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【稀人ラジオ 㐧5夜 編集後記】

稀人ラジオ第5回を配信した!ようやく!

第5夜 『記憶の貯蔵としての表現物。文字は、まるで奇跡ですよ』

🎭『稀人ラジオ』について

稀人ラジオとは
キュレーターの勝俣泰斗と作曲家の植田響によるポッドキャスト。閉店間際の深夜のバーで、寝たら忘れる夜な夜なトークを収録します🍷「稀人(まれびと)」とは、不定期に訪れる外部からの稀な訪問者を指す民俗学の概念。日常のバイオリズムの外側で、たがいの「稀人」として出会い直す2人が、異なる生活の実感を手土産に語る雑談話を、時にゲストを交えながら、創作論、カルチャー、社会集団、そして上記以外について、台本のない完全即興でお届けします🎙

出演

勝俣 泰斗(写真左)
キュレーター・編集者。1995年宮崎出身。ニューヨーク州立大学美術史学部在学中に、2019年に響と共に、アーティストランスペースとしてyosemicを立ち上げる。帰国後、2022年からギャラリーMARGINのディレクターを務める。編集的な視点で展覧会やプロジェクトの企画、キュレーションを行う。個人的な関心やテーマを軸にした表現活動として、アート、映画、書籍のレビューやエッセイを執筆する。
Instagram:@taito212
Linktree:https://linktr.ee/taitokatsumata

植田 響(写真右)
ピアニスト・作曲家。1994年東京生まれ。5歳からピアノを始め、洗足音楽大学ジャズ科を経て、ニューヨーク市立大学アーロンコプランド音楽校修士課程を修了。2019年に表現者のコミュニティyosemicを発起。帰国後は、CMや映画、ドラマの楽曲制作に携わりながら、自身の作品制作を続ける。2022年に、下北沢にコミュニティパブスペースyosemic PUB SOY-POYをオープンし、音楽、お笑い、ダンス、ビジュアルアートなど、様々な表現者が集まるコミュニティとして毎週イベントを主催している。24年から鈴なり横丁にあるBar giraffeのオーナーを務める。
Instagram:@hibiki_ueda_
Web:https://www.hibikiueda.com/

第5夜 収録概要

第5夜『記憶の貯蔵としての表現物。文字は、まるで奇跡ですよ』

0:00-
創作プロセスは不可逆/生成AIスキル強化月間/半年前に怪我しとくべきだった/ハンター×ハンターは基本教本/喋りと自意識/話ぶり(変容)理論/損得勘定は人を倫理的にする/密談の圏域を広げる/”20億光年”先に消えたトピック/収録編集後記と三段構えの俯瞰/青汁バトル話の嘘/語りはデマの温床/ZIMA BLUEと記憶違い/誤謬が生む芸術/記憶と記録/記憶の貯蔵装置としての表現物/記録媒体の価値/「字を読めるのは…まるで奇跡です」by ヨレンタ『チ。』/Ens0の曲のリアレンジ構想/アイデアは基本もらいもの/稀人通信の世界観づくり/NYの雑踏から生まれたアウトロ/フォーマット越境願望/アドバイスおじさんにやさしく

33:33-
ミッドサマー観たよー(いまさら)/感情で繋がれない現代人の疎外/他者と同期する一体感/バタイユのエロティシズムと禁止/暴力による眩暈⇨彼岸へ/ファイトクラブは彼岸志向/二子玉川のリアルファイトクラブ/人間の汚さを撮る写真家/

47:50-
記録媒体と芸術/ピアニスト大夢のコンサート/凍結された中世/今日の客人大夢/バルトークの舞踏組曲/録音芸術時代黎明期の作曲家/民謡蒐集からのオマージュ/口伝から録音〜世代を超えて今〜/リメイクの成れの果て/スーパーマーケットミュージック/再解釈の周期の短さ/AI vs人間論争/プラトンは文字を拒んだ/人間味の更新/旧人間味はもはや新しい/愛したヤギを食べるヤンバルの生活/響の自然志向の原点/村構想のざっくりロードマップ/シンギュラリティ後も残る身体性/アナログ⇨デジタル⇨アナログの交通/

1:10:59-
ジャズ喫茶マサコの衝撃/音楽と暴力性/ぶん殴られた響とイチャつく男女/乗り越えられない文脈間ギャップ/カルトの人間関係の引き裂き方/オープンマイクと社交性格差/いざという時脱げる奴が強い/フレンドリーと排他性のバランス/社交モンスター子供🐈/天然のコミュ力/待ちのくせにガード堅いやつ/選択的塩対応/非日常は発話のスイッチ/会話における想像力/きっかけはOne Laugh/要はアイスブレイク/共通点の探り合い/偶発性を装えるか/BKBのしたたかさ/笑われるための戦略/道化になれなくなった『人間失格』の葉三/自虐の勿体無さ/狩野英孝の天才性/自分の良さには気付きづらい/自分のやだみ/しゃーないから全肯定で

参考文献

ちょうど第5夜でも話題に上がったのだが、稀人ラジオで散りばめながら話している固有名詞を参考文献としてまとめられたらいいなと思っている。二人ともサブカルチャーばりばりの人間とかではないけど、たまに出てくる固有名詞は残しておきたい。固有名詞は会話を省略できるのが強みだ。今回のエピソードで登場した作品やコンテンツをここにコメント付きで並べる。

・『HUNTER×HUNTER』冨樫義博

言わずと知れた冨樫義博の終わらない傑作漫画。念能力の概念や象徴的なエピソードが多数存在するため、引用の対象に上がりやすい。稀人ラジオの必読書。

・『二十億光年の孤独』谷川俊太郎

今回はあまり話題に上がらなかったが、以前「谷川俊太郎『二十億光年の孤独』を再読して」で触れた内容を話そうと思った。話そうと思ったらいつの間にか流れた。

・おぎやはぎ小木VS劇団ひとり 世紀のフリ対決

稀人ラジオ第2夜で話したいわゆる青汁の回。お笑いにおけるフリに潜む暴力性について話した。第5夜では、この話の概要を説明する際に、かなり事実と異なる描写があったことから、記憶違いについてという話になる。この話は収録後記でも書いている。

【稀人ラジオ 㐧二夜 編集後記】 語りと嘘

・『ラブ、デス&ロボット』

好きなアニメシリーズ。デビット・フィンチャーがプロジェクトの総括を務め、様々な制作会社の才能が集結してSF小説の傑作を映像化したシリーズ。タイトルの通り、愛と死とロボットをテーマにした作品のアンソロジー。特に好きなのが、今回話している「ジーマ・ブルー」(Zima Blue)。「目撃者」(The Witness)、「おぼれた巨人」(The Drowned Giant)、「死者の声」(The Very Pulse of the Machine)、「彼女の声」(Jibaro)もおすすめ。

・小説版『ジーマ・ブルー』アレステア・レナルズ(『2000年代海外SF傑作選』)

小説版ジーマ・ブルー。今回のエピソードではこちらの小説の話をしている。小説版では、アニメでは描かれていない世界観の設定や細かいエピソードが短編ながら濃密に織り込まれている。小説の方がより記憶の誤謬と芸術について踏み込んで描いている。

・『チ。ー地球の運動についてー』魚豊

タイトルにもなっている「文字は、まるで奇跡です」は、『チ。』に登場するヨレンタさんのセリフから来ている。この作品は、地動説を発見するまでの間に脈々と繋がれてきた知のバトンというか、受け継がれていくものの価値を感じさせる。宇宙の美しさに惹かれた人間たちの止められない好奇心と衝動。人生を賭して、それでも辿り着かない時に、人間の寿命をも超えた創作物、ここでは書物だったりに託す。これからもこの漫画からの引用は増えるだろう。

・EnsO

響がキーボードを務めるバンド。現在新しいアルバムを製作中。

・『ミッドサマー』アリ・アスター

アリ・アスターのサイコホラー。観よう観ようと思いつつも、ついこの間まで見れていなかった。カルト集団が現代を生きるカップルの心を引き裂いていく様、そして何より身体の振る舞いを同期させることによって感情的な一体感を生んでいく映像の描き方が秀逸。

・何か分かりづらいチャンネル

お気に入りの解説系YouTube。ミッドサマーを見た後に、響にこのチャンネルの「ジョルジュ・バタイユ『エロティシズム(澁澤龍彦訳)』」を送りつけた。この番組は、近現代の日本文学や哲学に強いチャンネルで、引用の引き方のセンスと噛み砕いた言葉で書籍を紹介してくれるので重宝している。今回のエピソードでは、暴力をテーマに話していたので参考になると思い引用したが、なかなか整理して話すのは難しい。気になった方はこちらをご覧いただきたい。

・『ファイト・クラブ』デヴィッド・フィンチャー

「資本主義からの脱して、身体性を取り戻す」みたいなトンマナの話になったら多分必ず引用に上がる名作映画。

ついでに紹介。山田玲司先生のファイトクラブ紹介。麻酔コンテンツと覚醒コンテンツに分かれるという視点が面白い。ファイトクラブは言うまでもなく覚醒コンテンツ。

・舞踏組曲 (バルトーク)

今回の客人(ゲスト・まれびと)のひろむが話していたバルトークの舞踏組曲。これで合ってるのかな。

・最近AIで作った曲

作曲AIのSunoで作ったKpop。これはとてもじゃないが真剣に音楽をやってる方々に、真面目には聴かせられない。が楽しかった。これは友達から送られてきたLINEを元に歌詞にしてKpopナイズドさせた。いちおう完成系としているが、これを身体性を伴ったライブでやるとなると、それがアナログ⇨デジタル⇨アナログの循環になって、リアルな人間からだけではでない味が出るんじゃないかと思っている。

記事:初期K-POP的言語運用と曲づくり(SUNO

・プラトン

AI論争についていて話していた時に出た話。プラトンは『パイドロス』の中で、文字は人間の能力を衰えさせるとして痛烈に批判している。AI批判的な言説を聞くとラッダイト運動やこのプラトンの話を思い出す。

プラトンの主張を要約すると、下記のようになる。

人々がこの文字というものを学ぶと、記憶力の訓練がなおざりにされるため、その人たちの魂の中には、忘れっぽい性質が植えつけられることだろうから。それはほかでもない、彼らは、書いたものを信頼して、ものを思い出すのに、自分以外のものに彫りつけられたしるしによって外から思い出すようになり、自分で自分の力によって内から思い出すことをしないようになるからである。

プラトン『パイドロス』

百歩譲ってプラトンの言う通り、文字に書くことで個々人として人は忘れっぽくなるかもしれない。だとしても文字によって、人から人へ伝わって記憶は継承することができる。ヨレンタの言うようにやはり、文字は、まるで奇跡なのだ。

・ジャズ喫茶マサコ

響が凶暴なジャズに殴られた下北の喫茶店。カップルにおすすめ。

・ケビンズイングリッシュ

英会話系のチャンネルで有名のYouTube。アメリカと日本の反応の違いの動画が刺さった。ケビンみたいなリアクションできたら楽なんだけど。

・BKB バイク川崎バイク

バイク川崎バイク。第5夜では、彼の笑わせるではなく、笑われるためのしたたかな戦略について話した。この動画が一番分かりやすい。

ちなみにBKBが書くショートショートがかなり良い。書店で立ち読みして驚いたのを覚えている。

・『人間失格』太宰治

BKBの話題からでた話。笑い会話をドライブさせる。そのためには笑いが生まれる偶発性を装う必要がある。愛されるために笑われる。しかし、わざと笑われにいくことで道化キャラを演じていた葉三が、その下心を見破られてしまった時の心境には苦しいものがある。

自分は、わざとできるだけ厳粛な顔をして、鉄棒めがけて、えいっと叫んで飛び、そのまま幅跳びのように前方へ飛んでしまって、砂地にドスンと尻餅(しりもち)をつきました。すべて、計画的な失敗でした。果して皆の大笑いになり、自分も苦笑しながら起き上がってズボンの砂を払っていると、いつそこへ来ていたのか、竹一が自分の背中をつつき、低い声でこう囁(ささや)きました。
「ワザ。ワザ」
自分は震撼(しんかん)しました。ワザと失敗したという事を、人もあろうに、竹一に見破られるとは全く思いも掛けない事でした。自分は、世界が一瞬にして地獄の業火(ごうか)に包まれて燃え上るのを眼前に見るような心地がして、わあっ! と叫んで発狂しそうな気配を必死の力で抑えました。

太宰治『人間失格』1948.
  • 狩野英孝

如意棒を開封した時に蛍光灯を割ってしまった狩野英孝。

収録後記

今回も相変わらず紆余曲折したが、ポイントは記憶の貯蔵としての表現物、そしてそれを記録するための媒体というところなのかもしれない。こうして収録するラジオも収録しているからこそ残っているが、私たちの会話は録音機材がなければ穴の空いたバケツに水を入れるが如く流れ出てしまう。

ラジオの中で行われていることは、日々の気づきをただただ俯瞰して語っているだけではない。収録後記と銘打っているにも関わらず、まだ編集もしていない収録回(おそらく次の次くらいに出る)から特に感じたことなのだが、会話がだんだんとグルーブ感を持ち始めているのを感じる。そして、これがZINEになったり、曲になったりと形、つまりは記録媒体を越境して広がっていくイメージが湧き上がって止まらない。その形の一つが稀人通信であるが、これはまだまだほんの序章でしかない。このラジオはまだまだ日陰に隠れて人目に付かずにいる。おそらくZINEにしてもラジオにしても、ただ趣味で録ってみたものを垂れ流したものくらいのイメージにしか周りから見たら映らないんだろう。でもそれでいいと思う。ここで話していき溜まっていく物語は、「こんなこといいなできたらいいな」というような夢物語には収まらない。その実感がようやく掴めてきている。逆に言えば、まだその程度だ。これからラジオを通じて、こうした記録媒体の変換とコラボレーションは無数に生まれていく気がする。今年はそんな年にしたい。ラジオの収録とは、実践の中に身をひそめた一つの思考形態であって、それは「稀人」を迎え入れるというフォーマットをあらゆる形で表現物に落とし込むことが可能になって初めて、ようやくラジオが存在した意義が陽の目をみると思っている。
僕らMC二人が今直近で抱えている問題は、どうやったら稀人(ラジオではゲストを 客人まれびとと呼ぶ)を受け入れ、異なるバイブスからグルーブ感を醸成していけるかにかかっている。そういう意味では、今回大夢の会話をもっと深掘りして、バルトークと彼のコンサートに向けた情熱を掘り起こしてあげたかったと強く反省している。悔しいが、今の自分たちの実力ではできなかった。しかし、そこでも社交性やらコミュニケーションについて話した㐧5夜の後半の話が絡んでくるのだが、響のコミュニケーションの能力は鍵になってくると思う。誰を巻き込んでも活かせる能力。それは、響がジャズでピアニストをやっていて全体を俯瞰しながら、ぐるぐるとイニシアチブをとりあうメンバーを回しながら、自分でもパフォーマンスを高める研鑽を積んできたからこそ為し得る業である。その技術がカンバセーションという、直接的に言語を用いた即興のやりくりの中でなんとか成立させる、しかも質を担保して、という無理難題を可能にする潤滑油になるだろう。とまあ、人に期待するのも簡単だが、このラジオを通じて自分がやりたいビジョンもようやく見えてきた。その第一弾がZINEであり、逆に言えばラジオから飛び出る自分の表現物はラジオの枠組みを超えて広がっていく。それは自分の仕事。互いに相互依存的になるのではなく、いつでもグルーブは産める。しかし、それは強力な個があってこそ成り立つというバランスを持ち続けていたい。まあ待っていてほしい。


📕『稀人通信vol.1』発売中

稀人ラジオが擬ZINE化!! 第一夜の対話と勝俣泰斗によるエッセイを収録した『稀人通信 vol.1』が出ました。限定30部。下北沢Bar GiraffeとECサイトから購入できます!!

🎭引き続き稀人ラジオをよろしくお願いします。フォローもぜひ。

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勝俣 泰斗
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