記事に「#ネタバレ」タグがついています
記事の中で映画、ゲーム、漫画などのネタバレが含まれているかもしれません。気になるかたは注意してお読みください。
見出し画像

『Cloud クラウド』雑感【ネタバレ有】 - 現代的題材と怪奇的特撮の融和、ドライな暴力とかわいい岡山天音

まえがき


『Cloud クラウド』を観ました。

取り留めもなく感想を書きます。

『Cloud クラウド』…2024年9月公開。転売ヤーとして暮らす青年が、匿名の≪狩りゲーム≫の標的にされてしまうサスペンス・スリラー作品

まえがき


いやー面白かった。

仕事終わりにレイトショーで観てきました、『Cloud』。


僕のなかで「いい映画だな…」と思う基準のひとつに「別世界に連れていってくれること」があるんです。

最悪ストーリーやキャラクターが意味分かんなくても、「今たしかに、別の世界にいたのだ」と思わせてくれる映画って、
ちょっと心を豊かにしてくれる気がするんです。

(↑これ『cloud』のストーリーが意味分かんなかったとかそういう話じゃないです。めちゃくちゃ分かりやすく作られてます)

『cloud』はまさしく、僕をとある「別世界」に連れて行ってくれました。

以下ネタバレあり感想。




昭和の怪奇特撮のような現代の風景

冒頭物語は主人公の日常から始まります。
下町工場から精密機器を安値で買い叩き、フリマサイトに並べ、売れ行きをじっ、と観察。
梱包し、宅配業者に渡す。
ふだんは服のパッキングかなにかの工場ではたらく。
原チャリで帰宅。

その何気ない振る舞いが、どこか奇妙でどこか親しみやすい、
昭和の記録映像のような撮り味で切り取られ続けます。

(↑こんな感じ)

特に勤務先の工場のロングショットと、原チャリに乗る菅田将暉の顔アップ(これは予告でも見れます)には、
初期の『仮面ライダー』や『ウルトラセブン』のような趣をどこかで感じました。

さらに奇妙なのが、このノスタルジーを感じさせる映像で映し出されているのが、
「転売ヤー」という、あまりにも現代的な、デジタル社会にしか存在し得ない職種(?)ということです。

このアンバランスさが、物語世界に観客を引き込む一種の原動力になってた気がします。

不規則性による恐怖、ドライな暴力


ホラー映画をあんまり見ないのですが。
怖いのが苦手なのももちろんあるんですけど、なんかびちゃびちゃしてたり、ぬめぬめしたものが全体的に苦手だったり。
グロいのも苦手(正確にいうと「人体破壊描写」が苦手)。
なのでホラー、スプラッタ、医療モノなど、どうしても避けて通りがち…。

なのですが、本作はきちんと見る人を恐怖させながらも、
上記のような要素をほとんど用いない形でスリラー、暴力表現を描写していて気持ちよく見れました。
レイトショーで観たのに、すこぶる寝つきが良かったです。

前半のスリラー中心なパートは、「不規則なリズム」による恐怖体験が印象に残ってます。
主人公が外に気配を感じる。曇りガラス付きのドアを開け、外を確認。そして、閉じる。
この瞬間、グッと警戒してしまいます。ドアのガラスの向こうに急に誰かが現れるのではないか。

(この曇りガラスというのがすごく良い。
不明瞭だけど半透明で、向こう側にはたしかな実在性がある。)

そのガラスをじっ、と見つめてしまう僕。
主人公はふっと息をつく。
その瞬間──

グッとカメラが大きく振られ、全然違う2階の窓ガラスがガシャアン!!!

意識外からの一撃に思わず面食らう。
ここで来そう…!というリズムから半テンポ遅れるようなタイミング。
意識してなかった方角。
完全に手玉に取られました。

あるいは予告映像に映っていた「曇りガラス越しの覆面男」のビジュアルの時点からここまでで、僕の恐怖の動線を巧妙に、完全に握られていたような感覚です。ものの見事に…


一転変わって後半ではガンアクション中心のスリリングなバトル展開が描かれますが、
ここも乾いた発砲音の続くなんともドライな暴力描写がクセになる。

血こそ出るけど傷口がほとんど出ないので、僕みたいなもんも安心してみることができます。
それはそれで感覚おかしいか。


かわいい岡山天音くん、良かった


普段あんまり「推し」とか「推しキャラ」とかあんまり考えないんですが。
この映画で自然と推してた、応援してたキャラが、
岡山天音さん演じるネカフェで暮らす男(三宅)でした。

ネカフェで暮らす三宅くん(演・岡山天音)


ずっと動機も行動も共感できない連中が山ほど出てくるなかで、
主人公に掴まされた偽バッグのせいで先輩らしき人からゴン詰めされ、
その腹いせに狩りゲームに参加して主人公を殺しに来るという、みみっちくも分かりやすい理由で彼はやってきます。

ゲーム中、彼はずっとお手製の不気味な覆面を被っているのですが、
覆面、たしかに不気味なんですが…

事前に観客の僕らは彼の素顔をガッツリ見ているうえに、カジュアルなアウターを着た特徴的な服装はそのままなので、
あまりにも誰なのか分かりやすすぎて、全然怖くない…
むしろちょっとかわいらしさすらあるというw


覆面姿で登場する瞬間もなんというか、すごいコテコテな…
「あ、ここで絶対出てくるな」というタイミングで出てくるので、一周回ってちょっと笑えてしまいましたw
(前半の巧みなホラー描写の数々からして、多分この辺、あえて怖くならないようにやってる気がします)

謎の覆面男に本気で怯え切ってる主人公と
見てる側の僕らとのギャップがすごくて、それがなんとも面白かったですw

ここからスリラーは鳴りをひそめ、どこかシュールなおかしみのあるアクションパートに移行していく
良い転換点になってたと思います。


その後も狩りゲームメンバーたちがみんな素顔で行動するなか、天音くん1人だけずっと覆面姿で行動していて、
それがなんか、マスコットキャラクターのようなかわいさがあって…

ものすごく魅力的なキャラクターでした。
かなり大好きです。



あと、〇に方…
すごかったすね。

迫真でした。
バウンドが。
これはぜひ劇場でみんな確かめてみてほしい。





あとがき

一個だけ気になったことがあって、
多分主人公みたいな人は対外的に自分を説明する時に「せどり」を自称する気がします。
(引っ越し屋さんに職業を聞かれて「転売屋です」と答えるくだりがあり、さすがにちょっとは濁せよと笑ってしまった)
でもあれはあれで主人公のふてぶてしさがよく出てましたね。悪いこととさして思ってないっていう。

多分この映画、「結局なに?」「よくわかんない」って意見も一定数出ると思うんですけど、
僕は「別世界」に連れて行ってくれたこの作品にすごく愛着を覚えました。

そもそも観に行くきっかけが、菅田将暉さんが転売屋を演じるという意外性と、以前見た黒沢監督の作品、
『散歩する侵略者』が、
「なんかよくわかんなかったけど、不思議と心地よくて、この作品好きだな」と思える作品だったので、
それを期待して見に行ったこの映画は期待以上で、僕は大満足です。

『散歩する侵略者』…2017年公開。数日間行方不明になっていた主人公の夫が記憶喪失で見つかり、彼は自分を「宇宙人」と言い出す。人間の「概念」をうばう侵略者たちによる、シュールなSFサスペンス。


すごく楽しい映画体験でした。
皆さまもぜひ。


(↑予告映像 この映像に惹かれるものがあればぜひ見てみてください…!)


いいなと思ったら応援しよう!