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ザ・エレクトロニック・レガシー・イン・サウス・オブ・キューシュー #2

ドーモ、タイラダ・デンです。よくきたな。

(前回までのあらすじ)ここは古(いにしえ)のゲームがひしめくリゾートホテル、「指宿いわさきホテル」。懐かしのゲームを骨まで味わいつくさんとするタイラダ・デンに、格ゲー界二大巨頭が次々と刺客を送り込む。はたして往年のキネヅカは通用するのか? 走れ! タイラダ・デン、走れ! おまえの連コインを咎めるものは誰もいないのだ!

前回:#1

 さて。

 俺の目の前には、今から20年ほど前に俺が命となけなしのコインを捧げた相手が、ホットな寝息を立てておねんねしてる。あの頃はコイン いっこ いれることにも迷うウブなネンネのボウヤだったが、今は違う。リベンジを誓いつつ、俺はベイブのスリットにコインをねじ込んだ。

 まずはこいつだ、ストⅡ’(ダッシュ)

よいこのみんなへ:ストⅡ’(ダッシュ)ことストリートファイターⅡ’とは、格ゲーブームを巻き起こした歴史的傑作ストⅡのマイナーチェンジ版だよ。同キャラ対戦が可能になったり、CPU専用キャラだった四天王が使用可能になったりしたんだね。

 俺はストリートファイターシリーズではハゲかヒゲかデブしか使わないという縛りを自分に設けていたため、自ずと使用キャラは限られてしまう。いろいろと考えた挙げ句、とりあえずサガットでCPU戦に挑むことにした。

サガット:前作「ストリートファイター」のラスボス。本作ではラスボスの座をベガに譲り、シャドルー四天王の3人目としてプレイヤーの前に立ち塞がった。身長226cmに対して体重が78kgしかないという、格闘家としてその体型は正直どうなのかと疑問を持たれるプロフィールでゆうめい。

 さて、20年ぶりぐらいに格ゲーに手を触れるにあたって、そしてサガットを使用するとなったときに、俺の心には大きな懸念があった。あの時代を生き抜いてきた奴らならきっとわかるだろう。

 そう、昇龍拳の入力がうまくできるかだ。

昇竜拳:レバーを右→下→右下とすばやく入力し同時に攻撃ボタンを押すことで成立する必殺技。(サガットではタイガーアッパーカット)入力に成功すれば強力な必殺技を出せるが慣れないと非常に難しく、このコマンドが自由自在に入力できることが脱格ゲー初心者の証の一つでもあると言えよう。

 モニターが焼けてしまっていて、ちょうど体力ゲージのあたりの色が全くわからない(体力ゲージが見えない)という意図せぬ縛りもあり、俺は緊張しながら最初のケンに立ち向かった。

 できた。ぴょんぴょん飛び込んでくるCPUのケンを、根本まで引きつけてのタイガーアッパーカットで迎撃する。飛び込んでジャンプ大キック、からの立ち小キック、キャンセルタイガーアッパーカット。基本コンボもきっちり決められた。溢れ出す脳内物質。やはり、あの頃培った技術は文字通り「身に付いて」いたのだろう。想定以上にうまくいったことで俺は、「サガットのエンディングってどんなのだったろうか」などと、当然クリアできるものだという気分に浸っていた。

 8人目のザンギエフにスクリュー決められ敗北するまでは。

 おかしい。サガット使ってCPUのザンギになんて負けたことなど、現役の頃だってなかった。やはり俺の腕は錆びついてしまっているのか。いや。だが。

 焦る心を沈めるため、俺は別のゲームに挑むことにした。今度はストZERO3だ。

よいこのみんなへ:ストZERO3はストリートファイターZEROシリーズの第3作目だよ。ZEROシリーズはストⅡ以前の時代が舞台で、若き日のリュウやケン、春麗たちを操って戦うんだ。

 さて、ZEROシリーズならば使用キャラは決まっている。

 春日野さくらだ。

 なに? さっきおまえはハゲとヒゲとデブしか使わないと言っていただろう、だと? あほか。いいか、よく聞け。

 ショートカットの元気っ子で、セーラー服にブルマ姿。長い鉢巻を風になびかせながら「はどーけーん!」とドスの利いた声でシャウトする女子高生だぞ。使用しない道理が何処にあるというのだ。おれはショートカットの娘に死ぬほど弱いんだ。わかったか。

ショートカットの娘に俺がどれほど弱いかを語らせたら、それだけで記事が一本出来上がるが、それはまた別の機会にしたい。

 お前がどうしても納得出来ないというのならば、まずはヤバイ級カートゥーン・カラテの使い手であるナカヒラ・マサヒコ=サンの大傑作コミカライズ「さくらがんばる!」を読んでこい。話はそれからだ。

 懸念していた昇龍拳コマンドが使いこなせたこともあって、さっきよりは気軽な気持ちで望むことができている。スーパーコンボを絡めた連続技なんかもスムーズに出せる。イケるという手応えを胸に俺は「ZERO3のラスボスはシャドルーイズムのベガだったな。あのサイコクラッシャー、初めて食らったときはびびったなあ」などと考えていた。クリアする気満々だ。

 5人目のソドムに投げ殺されるまでは。

 おかしい。CPUのソドムって、コチラの飛び込みをこんなに的確に迎撃してくるものだったろうか。やはりおれの腕は錆びついてしまっているのか。いや。だが。

 胸に沸き立つ黒い感情。己への疑問。それを振り切るために、俺はまた違うゲームにチャレンジすることにした。

 真サムライスピリッツだ。

よいこのみんなへ:「真サムライスピリッツ」は、異色格闘ゲーム「サムライスピリッツ」の続編だよ。「サムライスピリッツ」は一撃の威力が大きく設定されており、まさに一刀両断、一撃必殺のチャンバラ気分を味わえるゲームなんだ。もちろんニンジャも出てるよ!

 さて、サムスピシリーズでも俺は前述の縛りを守っているので、必然的に使用キャラは絞られてくるのだが、ここは一番の得意キャラであるアースクエイク氏に出陣いただくとする。

アースクエイク:「サムライスピリッツ」シリーズを代表する巨漢(284cm・625kg)のニンジャである。「ニンジャスレイヤー」に出てくる同名のキャラの元ネタと俺は勝手に思っている。しんじつは知らん。

 CPU戦は順調。画像のとおり、ラスボスである「羅将神ミヅキ」までたどり着いた。思いっきりラスボスが映っているが、1994年のゲームのネタバレなど考慮する必要はないだろう。

 今度こそやれる。現役の頃、アースクエイクでクリアする俺の後ろにはギャラリーが溜まっていたものだ。俺はそれを思い出していた。今度こそいける。

 負けました。

 手も足も出なかった。SNKのラスボスは強すぎる。そしてここまでくれば間違いない。やはり20年も経てば俺の腕は相当に錆びついてしまっているのだ。いや、そうではない。CPU戦のセオリーを始めとした、知識面が完全に抜け落ちてしまっているのだ。これでは勝てない。

 その後、ジョン久作=サンとのTwitterでのやり取りの中で、アースクエイクならしゃがみ大斬りをひたすらするだけでハメ殺せることを思い出したが、後の祭りだ。

 ハメ技と聞いて気分を害するか? ならばあの頃を生きた往年の戦士たちに尋ねてみるがいい。どいつもこいつも口を揃えて言うだろう。「そうしなければ勝てない」と。そういうものだ。

 コインが尽きたこともあり(そこには両替機などという甘いものはない。実弾が尽きれば終わり、真のおとこの戦場だ)、おれはほろ苦い感情を抱えたまま、ゲームコーナーを離れた。だが後悔はしない。ノスタルジーと嘲笑われるかもしれないが、たしかにここには俺の青春の一部が、ほとんどそのままの形で残っていたのだ。それはまさに「ハイスコアガール」の世界だ。

 どうだ。今すぐ「指宿いわさきホテル」に行きたくなったか。ならば迷うな。今すぐ行け。別に宿泊しなくても、日帰りでの温泉利用も可能だったはずだ。風呂上がりに餓狼伝説3とかできるのはここだけだぞ。

 そうだ、後悔は一つだけあった。

 ストⅡダッシュの後方で稼働していた、「スーパーリアル麻雀P5」をする暇とコインがなかったのは残念極まる。

(おわりです)

そんな…旦那悪いっすよアタシなんかに…え、「柄にもなく遠慮するな」ですって? エヘヘ、まあ、そうなんですがネェ…んじゃ、お言葉に甘えて遠慮なくっと…ヘヘ