鑑賞ゲリラ Vol.49 『カンショウする楽園&観月茶席』 レポート(2) 2024/9/14開催
開催情報
【開催日】2024年9月14日(土)
【会場】白鳥庭園
【展覧会】名古屋芸術大学×白鳥庭園「カンショウする楽園」
会期 屋外展示 2024年9月10日(火)~ 9月23日(月・祝)
清羽亭展示 2024年9月12日(木) ~ 9月16日(月・祝)
白鳥庭園内の清羽亭で、作家の皆さんにお話を聞くお茶会、対話型ギャラリートーク「カンショウする楽園&観月茶席」が開催されました。
このレポートでは3・4席目の6名を紹介します。
3席目 19:30~
1.富田和真《たいせつ》
◆作家のコメント
私は生き物が好き、中でもダンゴムシやエビのしっぽやアルマジロのように同じ形が重なっている殻のようなものが好き。紙で模型を作り、一枚の鉄板をカットして一つ一つを丸めて溶接して延ばしていくように形を作った。
◆参加者の感想・質疑応答
▶︎アールヌーボー的なものに感じた。(アールヌーボーのモチーフに)きのこや蜻蛉などがあるのでダンゴムシもあるのかと思った。
▶︎ジブリに出てきそう。そのようなストーリーはあるか?
富田:ストーリーというより好きなものを大きく作りたかった。
▶︎ダンゴムシのどういったところが好き?
富田:同じような形が重なってドームのような構造がいい。構造によってフォルムができる。
▶︎お尻のヒラヒラが可愛い。
富田:後ろにヒレみたいなのがついたオグソクムシというのがいる。
▶︎池の浮島に置いたわけは?
富田:水場に置くのが相応しいと思った。オグソクムシもそう。
▶︎アルマジロを連想した。鎧を着た動物。鉄の鎧。中が守られている感がある。
富田:そいうところからまさしくタイトルに《たいせつ》とつけた。
生き物全体ではなく部分が作品になっている。構造に惹かれるという作家の意思がシンプルに伝わった。
2.城所咲希《二面性》
◆作家のコメント
私の、大人として扱われる面と子供心を大切にしている面を表現した。外側は綺麗な曲線で当たり障りのない大人。内側は曝け出せない子供心。
内側の一つは風船。中に綿を詰めたら気持ちよくて「なんだこれは。誰も見つけていないだろう」という嬉しさがあった。もう一つは毛糸を切ってふわふわの表現をした。あとの一つはモールを好きな形にした。
好きなものを作るというのがモットー。皆さんにも子供心を思い出してもらいたい。
◆参加者の感想・質疑応答
▶︎触りごごちのいいものに安堵感を得る子どもは多いが詰め物をした風船はそのような感覚か?
城所:はい。マテリアルジュエリーという授業で風船を切ってみたら断面が面白かったので集めてジュエリーにしたことがあった。その残った丸い部分に綿を詰めてみたらモチモチで気持ちよかった。趣味でバイクに乗るのでバイクが好き。特に曲線美がいい。プリキュアが好き。レゴブロックが好き。
大人になったからできるようになったものと、懐かしいものとを合わせたかった。
▶︎尖ってるのはなぜ?(金属の)エッジで手を切りそうだ。
城所:成人年齢が18歳からになった。私はまだ子供でいたいのに、周りからは大人に見られなくてはいけない。そういう葛藤をエッジで表している。
▶︎竹林を選んだ理由は?
城所:林立している竹が他の人たちで作品が私。
▶︎外側が大人の面で内側を子供にしたのは?
城所:子供の自分を包み隠したい。包み隠さなくてはいけないと思っている。
▶︎基本的には中身がチラチラと見えて素敵だけれど、現状に不満というかもっと出したいという部分を表現しようと思われないのかな?
城所:大人に見せようとしている自分が嫌いなわけじゃなくて、我慢しなくてはいけない葛藤。今この21歳の子供から大人に成長していく上での葛藤を表現したくてこういう形にした。
竹林という場所を選んだことで、世代特有の思いが明快な形となって現れた。
3. 下手初姫 《小さなひかりをまとう》
◆作家のコメント
白鳥庭園にとって「水」は重要な要素。自分が生活している場所とは違う少し整った空間で異世界ぽいと感じた。ここに架空の生き物がいてもおかしくないと思い、庭園に暮らす水の精を制作した。
庭園展示なので大きくしなくてはいけないと考えた。10センチほどのミニチュアを作り、そこから大きくしていった。中を空洞にするために紐状の粘土をぐるぐる積み、そこに手や顔やひれの部分をつける。素焼きし、陶芸用のパステル色鉛筆みたいなもので色をつけたいところを塗り絵のように埋める。そして釉薬をかけていく。私の製作はそれが一番時間がかかる。
釉薬が薄くかかっているところは色の質感が出る。釉薬が濃いと色の要素が流れて違う模様になる。色ごとの変化、釉薬の厚みでも変化がある。展示場所は苔の緑が強いのでちょっと幻想的な空間になった。
◆参加者の感想・質疑応答
▶︎とても可愛らしい作品。トークで、こういう思いで作られたんだな、こういう過程で作られるんだなと分かった。鏡面の色合いがとても繊細で素敵。他の作品も見たい。
▶︎この子は夢を見ているのかな。
▶︎形が面白い。丸くて触りたくなる。手に星の砂を持っている。
▶︎夢とか希望を持っている。精霊はどんな形でもいい。自分の思った姿で現れる。
▶︎星がもう一つ置かれているがどういう意図で置いたのか?
下手:持っているのは星のかけらで流れ星。降ってきた星をひとつ拾ってみた。ひとつは落ちている。普段は人の見えないところにいるけどこういうイベントの時に気になって出てきてしまった。という設定。
▶︎見える人には見える精霊?
下手:水の精を検索すると悪いものが多い。メデューサとか、災害を呼ぶとか。もっと可愛いものがいてもいい。
水をたくさん蓄えた柔らかな苔に展示された水の精。人を癒す作品を作りたいという作家の想いが伝わった。
4席目 20:15~
4.西村匠平《僕ら》
◆作家のコメント
鉄と鉄をくっつけるアーク溶接やグラインダーで鉄を削って中を丸くくり抜いたりした。学校で展示した時と違って、白鳥庭園の開放的な自然の中で「集」が「個」に変化しているということを表現したかった。
学部1年の時は平面が主だったが、工業高校で得た知識を作品に生かしたくなり、2年からは平面から立体にチェンジした。素材も好きな鉄を使った。今は3年生。まだ自分の中で作品の方向性が決まっていないことがわかった。
◆参加者の感想・質疑応答
▶︎不思議。
▶︎水の中に金属がある。あり得ないものがある。
▶︎池の中を選んだわけは?
西村:自然の中にこういうオブジェがあると異物感が強く出て、曖昧さアンバランスな感じが逆にいいなと思ったのであそこに置いた。
▶︎作品の下方に線が出てきてるのは水量が減ったから出てきた錆?経年変化に関してはどう考える?
西村:錆に時間の流れを感じる。制作したものはそこで時が止まっているように感じるが、外から影響を受けるものを付け足すことによって作品の中にも時間が流れているということを表現したい。
▶︎大学の構内では集団の中のパーツ・塊であり、庭園に持ってきたら違う雰囲気があるとのことだが、それは個が出てきたという感じ?
西村:自然の中なら自分たちの個性を見せることができると思いバラバラに配置した。置かれた立場によって「個」になったり「集」になったり、開放的な会場で僕らがどんな姿形をしているのか見てもらいたい。
「作品そのものが自分たちの姿」と受け止めた。そこに錆という時間が加わり経過までもが作品となっている。
5.杉山仁彦
1《”わたし”たちの、見つめる先には》
2《いつも、一緒に居てくれる》
◆作家のコメント
場所性、空間要素に自分が感じた感覚・経験を交えて制作していくのが自分の制作の流れである。
①《”わたし”たちの、見つめる先には》について ※屋外展示(蓮池)
庭園にあった舟と陶の足場を交えて空間を構成している。展示箇所の芝生広場の奥にある池は、水を意識している、庭園の下流に位置にしている場所。最も下流にあるにもかかわらず、正門から入った瞬間、一番最初に出会う場所でもある。そういう場所性に惹かれた。感覚としては、薄暗い中に何かが停まっている、上から降りて溜まっているイメージ。水も上下するのでタイミングによって変わるし、夜も昼も見え方が変わる。
②《いつも、一緒に居てくれる》について ※屋内展示(清羽亭)
庭園の景色が美しすぎて何をすればいいのだろうと思った。ここをある種の夢のスペースにしようと考え、まずは(この美しさを)越えられないと思い境界を作った。
白鳥庭園の近くに断夫山古墳があり、円筒埴輪が出土されたと知った。役割は古墳内と普通に住んでいるスペースの境界としている。同様に、夢のような美しい世界と現実の世界を隔てるように、円筒埴輪のように(陶の作品を)置いた。座布団に座って外の自然を見てほしい。タイトルから、これが何であるかについて考えを深めていくと僕が思ってほしいなというところに近づくかな。
◆参加者の感想・質疑応答
▶︎(②について)どう見ていいかわからなかった。
杉山:座布団に座って外の景色を見てほしい。傍らに何か黒い影がある。何かがある、という気配を感じてもらいたい。この茶室に入る時に、この何かを一度見ている。で、景色を眺めた帰りにまた目に入る。この何かには2回出会うことになる。
▶︎(②について)たくさん作った器が並んでいるのではなくて、精神的な深いものであることがわかった。
杉山:この何かには底がない。僕が目指している陶芸の世界は、このあたりに明確な差がある。内側は現実という設定で釉薬が施されていないが、手前は夢の世界で塗装されている。景色と共に見ると明るい。
▶︎結界とか、視線をとても意識されているんだなと思った。
(①について)外の作品はあの世感がある。
杉山:近い感覚がある。暗がりが好き。
▶︎(①について)渡れない絶妙な配置は意図的なのか?
杉山:渡れるように設定したが、物理的・時間的に断念した。何かあるんだろうけど何があるんだろうみたいな感じもいい。
▶︎(①について)壁のすき間から見えた作品にぞくっとした。いつか天に召させることがあれば行ってみたい。
杉山:見えそうで見えない、近づけそうで近づけない。そんな感じがいいと思った。
美しいはずの景色がどこか歪んでいる。いずれも静かだが強いインスタレーションだった。
6.古池拓人《洗った後》
◆作家のコメント
3Dプリンターで原型を制作し、石膏型にとって、粘土に置き換えて焼き物にした。
白鳥庭園は浄土式庭園。浄土は煩悩や汚れのない世界で、人間の世界は汚れがある。人間の魂は肉体を持っている限り浄土の世界にたどり着くのは難しい。煩悩としがらみに囚われてしまうイメージとして、足を制作した。
歩く時、足は地面から離れたように見えるが実際は着いて離れられない。汚れの世界を足と捉えるなら、浄土の世界として鳥の姿を連想した。
そこで、解放するという意味合いで翼を獲得する必要があると思った。鳥のような自由を獲得するにはどうしたらいいか考えて出てきたのが、洗濯機と物干しである。まず足が洗われ、干すときに翼に変わり、翼が乾く。その翼を人間はファッションのように着て飛び立っていくという流れを作品とした。
白鳥庭園に初めて訪れたときに感じた心が洗われた感じ、日常から少し離れた高揚感を表現した。
◆参加者の感想・質疑応答
▶︎作品の洗濯槽の中にある足は誰の?
古池:自分の足型。
▶︎羽は2体分?
古池:服のように干されている。着替える感じ。
乾いてから羽を身につけて飛び立つ。心があらわれた感じも表現している。洗ったら見ることのできる浄土の世界を一瞬だけでも感じてみたらというメッセージ。
▶︎洗われた自分に今後への期待感もある?
古池:しがらみに囚われているから、いっときだけ。
▶︎これらの汚れた足はどうする予定か?
古池:洗われて白い羽になる。見た人がどきっとしたら面白い。足を洗うという言葉があるように、罪の意識がある人が見たらちょっとドキッとするのではないかと。
▶︎白山神社(日進市にある足の神様)に奉納するという手もある。
煩悩やしがらみから逃れていっときだけでも心の余裕を。という真摯なメッセージが楽しく表現されていた。
【ファシリテーター・レポート】オオノユキコ