『デカルトからベイトソンへ』 第二章 読書メモ
第二章では、封建経済が崩壊し、資本主義の社会体制が動き出したことによって、真理が有用性と結びつき、知がテクノロジーに回収される中で、実験、数量化、予測、操作を軸とする新しい世界観が形成される道筋を説明している。
中世の世界観と十七世紀の世界観の比較
中世のアリストテレス的世界観と17世紀的世界観を比較している。
封建制度の崩壊と資本主義生産体系の確立
アリストテレス的世界観では、封建制度と宗教的生活が基盤だった。しかし、封建制度は経済の面で、生産性の限界を迎え、破綻していくことになる。13世紀には始まっていた農民の反乱が階級闘争に発展し、こうした脅威から脱するために、15世紀頃から経済活動は地理的基盤を広げていく。いわゆる、大航海時代である。
商業革命による封建制度の崩壊は、西欧における資本主義生産体系を確立する。商人は企業家に、ギルドの破綻によって、小作農民は賃金労働者となる。貿易によって生じた利益は、農業や工業に投資されるようになる。
革命的な変化の中で17世紀的な世界観が現れてくる。地動説が反映しているのは、宇宙が無限であるという意識だけでなく、ヨーロッパこそが唯一無二の世界であるという感覚の喪失。出来事は生命のない物質の、数学的に記述できる機械的運動によって説明される。価値は感傷に過ぎず、理性は道具と化し、目的合理的になった。「これはよいものか?」という問いは、「これはうまく行くか?」という問いに取って代わった。商業革命の精神と、生産、予測、操作を重視する姿勢を反映している。
そして、商業の発展によって、貨幣と信用取引が重視され始めた。貨幣経済の導入は、「数字を正確に計算するという理想」を生み、「宇宙を数学的に正確に解釈すること」が「理論における貨幣経済の対応物」となった。世界はひとつの算術問題となる。金銭計算は、宇宙全体を理解するための新しい方法とすら捉えられ始め、商人にとって数量化こそが個人の成功の鍵となる。
さらには、時間の観念が変化した。中世のアリストテレス的世界観の中では、時間は円環的だったが、近代になった時間は直線的となる。それまで時間を測定する必要もなかったが、時間が過ぎ去っていくという強迫観念から、「時は金なり」という格言が生まれ、懐中時計が発明されたのもこの頃。時をつかまえ制御しようとする精神こそ、近代科学的世界観を生んだ精神に他ならない。近代ヨーロッパ初期において、科学と資本主義は不可分だった。直線的時間と機械論的思考の発生。時と金の同一視。時計は世界の秩序のメタファーとなる。
理論から実践へ。職人の流動化と学問との融合
ベーコンやデカルトなどの思考体系があくまで方法論だったが、ガリレオの時代に入ってからそれらの方法論が社会実装されるようになった背景には、 学者と職人の間の壁が崩れたことが挙げられている。
それまで、職人は社会階層的に低い身分だったが、15世紀末に封建経済体制が弱まった結果、船乗りや技術者を含めた職人たちが社会的流動性を持つようになった。アリストテレス=スコラ哲学が自然に対してまったくの受動的な考えであることが批判され、そういった書籍が日常語で書かれたものが、商人や実業家の間で普及した。それによって、職人や技術者たちが学問の世界に突入したのである。ガリレオは学者でありながら、同時に多くの技術者の師を持ち、学問の外で発展した機械論を取り入れていった。そうして、技術的実地研究と理論的結論は結びついていった。認識、世界の本質、西洋科学的方法は、資本主義の勃興と密接に関わりながら進んでいったのである。
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