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【時事抄】 中国深圳での男児殺傷事件(その2)〜王毅外相の発言は失言に近い

ゼロコロナ政策という中国政府の硬直した対応を現地で目の当たりにして、全体主義社会の息苦しさ、監視社会の気持ち悪さを感じました。それでも習近平氏は現地で高い人気を誇り、奇妙な違和感を感じたものです。

そんな中国政府ですが、この問題は重大視しているようです。日本との関係悪化は決して中国政府が望む姿ではなく、経済的に苦境にあるなかにあっては尚更。日本企業が中国への投資に二の足を踏む、日本企業が撤退ともなれば、経済情勢に大きなマイナスの影響があるからでしょう。

将来に渡る影響の大きさを鑑みて、同じ話題を連続して取り上げます。外務省は今、総力を上げて中国当局と折衝を重ねており、政府間の交渉状況を報じた日本経済新聞の記事を要約します。

<要約>
中国指導部は日本人男児の刺殺事件の真相を曖昧にしたままだった。広東省深圳市で起きたこの事件は「偶発的な個別事案」と扱うことに始終し、日本人を標的にした犯行だったのかは依然不明なままだ。

事件直後の中国側は「捜査中」との発表だけだったが、今は「偶発的な個別事案」と位置付ける。仮に日本人を狙った犯行を認めれば、日本人の対中感情の悪化を招き、日中関係を冷え込ませかねないと危惧するからだ。

日本外務省によると、23日に上川陽子外相と米ニューヨークで会談した中国の王毅・共産党政治局員兼外相は、「今回起きたことは我々も目にしたくない偶発的な個別事案だ」と述べた。中国側発表は「日本は(事件を)冷静かつ理性的に見つめ、政治問題にしたり大ごとにしたりするのを避けるべき」だった。事件後訪に中した柘植芳文・外務副大臣も、中国外務次官の孫衛東氏と会談した際、同様の説明を受けた。

日本人から見ればこの説明だけでは不十分だ。犯行の動機・背景は在留邦人の安全確保策に直結する。柘植氏は孫氏に「犯行の動機解明は極めて重要だ。これが解決されない限り前に進めない」と述べた。だが、今年6月江蘇省蘇州市で日本人母子らが切りつけられた事件も「偶発的な事件」との説明だけで、約3ヶ月経過した今も犯行の動機などは不明のままだ。

中国外務省は24日副報道局長による会見で、中国の安全上のリスクが事実に則さぬ形で日本で騒ぎ立てられていると主張。ネット上の反日的な言論の統制に動き、日中間の対立を煽るデマ情報を流すアカウントに利用停止措置等を取ったと発表した。

一方、23日記者会見では「中国にいわゆる『仇日(日本を恨む)教育』はない」とも強調した。日本側が求める中国国内の反日的SNS投稿の取り締まり強化への要求に反発している。

(原文1011文字→751文字)


事件から約1週間が経過して関係者の人物像が明らかになってきました。犯人は現地に住む44歳の男性で現在無職の前科持ち。死亡した10歳男児の父親は商社勤務の日本人(日本国籍所持者)、目の前で我が子を刺された母親は中国人(中国国籍所持者)でした。

とはいえ犯行の動機は依然として明らかになっていません。しかし当局が動機を明らかにしないこと事態が「憎むべき日本人だから刃を向けた」という犯人の心情を感じさせます。事件の起きた9月18日は、満州事変の発端となった「柳条湖事件」の発生日で、中国では「国辱の日」とされています。

柳条湖事件
1931年9月18日、中国北部の遼寧省にある柳条湖の近くで、当時日本が所有していた鉄道線路が爆破されました。旧日本陸軍は中国人による破壊工作と宣伝し、これをきっかけに「満州事変」へ発展。旧日本軍が当時の満州全域を占領するに至ります。実際は旧日本陸軍による自作自演の策略でした。

中国政府は「反日教育はない」と述べていますが、ありえません。現地の教科書、各地に設置される抗日をテーマとする博物館、国営放送で流れる戦前を扱ったTVドラマ。私も現地でいくつかの施設を実際見ましたが、そりゃ日本人が嫌いになるわな、というものでした。共産政権お得意のプロパガンダです。

現代日本と日本人との接触の少ない(そして少し知恵の足りない)現地人は、プロパガンダが描く虚像の日本のまま、自身の日本観・日本人観を構築しています。そんな人々が残念ながら一定数は居るのです。

こうした殺害事件は日本国内を含め世界中で起きており、確かに「個別の事案」とは言えるでしょう。しかし、嫌日の土壌の作って反日感情を抱く一定数の人々を醸成し、象徴的ともいえる日に発生したこの事件が、中国当局が述べるような「偶発的」であるはずがありません。知日派(親日派ではない)ベテラン外交官、王毅外相にしては下手な発言をしたものだと腹立たしかったですね。熟慮する時間はあったろうに、要らない言葉でした。続報をフォローしていきます。


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