会社を引き継ぐことになった理由(小説風)~100日社長160日目~
今日はなぜ自分がリクティーを引き継ぐことになったのか。その話を少し振り返ってみる。
※半年ほど経っているため、自分の記憶違いで中身が実際と違う部分はあると思います。小説だと思って読んでもらえれば。
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「永山に抜けてもらおうと思う」
会社に来て席に着き、二言三言話したあと、急にそう切り出された。心臓の鼓動が早くなり、何かがこみあげてくるのを感じた。
「そういう判断なんすね」
その日はこの会社を今後どうやっていくかという話をしようと言われていた。
半年間かけて作った整骨院向けのVR自主トレーニングアプリはお世辞にも売り上げが立っているとは言えず、知り合いがいるところが僅かに買ってくれただけだった。
これをこのまま売っていくのか、バーンレートも上げてしまっている中、タイムリミットはもう2カ月くらいしかなかった。
「残りのメンバーでピポットしようと思う」
このままその製品をごり押しで売っていく判断は自分が考える方向性の中にもなかった。
しかし、まさか自分が抜けることは考えてもいなかった。
会社に来る途中でエンジニアの人材会社で働く先輩に、会社経由で契約して自分ならいくらくらい稼げるか聞くため、夜に飲みの予定を入れたところだった
「そうすか、、、もう一緒に働けないんすね」
既に業務委託で自分が一時のしのぎを稼ぎ、その間に社長にピポット案を考えてもらう話はしてあった。それも考えた上で話しているんだと思うと、それしか言葉は出なかった。
自分の不甲斐なさに目頭が熱くなっていた。
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「先輩、自分首になりました(笑)」
自分がそういうと
「お前、話ちげぇじゃねぇかよ」
先輩はハイボールに口をつけた後、冷静に笑いながら言った。あまり驚かれなかったのが少しホッとした。
「じゃあ晴れて今日からフリーランスだな」
リクルート出身の先輩は物事の呑み込みが早い人で、あまり説明しなくても自分の状況を察してそう声をかけてくれた。
すごくありがたかった。あの時食べたシュラスコの味はすごく鮮明に覚えている。
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それから数日後、朝起きてメッセンジャーを開くと、先輩から紹介してもらった会社との面接が組まれたと日程の連絡が来ていた。社長からも連絡がきていた。
「今日この後時間ある?」
昨日投資先にピポット案の打ち合わせが開かれた。調子がいい時は簡単だが、悪い時に難しいのが説得だ。案の上話は長くなり、結論が出る前にタイムアップになった。
自分は急いで待ち合わせのカフェに向かった。
カフェに入り、社長を見つけ、コーヒーを頼んで席に着く。
「永山が会社をやらないか?」
開口一番そう切り出された。今度は何も言わないわけにもいかなかった。
「自分にはできないですよ。なんでそう思ったんですか?」
社長曰く、自分はVRでビジネスやる気はもうなく、ピポットするにも投資家の承認を得るのも難しい。このままだと会社をたたむ判断になる。だったら永山がVRビジネスを続けていく方がいいんじゃないか、ということだった。
確かに昨日の打ち合わせで、自分はVRにこだわっている、という話だけをした。ただそこに何か儲かる確信があるわけではなかった。ゲームのフロントエンジニアとしてそれ以外のビジネスをやれる気もやる気もなかったのと、VRが近い将来普及の波が来ないわけがない、という大局観があっただけだ。
しかし、この会社でそのままやれるなんて思っていなかった。そんな時間の余裕は自分たちになかったからだ。仮に自分以外の全員がいなくなっても、創業期に作った借金もある。難しいと思った。
「フリーランスになろうと思います。」
そう言って、足早に店を出た。
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「久しぶり」
Yシャツの上からでも分かる異様にでかいその男はハイボールを飲みながら待っていた自分に話しかけてきた。
大学時代の部活の同期で、ラグビーのプロ選手だ。
「で、投資の話どうするとや?」
いつまでも抜けない福岡弁で彼はそう切り出してきた。
実は会社のピポットを考え始めた時に彼に声をかけたのだ。他の個人投資家にも複数人OKをもらっていて、会社を存続させる手段の一つではあった。
しかし、社長も含め自分たちにピポットをする、しかもその案が決まっていない中で投資家たちに追加で出資をしてもらうことはしたくなかった。
今日の飲み会もそれを伝えるために来てもらった。
「ごめん、俺サラリーマンに戻るわ」
フリーランスという言葉で伝わるのかわからなかったので、会社から役員報酬以外のお金をもらう身分に戻る、という意味でそう伝えた。
「またお金貯まったら会社をやろうと思う」
自分がVRが来ると思っているのは、VRに意欲がある投資家への方便ではなく、心からそう思っていた。まずはそのための軍資金を貯めて、そこから再スタートするつもりだった。ただそのころには波が来てしまっているのではないかと、不安に思う部分があった。
「つまらんなぁ」
同期はいつまでも子供みたいで、でもどこか憎めず、常に面白いことを探し続けた先にプロになったようなやつだった。
そこから住吉にあるホルモン屋で、ラグビー部らしく酒をガバガバと飲みながら、ここまでの経緯、おそらく会社をたたむことになるだろうという話などをした。話しながら熱がこもってしまうのはおそらく、まだ日がそんなに経っていなかったからだろう。
「俺が出資しちゃあけん、今すぐ会社作りぃよ」
黙って話を聞いていた同期が、酒の追加注文でもするように気軽に言ってきた。
自分が予想もしないようなことを言われるのにここ数日慣れすぎて、自分の回答はそっけないものだった。
「俺には無理だよ」
自分で言いながら少し悲しくなった。その彼の言葉が心の奥の方に小骨みたいにひっかかるのを感じた。
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同期と別れ、半蔵門線に乗った。自宅がある水天宮まではすぐだ。
フリーランスとして働くなら、渋谷あたりに住んだ方がいいかな、とそんな計画も先輩から話をもらった後考えていた。
何が悪かったんだろうか、自分の開発力がなかったこと、プレシードの投資契約直前まで言って断られたこと、裁判を起こす通達をもらって製品の路線を変えたこと、集めた仲間、起業したこと、たくさんの答えが出ては消えた。
水天宮駅に着いた。
自分がVRの会社をやるならどうするだろうか、toB向けは自分には向かない、保険点数を取る方向だって自分には無理だ、今のVRを使っている層はゲーマー層だ。ゲームとしてアメリカで数百万台ハードが売られている。絶対に売れるゲームを作れば勝負できるはずなんだ。
水天宮駅の長いエスカレーターを上りながら、気づいたらふつふつと起業したころの気持ちが戻ってきていた。あれをしたい、これをしたい、絶対売れる、今すぐやろう、売れてもいないのにアイデア出ては消えするあの時期は、会社を全く大きくできていない自分にとって一番楽しい時期だった。
改札を出て、隅田川沿いを歩く。2月末のこの時期のこの辺りは風が強い。だけどあまり寒くなかった。
そんな時電話が鳴った。先輩からだ。数日前に受けた最初の会社の面接結果だろうと分かった。落ちただろうと、面接の時の感じからわかっていた。
「ごめん、断られた」
予想通りの答えが返ってきた。でもなぜか背中を押されたような気がした。
「先輩、俺会社続けようと思います」
自分でも整理していなかった言葉が口から出た。でもその言葉が自分の気持ちだとすぐにわかった。
「自分、会社続けようと思います」
今度は冷静に、そして自分に言い聞かせるように先輩に伝えた。
これから説得しなくてはいけない投資家、メンバー、家族、同期のことはあまり深く考えていなかった。自分の心に従った。
額から汗がにじみ出ているのを感じた。
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以上です。小説っぽくしすぎた気もしています(笑)
短く概略で語ったのであまり伝わらないかもしれませんが、もし要望が出たらそれぞれ章分けして長く語りたいと思います。
VRゲーム制作がんばります!ありがとうございます♪