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柴犬と古民家で生活してます。

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マガジン

  • コムギのいた生活

    7才の若さで悪性腫瘍に侵されていることが発覚してしまった愛犬コムギとのかけがえのない日々。 犬の幸せとは何か、飼い主として出来ることは何か、そして命とは。 少しづつ最後の時に向かっていくなかでその問いと向きあい、犬との生活の尊さを記憶に刻みこんだ記録。

最近の記事

コムギのいた生活14 -再び-

散歩道の金木犀の香りが濃くなってくると日差しもすっかり秋めいてきて大通りの街路樹も少しづつ黄色みを帯びてくる。 日中は網戸越しに暖かい日差しを浴びて微睡むコムギだが、日が暮れるとコタツに篭ってしまいその可愛らしい顔を拝む機会がめっきり減ってしまう。 8月から9月にかけて2度目の放射線治療を受けさせていた。 昨年の根治治療での放射線照射は3週間に渡り平日に毎日照射をしたが、今回の緩和治療では同じく3週間の期間でも平日に1日おきの週3回と照射の数は少ない。 仕事を辞めていて日中に

    • コムギのいた生活13 -日陰の予感-

      8月になりコムギは8歳の誕生日を迎えた。 僕たちは今までに無い感慨を持ってその日を噛み締めた。 腫瘍発覚後に歳を重ねた日を一緒に過ごしていられることを。 むせ返るような草木の香りに満ち溢れた院内の木々は夏の朝の日差しを浴びてその色をより一層輝かせていた。 草むらに鼻を突っ込んで匂いを嗅いでいるコムギとその横を歩く彼女を追って僕はカートを押していた。 都内よりも蝉の鳴き声が強く響く。 放射線治療の二度めの経過検査のために隣県にある大学病院を訪れていた。 昨年に初めて訪れた時は

      • コムギのいた生活12 -兆候-

        春が過ぎ5月を迎えて日差しにも初夏の予感が漂い始めた。 隙間風が何処からとなく入り込む古い一軒家に住む僕たちはこの時期になってやっとコタツを片付ける。 冬眠時の籠り部屋を失ったコムギは新たな定住先を求め流浪し、やがて窓際の庭に面した陽だまりが注ぐ絨毯の上に落ち着き心地良さげに微睡む。 当初の想像を遥かに超えて猛威を振るっていたコロナがそれまでの日常を次々とひっくり返していた。 例年であれば大いに賑わうはずのGWに初の緊急事態宣言が発令されて世間が騒然となるなか、僕たちはコムギ

        • コムギのいた生活11 -幸せな日々-

          東京郊外。 多摩川の堤防沿いは桜で溢れていた。 端に積もる桃色の絨毯の上をコムギがゆっくりと歩く。 川の対岸の先には奥多摩の山々が迫り関東平野の西の端にいることを視覚で感じることができる。 桜そのものにあまり興味を惹かれることは無い自分なのだが、コムギがそこにいると感じる情緒はまるで違う。 桜が美しい。 僕たちは久しぶりの外出を満喫していた。 2月に受けた腫瘍の経過検査の結果が良好でコムギは病気前と変わらない生活を送っていた。 日に日に寒さが遠のいていき、窓際で微睡むコムギ

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        • コムギのいた生活
          14本

        記事

          コムギのいた生活10 -歓喜-

          年が明けて最初の火曜日、抗癌剤の投与を開始するために腫瘍科のM先生の診察を受けに病院に行った。 抗生剤が効いたのか、コムギはもう痛み止めを与えなくてもカリカリご飯を食べることが出来ることができるようになっていた。 M先生はアシスタントのA先生から年末に診察を受けたカルテを受け取り真剣な面持ちで確認をしながら、 「ご飯を食べれるようになって良かったです。抗癌剤の影響でご飯を食べられなくなることもあるので、まずはご飯を食べられることがとても大切になります。」 先生はカルテから目を

          コムギのいた生活10 -歓喜-

          コムギのいた生活9 -願い-

          3週間にわたる放射線治療を終えて、またコムギと過ごす日常が戻って来た。 例年以上にコムギと一緒にクリスマスを楽しみ、僕たちが年末に向けて高揚した気分に包まれた生活を送っているなか、どこかコムギは元気が無かった。 ソファーで寝ているばかりで、たまに立ち上がったとかと思うと鼻先や歯茎を爪でガリガリと描いていることが多かった。 連日の麻酔の影響がまだ残っているのかもしれない。 もしくは放射線照射の影響で鼻水が詰まって苦しいのかもしれないし、歯茎がむず痒いのかも知れない。 僕たち

          コムギのいた生活9 -願い-

          コムギのいた生活 8 -希望-

          最初から読む 放射線治療を再開して数日が経ったある日の昼過ぎに大学病院から連絡があった。 出社していた僕は先日お願いしたCT撮影の結果の連絡だろうと思い、会社の外に出て少し震えてしまう手を抑えながら電話を受けた。 O先生からだった。 「先日お話ししたCT撮影の結果なんですが、右鼻腔内全体が白く濁ってしまっていて現状の把握が出来ませんでした。」 「それは腫瘍が進行してしまっているということですか・・?」 先生は間髪入れずに答えた。 「白く混濁している部分は鼻水かとは思っている

          コムギのいた生活 8 -希望-

          コムギのいた生活7 -ある覚悟-

          最初から読む 入院の翌日に大学病院から電話があった。 コムギの身に何か起きたのではないのかと嫌な予感が過ってしまい、すぐには出ることは出来なかったが、意を決して出るとO先生からだった。 「コムギちゃんの2回目の照射も終わりました。とても元気ですよ。」 僕たちが心配していることを案じて連絡してくれたのであろう。 「連絡ありがとうございます!コムギ、ご飯ちゃんと食べてますか?寝れてますか?」 嬉しくて思わず声を上ずらせながら矢継ぎ早に質問を投げかけてしまった。 「はい、ご飯もち

          コムギのいた生活7 -ある覚悟-

          コムギのいた生活6 -長い1日-

          最初から読む 隣県にある大学病院は我が家からはかなり距離があるのだが、幸いなことに彼女の実家がその近くにあって、診察時間が朝早いこともあり前日に泊めてもらうことにした。 仕事が終わった後に出発したため、着いた頃には彼女の実家は普段であるならばもう寝静まっている時間になってしまった。 起きて待っていてくれた彼女の姉と旦那さんに迎えてもらい家の中に入ると、何度か訪れたことがあり彼女の家族のことが大好きであったコムギは興奮して嬉しそうにしていた。用意してくれた部屋で朝早い診察に備

          コムギのいた生活6 -長い1日-

          コムギのいた生活 5 -癌治療の開始-

          最初から読む 「悪性腫瘍には腺腫とリンパ腫があり治療方法も変わってきます。」 「リンパ腫の場合は抗癌剤治療がメインとなり転移の可能性を疑う必要がありますが、腺腫は転移の可能性は低く放射線治療と切除手術、抗癌剤を状況によって併用して対応します。」 「鼻腔内の場合はリンパ腫の可能性は低いのですが、念のためどちらか検査はしておきましょう。」 上背があり精悍な見た目の腫瘍科のM先生が手書きのメモで図解を交えながら治療法の説明をしてくれていた。 「放射線治療には完全に治すことを目的と

          コムギのいた生活 5 -癌治療の開始-

          コムギのいた生活4 -祈り-

          最初から読む 病気ひとつすること無く健康体そのもので、与えたご飯は必ず全て平げたうえでいつも物足りなさそうにしているコムギがご飯を残したことがあった。 食欲が無くて食べれないというよりは、食べたいのに食べれないといった様子で残してしまったカリカリご飯に向かって唸っていた。 唸り続けるコムギの様子をよく見てみるために近づくと、全部食べるつもりのご飯を取られてたまるかとばかりに僕たちに向かって吠えてきた。 歯を剥き出して吠えてくるコムギの顔を覗き込んでみると歯が欠けていることに

          コムギのいた生活4 -祈り-

          コムギのいた生活3 -好きなモノと嫌いなモノ-

          最初から読む 我が家は築50年の古い一軒家のため外気がその隙間をついては進入してくる。 冬は暖房をつけても耐えきれない寒さになるためコタツを出す。 コムギはコタツが大好きだった。 少しの間離れていたリビングに戻ると先程までいたコムギの姿がなくなり、コタツ布団の一部が盛り上がって洞穴のような侵入路だけが残されていることがよくあった。 そのため冬はコムギの姿を見かける機会がめっきり少なくなってしまうのだが、コタツの中で伸ばした足先に顎をのせるその温もりと質量を感じ取る季節になる

          コムギのいた生活3 -好きなモノと嫌いなモノ-

          コムギのいた生活 2 -我が家に来た日-

          最初から読む 2012年の夏、コムギは北関東の自然豊かな地で生を受けた。 産まれたばかりの子犬たちに会うために僕たちが電車を乗り継いでその地を訪れると、コムギは一緒に生まれた妹とともに連れられてきた。 芝生の上に放たれたコムギは傍にいた妹をぎゅっと踏みつけながら起ち上がると遠い空の彼方を凛と見上げた。 降り注ぐ夏の日差しに霞みながらも大地にその存在を刻むかのような凛々しい立ち姿に魅了された僕たちはコムギと共に生きていくことを決めた。 コムギの母親にも会った。 今でもその姿を

          コムギのいた生活 2 -我が家に来た日-

          コムギのいた生活 1 -発覚-

          残りわずかな命をそっと静かに灯すコムギを抱いて穏やかな陽の下を歩いていた。 もうほとんど自力では歩けないけれどもその野生の本能で外で排泄したがるコムギを抱きかかえて外に出た。 僕の肩に頭を預けるコムギを頬擦りしながら強く抱きしめ、鼻腔いっぱいにその豊穣な香りを吸い込み心地よく咽せる。 街路樹を介して優しく撫でてくる風を頬で受けながら、コムギと一緒に今まで当たり前のように何度も見てきた近所の目の前の光景を凝視する。 大きな通りとその脇に植えられた街路樹を、交差点の先の立派な古

          コムギのいた生活 1 -発覚-

          近所の神社

          愛犬コムギがまだ7歳なのに悪性腫瘍であることが発覚しました。重く沈んだ心が近所の神社に通うことで癒された話です。

          近所の神社