絵が苦手だと、ずっと思ってきたあなたへ 6
絵を描くために大切なことって?
子どもが「本物そっくりに描けない」と感じるのは、実は成長の証なんです。
なぜかというと、ものを客観的に、じっくり見ることができるようになってきたということだからです。
それはとても素晴らしいことなのに、そのことで苦手意識が芽生えてしまうなんて、何とももったいないと思いませんか?
ですから、苦手意識をもってしまった生徒が、少しでも分かった、できたという達成感や充実感をもてるように授業を進めています。
本物そっくりに描けることは、表現の1つにすぎません。世の中の絵が、本物そっくりの絵ばかりだったらどうですか?
人それぞれ個性があるように、絵にもいろいろな表現があってこそ、世界が広がるし、面白いのです。
毎年最初の授業では「作品は人と比べるものではないし、比べる意味も全くない。上手い下手ではなく、自分にとって最高の作品を作ろう」と伝えています。
自分にとっての最高の作品を作る。これが私の授業のベースにあります。
中学生の感性は、瑞々しく、この時期に制作した作品は宝物です。たとえ技術的には稚拙でも、感動さえ覚えるものがあります。
大切なのは、自分が見たり感じたりしたことを、自分なりの方法で表現することなのです。
そのための感性を磨かずに技術だけ上達しても、その絵からは何も感動が伝わってきません。良い絵とは、作者の思いやメッセージが、見る人の心に感動を生むものだと思います。
道端に咲く一輪の花にふと目を止め、きれいだなと感じ、空いっぱい紫色に染まるような夕焼けに目を奪われ、言葉を失うような感動に震える。
そのような感性は、きっと絵を描くことに限らず、人生を豊かなものにしてくれるに違いありません。
でも絵を描くことに苦手意識をもっている生徒に、いきなり「自分なりの表現で良いんだよ」と言っても先へ進めないのは明白ですね。
また、成長とともに客観的に見えてくる世界を、その通りに表現したいという気持ちもよく分かります。
ですから、まずは苦手意識を取り除くことから授業を始めます。1つずつステップを踏み「やれば自分にもできる」という実感がもてるように教えていきます。
それには、描く対象をじっくり見ることと、気持ちを込めて集中して描くことを、いかにつなげるかがポイントになります。