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"好き"に正直になった、2020年

ちょうど一年前。2019年12月31日。
僕は一ヶ月後に迫った、朗読公演の台本を書いていた。

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これは、後になって決定稿となった台本の、冒頭の一ページ。
出来上がったのは、ひとつの夢を追う男女のお話で、選択の物語だった。

仕事、夢、人間関係、恋愛。
本当に大切にしたいもの。
様々な思いを天秤にかけながら、ひとつの「正解」を選ぶ物語。

今思えば、一年前はだいぶ呑気に、書いていたと思う。
2020年、大きな選択をすることになるのは、台本の中の登場人物以上に、自分自身だというのに。

2020年、僕は会社を辞めた。


予感は、なかったわけじゃない。

あまり興味のない仕事だったが、人間関係だけは良好だった(と思う)。
山手線に乗って、朝10時に出社。入場ゲートはいつも混む。
自分の座席でメールを打つことは少なく、夕方までミーティング続き。
それでも、昼休みには上司とコーヒーを飲みに行き、紙巻きタバコを吸う。
金曜日は、後輩と新橋駅で愚痴りながら呑む。

その繰り返しだった。平穏な生活。
だからこそ、焦りもあり、嫌な予感もあった。
"2021年、このままの形で迎えることはないだろうし、迎えたくない。”
そんな予感が、年末に書いていた台本にこもってしまったんだと思う。

2020年の、春。
突然の流行病の"おかげ"で、予感は、実感になっていった。

昨日までの仕事はすべて、在宅勤務になった。
朝起きる時間は遅くなり、通勤で使うはずの体力を温存できた。
大勢の会議は出なくても、多少仕事の手を抜いても、怒られなかった。

その代わり、昼休みのコーヒーと、金曜日の飲み会が消えた。
存在感を出した気でいたミーティングは、聞くだけでも済んだ。
顔が見えない。相談をしたい同僚は、今どこにいるのかもわからない。
雑談が消え、仕事仲間にどう思われているかがわからなくなった。
この仕事でまったく成果を出せていないことに気づいた。

「興味はないけど、好きでもないけど、仕事ってそういうものでしょ」
そう話す僕を横目に、後輩や新入りのメンバーは、がつがつ成果を上げる。
彼らのやる気の源は「自分の仕事が好き」という誇りなんだと思った。
そんなもの、入社6年目の低空飛行社員には、まったくなかった。

これは、絶対に勝てない。
じゃあ、現状維持で頑張れそうか?
自問自答のうち、「辞めたい」ばかり考えていた。

そんな思いを固くした出来事には、ほかにも思い当たる節がある。

憧れの人から、自分のあり方を厳しく否定されたこと。
一緒に作品をつくりたかった人が、病気でこの世を去ったこと。
作品のために徹夜した日の興奮が、しばらく忘れられなかったこと。

そこにはすべて、"好き"という気持ちがあった。
これに見て見ぬ振りをして、先送りにしてはいけないと思った。
好きな人たちや、好きな場所は、明日消えてしまうかもしれない。
実際、今日までに、いくつかが消えてしまった。

だから僕は、会社を辞めた。
すべては、自分の"好き"に、正直になった結果だ。
これから、自分の"好き"に、全力で向き合うためだ。

わかっている。
この先は、すべてが自己責任。
間違えれば、時間を失い、仲間は離れ、こころを病んで、倒れて死ぬ。

それでも。
みんなが穏やかに気づいているはずの中、あえて言葉にするならば。
この不安定な時代に、ほんとうに大切にできるものは、多くない。
きっと、自分が心の底から信じている、"好き"だけだ。


今日、2020年12月31日。

以前よりだいぶモノが減った、引越先の新しい部屋で。
穏やかにこの文章が書けているのは、こんな僕のわがままと自己陶酔を許してくれた人たちのおかげです。
自分にとっての"好き"だけを守るという、手前勝手な選択を受け入れてくださった、すべての方々のおかげです。

後押ししてくれた家族、友人。
前職で恩師となってくださった上長、同僚諸氏と、後輩たち。
思いも寄らない刺激をくれる、ロボットコミュニティの皆さん。
逆境でもがきながらも、演劇やエンターテイメントを作る同志。
それから、あなた。

本当に、ほんとうに、ありがとうございました。

2021年、僕は"好き"を形にするために、突き進みます。
すべてを懸けて、面白い未来を作りに行きます。


本年も大変お世話になりました。
よいお年をお迎えください。

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尾崎 太祐
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