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21世紀の新しい軸「ドーナツ経済学」

2021年夏休みに読んだ本、「ドーナツ経済学が世界を救う」。21世紀の経済は、GDPの右肩上がりの成長ではなく、ドーナツの枠の中に収まることを目標としよう、という話。

SDGsはすでに世界共通の目標だけど、沢山のゴールがあるし、単一の目標の寄せ集めになっている感があり、たとえどこかの企業が環境破壊や人種差別などをやっていたとしても「我が社はSDGsに取り組んでます!」なんていくらでも言えそうな気がしていました。

このドーナツ経済学は、21世紀の人類の目指すべき姿をドーナツで表しています。非常にシンプルで、包括的でわかりやすい!個人、企業、国、人類みんなこのドーナツのモデルでビジネスや政策を議論すべきだと思います。

自分の理解を深める意味で、またこのドーナツ経済学が世界中に広まることを願って、このnoteにまとめたいと思います。

背景

20世紀から現在に至る経済の目標は、GDPを限りなく成長させることでした。しかしこれでは、行き過ぎた資本主義によって地球の資源は食い潰され、結果として地球温暖化、気候変動など、将来人類が存続できなくなるリスクを高めています。また、環境のみならず格差の拡大という問題も深刻で、裕福な人が存在する一方で、日々の生活すらままならない貧困に苦しむ人々を生み出してしまします。これらの結果は全て今実際に人類が直面していること。行き過ぎた資本主義からもたらされる様々な問題を解決するために、イギリスの経済学者ケイト・ラワースさんによって提唱されたのが「ドーナツ経済学」です。

「地球やばいかも、だけど、資本主義のシステムはそう簡単には変えられなれないし、各国のトップの会議でも議論は平行線・・・」と半ば思考停止状態に陥っている中で、非常に希望をもらえる、また自分でも何か行動を起こしたいと考えさせられたアイデアだと思いました。

ドーナツ経済学とは

ドーナツ経済学に関しては、このTEDトークがわかりやすいので、是非見てください(日本字幕が利用できます)。
以下の図にあるとおり、ドーナツの内側は人間として最低限の生活を営むための線であり、誰一人としてドーナツの内側に落としてはいけないラインです。外側は地球の資源の限界であり、人類の活動はこの線を超えてはならないというライン。これら二つの線に囲まれた部分が、人類にとって安全で公正な範囲となります。(以下の図は、Wikipediaより引用)

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つまりどういうことか

自分なりに以下のように理解しました。例えば、アボカドを海外から仕入れて、日本で販売するビジネスを考えてみたいと思います。

これまでのGDP、つまり売上拡大を目標にした世界では、企業は沢山の人にアボカドを買ってもらうことが目標です。そのために、TVCMや雑誌などを活用して「健康にいい」とか「おしゃれ」とかいうマーケティング戦略を展開します。また、より安く提供するために仕入れ先(農家)の選別も行う必要があります。アボカド農家は、なんとか自分のところのアボカドを買ってもらうために、安い労働力の確保、長時間労働、農地拡大のための熱帯雨林の伐採などを行うことになるでしょう。結果何が起きるでしょうか?日本のこの企業は爆発的なヒットによって売上、利益が鰻登り、日本の消費者は美味しいものをより安く食べることができるのでハッピーです。しかし一方で、自然環境の破壊、現地の水不足(実際にアボカド栽培では水を大量に使うので現地では水不足が深刻化しているらしい)、児童労働などの問題を招くことになります。これはまさに製造業、衣料業界などいろんなところで起きている問題だと思います。

一方でドーナツに収まることを目標とした世界ではどうなるでしょうか。まずドーナツの内側の人間的な生活を営むラインを意識してみましょう。この場合企業はアボカドを生産する農家の状況をこれまで以上に詳しく把握する必要があります。その上で、農家の人たちが人間的な生活(水、労働時間、教育など)を営む上で必要な契約やコスト算出などを行う必要があります。ドーナツの外側の環境についても考慮する必要があります。企業としてはできるだけ沢山作って日本の消費者に届けたいという思いはありますが、その前提として限られた資源の範囲で生産することを前提に必要があります。このようにドーナツ経済学のモデルで考えた場合、素人目で考え得ただけでも、いろんなことを考慮する必要があり、またそれなりの専門的な知識も必要そうということがわかります

以上のことから、少なくともこれまでのGDPや売上拡大を目標とした施策では、気候変動や格差などの社会問題は解決できないということ、また今地球上で起きている様々な社会問題を解決するためには様々な専門家が集い新しい軸で議論する必要があることがわかります。地球の資源が限られている以上、人間の身長と同じように無限の伸び続けるということはあり得ない、右肩上がりの成長は「幻想」だということを認識すべきです。

ケース

ドーナツ経済学のモデルをベースに政策を決める動きが活発化しています。世界初の適応となったのは2020年4月のオランダ アムステルダム市のケースです。ドーナツ経済学のモデルを軸とすることで政策の議論のポイントが明確になります。

その後、2020年9月にもベルギー ブリュッセル市がこのモデルの導入を発表しました。今後も世界中の国、自治体、企業、ひいいては個人でこの動きが活発化していくと思います。

最後に

僕はスーパーコンピュータ(以下、スパコン)のシステムエンジニアです。このドーナツ経済学のモデルを知ったときにすぐに思い浮かんだのは「これからスパコンのビジネスはどのようになっていくべきか?」ということです。スパコンは天気予報などの社会基盤として、また、気候変動や宇宙開発などの研究開発用の基盤として非常に重要なシステムです。一方で大量のサーバやストレージなどの機器から構成されるため恐ろしく電力を消費するシステムでもあります。

まだ答えはありませんが、スパコンビジネスをドーナツ経済学のモデルに当てはめた場合、これまでの世界中にシステムを沢山導入しようという目標はダメで、ドーナツの枠の中に収めた上で研究者や社会のニーズを満たすにはどうすれば良いのか、というのを様々な人を巻き込んで議論する必要があります。

「ドーナツ経済学」の本質は、右肩上がりの成長ではない新しい軸で議論を行うことにあると思います。この新しい議論の軸が普通になることで世界は変われると思う。そのためにこのモデルを周りにどんどん広げていきたいと思います。

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