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「その他の醸造酒製造免許」取得までにやったことを公開します。
僕たち haccoba は、2021年2月25日に「その他の醸造酒製造免許」を交付いただきました。
酒づくりの修行も含めると、動き出してから取得まで約1年10ヶ月かかりました。
これから新しく酒蔵をつくりたいと思っている方が、僕よりも楽にスタートラインに立てるよう、自分の経験を可能な限り簡潔にまとめて公開しようと思います。
必要だと思うことを取捨選択しながら実践してもらえると嬉しいです。
(あくまでも個別の経験談であり、これ通りに進めれば確実に免許をいただける訳ではない、という点をご理解のうえ参考にしていただければと思います。)
※僕自身は、WAKAZEの稲川さんに多大なるサポートをしてもらいました。稲川さんも参考になる記事を公開しているので、そちらも隈なく読むことをおすすめします。
前提
- 決意した時の状態:酒づくり未経験
- 決めていたこと:委託製造はせず、自社製造酒をいきなりつくる
- 国税局の定める拒否要件に該当しないよう、準備を進めた
以下の文章で、上記の「場所的要件」「経営基礎要件」「技術・設備要件」を満たせるように何をやってきたか、整理したいと思います。
事前準備(2019/04)
自分で酒蔵をつくると決め、大まかな事業計画をつくりはじめました。
その過程で先輩方へも相談をし、酒蔵で修行をしながら事業準備をすることに決めました。
修行先の酒蔵は、新潟県柏崎にある「阿部酒造」さん。理由はシンプルで、自分が一番美味しいと思うお酒をつくっていたから。
それ以外にもビールやワインのつくり方、他の酒蔵さんでの酒づくりも知りたいと思い、いくつか並行してやれる方法を模索しました。
同時に、ファイナンス面やネットワーク面等でのサポートを受けるため、Next Commons Lab さんのコミュニティにも参画しました。
【技術要件】酒づくり修行
※時期:2019/05〜2020/05
通年で阿部酒造さんで修行をしました。
酒づくり以外にも、夏場の酒蔵のメンテナンス、出荷、イベント等まるまる経験させていただきました。
▼経験をさせていただいた酒蔵、ブルワリー、ワイナリーさん一覧
- 阿部酒造さん
- 学校蔵(尾畑酒造)さん
- WAKAZEさん
- 常陸野ネストビール(木内酒造)さん
- グレープリパブリックさん
【場所的要件】物件探し
※時期:2019/07〜2020/05
酒蔵をつくる地域を決めた後に、物件探しを始めました。
決めていたことは、一から建物を建てるのではなく、今ある建物を活用すること。その土地の文化を担う存在として、その土地に元々あるものを繋いでいきたかったのが大きな理由です。
物件探しは本当に苦戦しました。
そもそもなかなか条件に合う物件が見つからなかったり、決めていた物件が直前になってダメになってしまったり、、予想以上に時間がかかりました。
▼決めた物件の概要
- 築50年弱の2階建て民家
- 1階部分をブリューパブに改装(約90㎡)
- 敷地面積約520㎡、ガレージ付き(お酒と原料の貯蔵庫)
【経営基礎要件】法人登記
※時期:2020/02
いずれ法人格で事業運営をする可能性があるのであれば、免許をいただく主体は最初から法人の方が良いだろうと思ったのと、資金調達をする上でも法人格の方が良いだろうと思い、法人登記をしました。
【経営基礎要件】融資相談、補助金申請、クラウドファンディング
※時期:2020/06〜11
▼ファイナンスの構成
- 自己資金
- 融資(あぶくま信用金庫さんと日本政策金融公庫さん)
- 補助金(福島県創業促進・企業誘致に向けた設備投資等支援補助金)
- クラウドファンディング(Makuakeさん)
- Next Commons Lab の支援(≒ 2人分の人件費)
必要経費をざっくりまとめたものは下記記事を参照。
一番大きなポイントは、立ち上げ時にエクイティでの調達はせず、デッドのみでいくと決めたこと。エクイティでの調達も視野に入れれば、きっと酒蔵立ち上げに投資できるスケール感やスピード感も変わってくると思うので、ここら辺は自分たちの事業に合った判断が必要です。
また、僕たちは税務署の方から「資金は初期投資分以外にも最低3ヶ月分の運転資金はないと厳しいよね」と言われ焦ってかき集めたので気をつけてください。笑(当たり前と言えば当たり前)
【場所的要件】建築デザインとリノベーション
※時期:2020/06〜2021/02
酒蔵にする物件をリノベーションするにあたり、東京の建築事務所 Puddleさんに建築デザインを、地元の施工会社ミヤガワ工房さんに施工をお願いしました。予算をかなり抑えて提示していたため、そもそも予算内に収めることが難しかったです。
着工まで約3ヶ月の遅れ、施工期間も約2ヶ月の遅れが出てしまい、一番スケジュールを圧迫してしまいました。
とはいえ、プロの方々のお力により、日本で一番カッコいい酒蔵ができたと思っています!
【設備要件】設備の選定と搬入
※時期:2020/03〜2021/01
ある程度物件の候補が決まってきたタイミングで、醸造機器卸をやっている北村商店の北村さんに相談しました。北村さんはWAKAZEさんも関わっていたため、必要設備の選定コストがかなり抑えられました。
▼入れた設備
・蒸し:ボイラー+中華せいろ
・製麴:吟の箱
・タンク:サーマルタンク300L×3
・瓶詰め:びん太
【場所的要件?】保健所の営業許可取得
※時期:2020/06〜2021/02
お酒を製造するために保健所の営業許可が必要なため、早めに事前相談をしながら進めました。建築のプロの方々と一緒に進めていたので、コミュニケーションコストはかなり抑えられた気がします。
最後に保健所の営業許可をいただいて初めて、酒類製造免許もいただける、という流れです。
その他、スムーズな免許取得のために実施したこと
- 税務署に早めに事前相談をする
酒蔵の立ち上げを検討し始めて、ある程度エリアを決めたら、税務署に早めに事前相談をした方が良い(本申請〜最短4ヶ月はかかる)
- 飲食店小売店さんに取引承諾書をいただく
委託醸造で販路をすでに持っていたり、酒販業等でルートを持っていたりしなかったため、新たに取引見込みを証明する必要がありました。
そのため、20店舗弱の飲食店小売店さんに取引承諾書をいただきました。
- 阿部酒造の阿部裕太さんに技術顧問になっていただく
酒づくりの修行で一通り経験させていただいたとはいえ、何か想定外の事態があった場合等に相談できる環境であることを証明するため、技術顧問として関わっていただくことにしました。
やっていて気づいたこと
- (僕の場合は別の目的もあったが、)「免許取得の技術要件を満たす」という目的だけであれば、修行期間はもっと短くてもいけるかもしれない
- タンクなどの設備はビール用やワイン用など、海外製のものでも良ければおそらく半額程度に抑えられる(僕たちはメンテナンスコスト等の理由でほとんど国内製の設備を使うことにしました)
最後に。
僕は、酒づくりのハードルが下がり、つくり手がどんどん増えていくことを望んでいます。今回もその想いに基づいて note をまとめました。
今後、つくり手を増やすためのプラットフォームづくりにも力を入れていきたいと思っていますので、「つくり手になりたい」と思っている方はお気軽にご相談ください!
■相談窓口:haccobaのTwitterアカウント