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民泊ゲストハウス、宿泊予約サイトに登録せずに集客する
予約は電話かメールのみ
「民泊」について書かれた本には大体「儲かる」という枕詞がついている。
インバウンドの波に乗れ、誰でもできる、立ち上げればほっといても収益が上がる、等々。
そういうビジネスを否定はしない。特に今東京はインバウンド需要で宿泊施設が逼迫している。普通の家だろうがマンションだろうが、寝床があるだけでも助かる人は多いだろう。
民泊を立ち上げること自体はそれほど難しいことではない。
金利の安いカネを借りて、自治体の補助金を使って空き家をリフォームして、管理は業者に委託して、booking.comやAirbnb(通称エアビー)のような宿泊予約サイト(以下、OTA)で集客する。ある程度ノウハウも固まっている。
ゲストハウス専門のコンサルタントもいる。
しかし、そういうビジネスというのは儲かるとわかったら新規参入が相次ぎ価格競争になる。そうなると必ず資本力の大きい所が勝つ。
そして集客をOTA頼みにすると、「生殺与奪の権を他人に握られる」状態になる。
そしてOTA経由で予約する人というのは、価格と評価(星の数)と写真のキラキラ感で宿を決める。客ではなくOTAのほうを向いてビジネスをすることになる。客は宿の個性ではなくコスパで決めるので、自分の宿に合わない客が来ることになる。
それでも、民泊・ゲストハウスビジネスというのは事業計画さえしっかり作れば有望なビジネスだと思うし、一般論としてはそのために必要なツールは使いまくるべきだろう。新型コロナのような事態が無い限りはインバウンドが減るということはそうそう無いだろう。ビジネスというより不動産投資になるので、競争や環境変化などのリスクは織り込まねばならないが。
しかし当宿では三種の神器とも言うべき「補助金と低利の融資」「管理業者」「OTA」はいずれも使っていない。空き家をリノベーションせずに使っているので初期投資はミニマムだったし(開業後に色々壊れはしたが)、掃除などのオペレーションは自力でやっているし、集客はOTAを使わず、予約は電話(ショートメール含む)とメールのみだ。
何故そうしているのかというと、宿をやっている目的が第一に自分が楽しむこと、第二に本業である地方移住ファイナンシャル・プランナーとしての知見を得て知名度を高めること、収益はその次だからだ。
自分がやっている「空き家を活用した大野の民泊宿 ねこばやし」は開業して2年になる。最初は全然お客さんが来なかったが、少しずつではあるが伸びてきてはいるし、自分がやりたい方向に宿をデザイン出来ていると思う。その方法について案内していきたい。
その① Google検索とマップ→宿のホームページに誘導
当宿は日本百名山・荒島岳中出登山口のすぐ近くにある。いつもお客さんに「どうやってこの宿を知りました?」と直接聞いているが、だいたいは、「荒島岳 前泊 というワードで調べたらヒットした」「Googleマップで荒島岳付近で宿泊施設がないか調べたらお宅しか無かった。」と言われる。
宿の情報が無いとヒットしようがない。インスタなどでもある程度情報は掲載出来るが情報量に制約がある。だから自分でホームページを作っているし、週に一度は更新するようにしている。
また、Googleマップには営業日などの情報を盛り込める「Googleビジネスプロフィール」という機能があり、そこには写真とかQ&Aとかできる限りの情報を載せている。OTA経由だと伝えられる情報はかなり限定されるが、自前のホームページだといくらでも載せられる。
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手前味噌ではあるが、当宿のクチコミ評価は5点満点中4.9だ。いろいろ努力しているというのもあるが、低評価をつけるようなお客さんが予約しないようにしているのが大きいと思う。
当宿のような男女別相部屋のゲストハウスのような形式の宿に泊まったことのある人というのは決して多くはない。山小屋やユースホステルなども含めても日本人全体の1割程度だと思う。「宿のホームページはご覧いただけましたか?」「ウチは男女別相部屋ですが大丈夫ですか?」と念を押す。低評価をつけるであろう人というのは「宿泊施設というのは個室が当然」という固定観念の持ち主なのだろうが、そういう人から問い合わせがあっても、こういうやりとりをしていれば判る。
当宿では宿泊予約フォームは設けず、電話(ショートメッセージ含む)とメールのみで受け付けている。電話ならその場で宿のコンセプトを説明できるし、メールだとその後のやりとりで説明する。納得いただいた上で予約を受けるようにしている。極端に期待外れだったというお客さんは今のところいない。
だから当宿に泊まりに来るお客さんは宿のコンセプトを理解してくれている人しかいないし、来る前に抱いていたイメージと同等かそれ以上の印象を持ってもらえたら「星5つ」をいただける。
OTA経由での予約だと、とにかく予約を入れてもらわないと話にならないので、競合他社より値段を下げ、キラキラ画像をOTA上での宿のプロフに載せる。実際行ってみると期待外れなことも少なくない。だから高評価を得るのは簡単ではない。
その➁ 人脈を広げる→SNSで繋がる
宿のホームページだけでなく、SNSでも宿での生活の様子などをアップしている。
基本的には筆者のFacebookに宿の状況をアップして、それがInstagramとThreadにも自動投稿されるようにしている。
基本的にFacebookは自分と顔見知りの人、Instagramは宿に興味を持ってくれた新規見込み客相手へのアピールと考えている。値段やアクセス方法など宿の基本的な情報はホムペに記載しているが、SNSで旬な情報を伝えることでどのような宿なのかをより具体的にイメージしてもらうようにしている。
現時点でFacebookは1472人、Instagramは649人のフォロワーがいる。Facebookのほうはリアルな人間関係があれば着実に増やしていける。異業種交流会とか地元での懇親会には極力参加するようにしていて、新しく知り合った人とは名刺交換→友だち申請するようにしている。知り合った人が全て宿に興味を持ってくれるわけではないが、会ったときには名刺交換だけという人が泊まりにくるということもある。そのために名刺は2年で1000枚刷っている。
そうやって自分のアカウントをフォローしてくれている人が、SNSでの宿の投稿を見て泊まりにきてくれたということが何度かある。
検索やGoogleマップでホームページを見つけて宿のホームページを見つける人というのは、大野市内や荒島岳登山口付近で泊まる用事があって宿を探している人なのだが、SNSを使えば直接の用事や目的の無い人でも泊まってくれる可能性がある。登山やゲストハウスに泊まったことがなくても、そういう世界に親和性のある人は結構いるのではないかと思うし、SNSを使えばそういう人を掘り起こすことができる。
SNSのことについては、別の記事でもっと掘り下げて書きたい。
その③ 「とほネットワーク 旅人宿の会」
2024年12月現在、「とほネットワーク旅人宿の会」には52宿が参加している。
1986年創立、以来「旅の情報誌 とほ」を発刊してきた(今は2年に1度)。
各宿だけでなく、北海道のコンビニ「セイコマート」や全国有名書店、Amazonなどで販売している。
いわゆるユースホステルのような男女別相部屋のドミトリー形式が基本なのだが、ルールや宿泊料などは各宿で自由に決められるし、ユースホステル協会のような組織があるわけではなく、運営しているのは宿主たちだ。
どの宿も夜は宿泊客同士での飲み会になるのだが、その場で出る話題といえば旅の思い出話とか他の宿の情報であることが多い。そうやって来てくれたお客さんが、他の宿や自分のSNSでも自分の宿の情報を伝えてくれる・・という具合に少しずつ顧客基盤が広がっていく。「とほ宿」の中には、ホームページが無かったり20年くらい更新してなかったりする所もあるが、「とほ」のファンだけでお客さんが入りずっと経営を続けている所もある。
因みに宿のホームページへのアクセスはGoogle検索経由が一番多いのだが、その次に多いのが「とほ」のホームページ経由のアクセスで、それほど大きな差は無い。宿のホームページにブログをアップすると、「とほ」のホームページに更新情報が載り、それを見た人がクリックしてくれるのだ。旅人宿関連の情報を掲載したサイトは他にもあるが、「とほ」の存在感は別格と言える。先に山小屋やユースホステルなどの相部屋形式の宿に泊まったことのある人は日本人全体のせいぜい1割程度と書いたが、「とほ宿」を知っている人は0.01%くらいで、ファンとなると更に少ないだろう。しかし、とほ宿のファンの中には何度も何度も泊まりに来る人がいる。
「とほ宿」に行く目的は、その宿のサービスや宿主の個性に惹かれてというのはもちろんなのだが、その宿に惹かれて来る人たちは自分と波長が合うから居心地の良い時間を過ごせるというのもあるのだ。
だから、「とほ宿に行くこと」を目的として旅に出る人もいる。
この宿は2016年に開業、最初はOTA経由で集客していたとのことだが、2年前に「とほネットワーク」に加入し、今では電話のみで予約を受け付けているという。
尾道や鞆の浦のような観光地の近くにあり、以前は料金が安いからという理由で泊まる人が多く、中にはマナーの悪い人もいたということだ。
しかし今では、この宿の談話室での飲み会をするために来る人が多く、宿に泊まっても観光をせずに帰っていく人も少なくないという。以前よりお客さんは減ったとのことだが、もともと旅が好きで宿を立ち上げたとのことなので大満足しているようだ。
ただ、中には外国から来たお客さんとの交流を楽しんでいる宿主もいる。ここの宿主は海外での接客経験が長く、ゲストハウス向けOTAの代表格であるBooking.com経由での予約が多いとのことなのだが、インバウンドのお客さんとは波長が合うという。
正解は無い。しかし・・・
ということで色々書いてきたが、宿泊予約サイトというものを否定するつもりはない。(因みに、筆者が旅行する時にはOTAは使いまくっている)。
ただ、集客の方法というのは時代によって移ろうものだと考えている。
昭和の中頃までは大衆にとって旅行というものは一般的ではなかった。
井伏鱒二の「駅前旅館」によると、昭和30年代初頭には地方の名士や行商人のような常連客か、修学旅行の学生か、駅前・観光地での客引きによる集客くらいしか手段が無かった。
日本が豊かになり、旅行が大衆化するとJTBのような旅行代理店を経由した団体旅行・パッケージツアーの中に宿泊施設が組み込まれるようになる。
平成に入りインターネットが普及すると、自分で旅行を考えるようになり、旅の窓口(現・楽天トラベル)やじゃらんのような宿泊予約サイト(OTA)が登場し今に至る。
しかし、インターネット上では個人がどんどん情報配信できるようになっているし、旅のあり方も多様化している。今主流のやりかたが未来永劫続くおちうことはないはずだ。
自分のやり方が正しいかどうかはわからないし、これから順調にいったとしてもマイノリティなのだろうが、旅人宿をやりたいという人には参考にしていただけると幸いだ。