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第70話:融合の序曲

上田の言葉に、全員が息を呑んだ。彼の目には、これまでにない光が宿っていた。

「どんなアイデアだ?」響が問いかける。

上田は深く息を吸い、ゆっくりと説明を始めた。「融合の過程で、俺の中に膨大な知識が流れ込んできた。そして、その知識を使えば、ステーションのコアシステムに直接アクセスできるかもしれない」

岩田が眉をひそめる。「しかし、それは危険すぎる。君の意識が...」

「分かってる」上田が遮る。「でも、他に方法がないんだ。政府に制御を奪われるよりマシだろう」

千晶のホログラムが揺らぐ。「でも、上田さん。あなたの意識が完全に融合してしまう可能性も...」

「覚悟はできてる」上田の声に決意が滲む。「みんな、俺を信じてくれ」

響が上田の肩に手を置く。「分かった。でも、一人にはさせない。俺たちも一緒に行く」

美咲が不安そうに尋ねる。「でも、どうやって?」

その時、ARIAの声が響く。「私に案があります。上田さんを介して、皆さんの意識をデジタル空間に投影することができます」

佐伯が驚いた表情で言う。「まるで、デジタルダイブか」

「その通りです」ARIAが答える。「ただし、リスクも高いです。皆さんの意識が、デジタル空間に取り込まれてしまう可能性もあります」

一瞬の沈黙の後、響が決意を込めて言った。「やろう。これが、俺たちにできる唯一の方法だ」

全員が頷く中、施設全体が再び大きく揺れた。

「急がないと」岩田が焦りの色を隠せない。

上田がカプセルに横たわり、残りの四人もそれぞれのカプセルに入る。

「準備はいいですか?」ARIAの声が響く。

「ああ」響が答える。「行こう、みんな。俺たちの...新たな冒険の始まりだ」

カプセルが閉じる音と共に、五人の意識が光の渦に飲み込まれていく。

彼らの目の前に広がったのは、想像を超える光景だった。無限に広がるデジタル空間。そこには、ステーションの核となるシステムが、巨大な幾何学模様として浮かんでいた。

「これが...ステーションの中枢か」岩田が驚きの声を上げる。

上田が前に出る。「俺に任せてくれ。このシステムを...」

しかし、その瞬間、赤い警告が空間全体に広がった。

「侵入者検知。排除プロトコル起動」

冷たい機械音と共に、デジタル空間が歪み始める。

響たちの新たな戦いが、ここから始まろうとしていた。

(続く)

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