドバやジョージアが特に脆弱な地域だ。モルドバ安保当局者によれば、親ロシア勢力にロシアから多額の資金が流れ、親欧米系の政党は欧州議会のリベラル政党から支援を得て対抗してきた。欧州議会の勢力図の変化で、ロシアの介入が強まると懸念する。

◆東欧・バルトは「近隣国」に
秋の米大統領選挙は、トランプ氏が世論調査で優位に立つ。内向きの傾向を強める欧州に加え、米国ファーストを掲げるトランプ氏が当選すれば、日本が頼れる強力相手が乏しくなる。日本の取るべき道は、英独仏伊といった欧州主要国との連携深化に加えて東欧バルト諸国への接近だ。距離的に日本と遠いとみられる東欧バルト諸国だが、地政学で見れば、中ロをまたぐ「近隣国」だ。中ロ情報や分析結果を共有しながらパイプを太くする。特にポーランドやバルト諸国はEU加盟国でもあり、対EU外交の点からも有用だ。

◆韓国はいち早く動く
ポーランドの有識者によれば、国防計画の実行で30年代初めまでにポーランド軍の通常戦力は英独仏を抜いて欧州で最大級になるという。23年末には8年ぶりの政権交代を果たし、強権的な右派が退き、EU協調派のトゥスク政権が誕生した。すでに韓国はポーランドに着目して、22年時点での直接投資が約65億ユーロ(約1兆1千億円)に達する。日本の約5.6倍の規模だ。多数の国々が絡み合う欧州は「複雑怪奇」な容貌を時に見せる。日本がその動向を見誤らないためには、更に関与を深めるしか無い。

(原文2146文字→1365文字)


2024年は政治イヤーです。6月の欧州議会選挙で極右政党が躍進し、これを受けて🇫🇷マクロン大統領が下院議会解散と総選挙を宣言しました。改めて国民の信を問うとの決断でしたが、不穏な結末を予感してか、フランス株価が急落しています。

日本経済新聞 2024年6月15日の記事より

EUのもう一方の雄、ドイツ🇩🇪はショルツ首相率いる連立与党に対する不満が高く、やはり欧州議会選挙で連立与党3党がいずれも敗北。極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」が逆に議席を伸ばしました。

今後、欧州発の情勢変化、あるいは欧州政治家の思慮を欠いた政治的発言によって、金融市場は予想外の変動に見舞われそうです。過度な円安に悩まされる日本ですが、欧州の情勢次第では混乱の域外にいる「避難先」通貨としての円買い(円高)を呼ぶ年後半になるかもしれません。


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