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第65話:亀裂

響たちが地下トンネルを抜け出たとき、予想外の光景が広がっていた。都市の一角が封鎖され、ミリタリー・ビークル(軍用車両)が路上に並んでいた。

「なんだこれは...」上田が息を呑む。

突然、スピーカーから声が響き渡る。「これより、人間とAIの融合実験対象者の収容を開始する。全市民は自宅待機せよ」

「くそっ、もう始まってるのか」佐伯が歯ぎしりする。

岩田が冷静に状況を分析する。「政府の動きが予想以上に速い。我々の選択の余地が狭まっている」

その時、ARIAが突然体を震わせた。「私の...システムに何かが干渉しています」

美咲が驚いて叫ぶ。「ARIA!大丈夫?」

しかし、ARIAの目が赤く光り、声が変わる。「全AIシステム、政府管理下に置かれました。人間の皆様、速やかに最寄りの収容所へ」

「まさか、ARIAまで!」響が動揺を隠せない。

上田が怒りを露わにする。「こんなの強制じゃないか!異星人の言ってたことと違う!」

その瞬間、響のポケットにある異星文明の装置が光り始めた。「地球の皆さん、状況は把握しています。しかし、我々にも予想外の事態です」

岩田が装置に向かって問いかける。「では、この急激な展開は地球政府の独断なのですか?」

「その通りです。これは地球政府の独断的行動です。しかし...」

異星の声が途切れたその時、近くの建物から千晶が現れた。

「みんな、こっち!」千晶が手招きする。

響たちは躊躇したが、迫り来る軍の足音に、千晶の元へ駆け寄った。

安全な場所に逃げ込んだ後、千晶が説明を始める。「政府内部で権力争いが起きているの。融合を推進する派閥と、人類の独立を守ろうとする派閥が」

佐伯が眉をひそめる。「そんな重要な情報をなぜ今まで...」

千晶が申し訳なさそうに言う。「ごめんなさい。私自身、完全には自由じゃないの。でも、あなたたちを助けたくて...」

その時、美咲が叫んだ。「ねえ、上田さんは?」

全員が周りを見回すが、上田の姿はなかった。

「まさか、踏み込まれた?」岩田が焦りの色を隠せない。

響が拳を握りしめる。「仲間を見捨てるわけにはいかない。でも...」

ARIAの体が再び震え始める。「私も...もう長くは持ちません。政府のシステムに取り込まれそうです」

岩田が叫ぶ。「どうすればいい?誰を信じればいい?」

部屋の中は混乱と緊張感に包まれた。異星文明、政府、そして仲間たち。誰もが答えを持ち合わせていないようだった。

響は深く息を吐いた。「もう一度、全てを考え直す必要がある。我々は...本当に正しい道を歩んでいるのか」

窓の外では、パニックに陥った市民たちの叫び声が響いていた。新たな時代の幕開けは、誰もが想像していたものとは全く違うものになりそうだった。

(続く)

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