プロローグ~そもそもなぜタイだったのか②~
それからもOはことあるごとに僕をご飯に誘ってくれた。
しかしいつも決まって終盤になると「それでタイはいつ行くんだ?」と聞いてくる。
僕はOのことは好きだ。
年齢は10歳離れているがいつも僕をご飯に誘ってくれる。
可愛がってくれているのは充分に感じていた。
でもこの海外に行けという期待にはどうしても応えられない。
だって興味がないんだもの。
それにお金もない、ましてやそもそもパスポートも持っていない。
僕はだんだんOからの誘いが少し苦痛に感じるようになっていた。
その日もOは僕をランチに誘ってくれた。
心の中では「今日もあの話が出るんだろうな。どうやって誤魔化そう。」
そう考えていた。
そして案の定お決まりの「タイに行くべきだ」という話を聞かされた。
この日の夜僕は悩んでいた。
どうすればOはこの話をやめてくれるのか…
そして一つの結論に至った。
「そうか、俺がタイに行けばもうこの話は出ないのか」
そう決めてからは早かった。
翌日にはパスポートの申請を行い、トラベルコでチケットの値段も調べた。
「飛行機のチケットは往復で取らなければいけないこと」
「新幹線のように気軽に変更できない」ということを初めて知った。
そしてパスポートが出来るや否や、旅行代理店の窓口に向かった。
しかし僕は滞在日数を決めていなかった。
何日間の滞在が妥当なのかもわからない。
もうこの際どうとでもなれと往復の料金が安い日程でチケットを購入した。
9日間だった。
後日またOがランチに誘ってくれた。
そしてお決まりの質問がやってくる。
僕はいつものように少し悩むふりをしながら
「う~ん、それなんですけどねぇ…」
そう言いながらパスポートと飛行機のチケットの画面を見せた。
Oの目が今までに見たことないぐらい輝いていた。
Oが僕の手を握りブンブン振っている。
「このことをKにも話そう!それから旅仲間のNも呼ぼう!
あえて今日と同じシチュエーションでやったほうがいいな。」
決めたことは何が何でもやる人だと改めて思った。
そして後日僕は地元のとんかつ屋でKとNに対し
「う~ん、それなんですけどねぇ…」と小芝居を打ったのであった。
かつてバックパッカーであった3人の男たちは自分が行くかのように
「あそこは鉄板だよな」「あそこは外せないよな」と大いに盛り上がっていた。
そうこうしているうちに「(僕を)見届ける会」なるグループラインまで出来てしまった。
こうして僕はタイに行くことが決まったのであった。
2016年9月のことである。