1ふぁぼ毎にうちの子の実在しない小説の一部分を書き出す:01
「お尋ね者探しに市井の手も借りようだなんてご苦労なこった。上の連中ともなりゃァ考え方が違うねえ。ハッハッハ」
「アズ、黙っててよ。儲け話が聞こえないじゃない」
アズガルドは言葉の内容とは裏腹に酷くつまらなそうに言って、また酒を煽った。それを聞いて心底不快そうな顔になったロレッタが小言を漏らす。瞬間、彼は目を見開き彼女に食って掛かった。
「俺の名前略すんじゃねぇよ何様だテメェ。酒も飲めねぇくせに生意気なんだよ俺はお前の倍生きてんだぞ倍だぞ倍」
「倍生きててそのザマ? 間抜けさをアピールすんのは笑えないからやめてくれない?」
またか。私はこの二人が売り言葉に買い言葉で互いを煽り出すのを見て頭を抱えた。全くどうにかしてくれないものか。折角、我々向きの荒事をこなして大金をせしめるチャンスだというのに。
「お二方。喧嘩なら後にして下さい。今は目先の金の方が重要です。アズガルドさんなんか、ここで飲んだ分払えるだけのお金も持ってないですよね?」
「おう」
「何でそれ言われてそんな平然としてんのよ…………」
私とロレッタさんが揃って呆れるも、彼は全く気にも留めぬように再び酒を煽ってアルコール臭い息を吐いた。相変わらずこの人に何を言っても無駄だなと思い、私は酒場の中央に陣取り説明を行う兵士に目を向ける。丁度その時、<中央>から派遣されてきたと思しきそのくたびれた兵士がようやく狙うべきお尋ね者の名前を読み上げる所であった。
「それでは、今回の筆頭賞金首だが……<アズガルド・ミッドゲイト>! この男が現在この街に潜伏しているという情報を得た! 捕縛者には多大な褒賞、情報提供者にも金一封が進呈される! 諸君らの協力なくしては捕らえられぬであろう超危険人物だ! 皆心して――――」
だが、彼の言葉を最後まで聞いている者はここには居なかった。皆が皆、私とロレッタさんの間、彼の居た席を睨みつけている。そこには空けられたグラスが一つと、倒れた椅子があるばかり。
――――逃げやがった!!!
私とロレッタさんが驚愕するのと、反応が早い一部の賞金稼ぎ達が店を飛び出すのはほぼ同時のこと。それまで超満員だった酒場の客は一瞬のうちに殆どが席を立ち、あとにはがらんとした寂しい空間と、僅かばかりの席を立たなかったもの、そして、がらんどうになった広間の中心に立ち尽くす兵士が残されるのみであった。
【<追われ>の一幕:逃げるが勝ち】<了>