ショートショート『聴こえるガラス』
聴こえるガラス
作:尾崎 太祐
私には、なによりも大切にしているものがある。
おわん型のきれいなガラス細工。
見ているだけでもうっとりするが、ある時、「音」が聴こえることに気がついた。耳に当てると、いろんな音が聴こえてくる。
きらきら……カランコロン……
その時々によって音が違う。
さらに驚くことには、私の心を見透かしたかのように「聴きたい音」が聴こえてくることもあった。
その音は、日に日に鮮明になっていく。まるで声のようだ。耳元で語りかけてきては、私の心を満たしてくれた。助言をくれたこともあった。
もっと聴きたい。助けてくれ。教えてくれ。
そう願ううちに、聴こえる音はだんだん大きくなり、歪むようになる。
どうして、なぜ聴かせてくれないんだ。そう思えば思うほど、大きく歪んだ音になっていく。
ええい、うるさい!
私はガラス細工を床に叩きつけていた。
粉々になった宝物を見て気づく。
これは私の心だったのかもしれない。
今はもう何も聴こえない。
(おわり)
この作品が生まれた経緯
この作品は、僕が参加したワークショップで生まれた作品です。
第1回ワークショップ開催(オンライン) – 坊っちゃん文学賞
絶対に隣り合うはずのない言葉同士でコンセプト(≒タイトル)を作り、連想的にアイデアを膨らませていきました。
僕の場合は「音が聴こえる」「ガラス」というように。
この作品がショートショートのセオリーに沿っているのかはさておき…
短時間の瞬発的な発想が大事だし、これくらい気軽に書いていいんだ。
そんなことを改めて感じました。書くのはやっぱり楽しい!
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