鯛野タイ

映画が好きです。シネフィルになりたい。

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2024年上半期新作映画まとめ&ベスト10

2024年上半期はちょうど50本の新作を観ることができた。昨年と比べるとパルムドール受賞作『落下の解剖学』を皮切りに、『オッペンハイマー』など大作が2~4月に目白押しだった印象だ。そして『悪は存在しない』が公開されるまで『夜明けのすべて』の一強状態でパッとしなかった邦画のラインナップも、6月に『あんのこと』が加わってくれて、河合優実主演作品『ナミビアの砂漠』の公開が控える下半期を万全の状態で迎えることができる。 さて、以下は感想ラインナップです。filmarksの感想をほぼ

    • 【雑記】アイダ・ルピノという映画監督のこと

      アイダ・ルピノという監督の存在を知ったのは、今年の春に下高井戸シネマで実施された「ウィメンズ・ムービー・ブレックファスト」という書籍発売記念の特集上映がきっかけだ。 ”女性”が活躍する映画を多様な角度からフォーカスして特集を組んだこの企画では、アイダ・ルピノの最後の監督作品『青春がいっぱい』が上映された。 一見すると『ブックスマート』などのガールズムービーの源流に位置するようなちゃきちゃきした学園コメディなのだけど、修道院の寄宿学校というキリスト教的側面がかなり濃密で、そ

      • リチャード・リンクレイター監督新作『HIT MAN / ヒットマン』。グレン・パウエルの変貌ぶりはクラシックな男性像を賛美しているように見える。しかし旧態依然とはしておらず、一方でジェンダー論を振りかざして尖っているわけでもなく、本当に見やすい…。商業映画のある種の正解。すご。

        • 8/17(土)公開 『侍タイムスリッパー』 - 入れ子構造と巨匠のオマージュ。

          『侍タイムスリッパー』観ました。『カメラを止めるな!』を彷彿とさせるバズり方をしている。 『カメ止め』は易しい2部構成を駆使し単純ながらも見応えを演出したことが人気のその理由だった。本作は一見「時代劇×タイムスリップ」というドタバタコメディに見え、それもミニシアター系作品がバズるための条件である易しさを包含しているかと思いきや、作品の構造を覗くことで予想以上の深みがあるということがわかった。 まずは作品のアウトラインから、それを語るために必要な要素を順々に挙げてみます。

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        2024年上半期新作映画まとめ&ベスト10

        • 【雑記】アイダ・ルピノという映画監督のこと

        • リチャード・リンクレイター監督新作『HIT MAN / ヒットマン』。グレン・パウエルの変貌ぶりはクラシックな男性像を賛美しているように見える。しかし旧態依然とはしておらず、一方でジェンダー論を振りかざして尖っているわけでもなく、本当に見やすい…。商業映画のある種の正解。すご。

        • 8/17(土)公開 『侍タイムスリッパー』 - 入れ子構造と巨匠のオマージュ。

          【雑記】エドワード・ヤンのとりこ。

          2024年の7月後半から、新宿ケイズシネマにて以下のような特集上映が実施されている。 平日の日中にもガッツリと組まれており、さらに土日もスケジュールと噛み合わなくてほとんど断念せざるを得ないのだけど、『台北ストーリー』だけは絶対に外したくなくて、仕事を定時で切り上げて額に汗を浮かばせながら観に行った。良かったよ‥。 そこまでして『台北ストーリー』を劇場で観たかった理由は、2つある。 まずは本作が配信されていないこと。エドワード・ヤンの作品のいくつかは全く配信されず、さら

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          『Shirley シャーリィ』映画評 ただのシスターフッドではない

          7/5(金)公開の映画『Shirley シャーリィ』。公開希望の小ささも影響しているのか、突き抜けた評価を得ている印象はなかった。しかし、公開から1週遅れて劇場に足を運んだが、その評判を軽く覆すほどのおもしろさだった。 社会派作品としてフェミニズムは食傷気味だという意見と、単純にストーリーの流れが分からないという意見が散見される。どちらの観点からみても、この作品は良くも悪くも観た者の想像力が試されてしまう。受動的な鑑賞ではおいてけぼりになってしまうだけなので、自分も拙い想像

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          『クレオの夏休み』映画評 こどもが死生観を知る映画

          『クレオの夏休み』いい映画でした。 ことし公開された『リンダはチキンが食べたい!』に通じる、こどもの死生観が芽生えるようすを描いた秀作だ。 クレオはフランスで様々なバックグラウンドを持つ子供たちに囲まれて育った。記憶の芽生えよりも先に実母を亡くし、乳母を雇ってはいるものの、父親が子育てと労働の二軸でクレオのことを支えている。 そうした先進国然としたフランスのとある家庭に家事手伝いとして参加した乳母のグロリア。彼女は亡き母の代わりか、部外者か。そのこたえを探すクレオの旅を追

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          2024年上半期に劇場で観た旧作まとめ(備忘録)

          2024年これまでに劇場で観た旧作45本のまとめです。★付の作品は特にお気に入り。感想は省略します。最後に、上半期に観た新作+トップ10を感想付でまとめたnoteも載せますのでぜひご覧ください。 イ・チャンドン レトロスペクティヴ4K ペパーミント・キャンディ 4Kレストア ★シークレット・サンシャイン 4Kレストア ★オアシス 4Kレストア バーニング 劇場版4K ピーター・グリーナウェイ レトロスペクティヴ プロスペローの本 ★ZOO 数に溺れて 4Kリマスター

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          5/10(金)公開『胸騒ぎ』映画評(小)

          5/10(金)公開予定『胸騒ぎ』のちょっとした小レビューです。 公式サイトに掲載されている以上のネタバレは控えますので、鑑賞前に読んでいただいても大丈夫かも。 ・・・ まず鑑賞後真っ先に鋭さを感じたのは、英題の"SPEAK NO EVIL"というフレーズだ。直訳すると「悪を言わず」で、三猿のひとつ「見猿」が由来になっている。 主人公一家がデンマークからイタリアにバカンスを楽しんでいるところから幕が開ける。旅先で出会ったオランダ人一家と知り合って意気投合し・・というストーリ

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          5/17(金)公開 『ありふれた教室』映画評と『システム・クラッシャー』(おまけ)

          『ありふれた教室』 「スコラスティック・スリラー」って言葉、はじめて聞いた。 たしかにこの作品の大人たちが右往左往していく様はまさに「スコラスティック」、衒学的で高慢だった。 本作、スリラーとしての起承転結の流れは分かりやすいものの、画面上では描かれない大人たちの腹心とオスカーの最後の行動について考えれば考えるほど、教育現場の心理を丁寧に描写する傑作だと思える作品だ。 ルービックキューブが示すこたえ作中で主人公・教師のノヴァクがルービックキューブを生徒に託すシーンがある

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          WOMEN'S MOVIE BREAKFAST @下高井戸シネマ 4作品レビュー

          「ウィメンズ・ムービー・ブレックファスト」出版記念の特集上映@下高井戸シネマに参加しました。6月に後追いの公開を控える『エンジェル・アット・マイ・テーブル 2Kレストア版』より先に4作品をすべて鑑賞できたので、以下感想をまとめます。 普段からフェミニズムのことを考え、そういった題材の映画には心を奪われがちである。一方でフェミニズムとは女性だけの物語ではないし、女性が出ていればフェミニズム、というわけでももちろんない。 ただただ各世代に存在した貴重な作品の中心で輝く女性たちと

          WOMEN'S MOVIE BREAKFAST @下高井戸シネマ 4作品レビュー

          『日々をつなぐ』特集5作品 感想

          4/20(土)〜4/26(金)まで下高井戸シネマで実施された『日々をつなぐ』というドキュメンタリー作品の特集上映に参加しました。 特集概要 3月に公開された清原惟監督作『すべての夜を思い出す』の映像美が印象的だった。無機質で淡々とした生活を繋ぎ合わせるようなドキュメンタリーチックなショットに惹かれて、その撮影監督である飯岡幸子さんが主宰される企画ということで、全作品観てみた。 とても素晴らしく貴重な体験だったので、ぜひ全国興行に発展してほしいという思いを込めつつ、二度と

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          2023年 映画まとめ - その2 下半期に観た旧作と新作ベスト10

          Part1はこちら。下半期に見た2023年新作の感想です。 Part2は2023年下半期に見た旧作32本と、今年のベスト10を書きます。 2023年下半期に見た旧作たち ★が付いている作品は劇場で見ることができて良かったなあ、というお気に入り。 アメリ インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア エクソシスト ディレクターズカット版 ★おーい!どんちゃん 牯嶺街少年殺人事件 ★ゴーストワールド こわれゆく女 ツィゴイネルワイゼン バッド・チューニング ★ミ

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          2023年 映画まとめ - その1 下半期に観た新作

          2023年下半期は新作58本を観た。うち3本くらいは上半期公開でした。旧作を含めると劇場で観たのが80本くらい?配信分も含めると150本くらい?年間通算だと250本くらいかな???そんな感じです。 さて、下半期に見た新作映画の感想をちょっとずつ載せます。50音順です。 あまりにも長くなってしまいそうなので、作品のリンクは貼らないことにした。 1. 658km,陽子の旅 菊地凛子の演技をまじまじと見たのは本作が初めてだったかもしれない。社会にうずもれて精彩を失った人間も

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          映画『ゴーストワールド』異星人シーモアを解剖しようぜ

          11/23(木)から劇場公開です。当時の公開時のことは全く知らないけど、今年に入ってから何となく界隈で"リバイバルの機運"を感じていた作品。夏にはパッケージの再販もされ、思わず購入した。今年はたくさんの復活上映が人気だけど、1番賑わせるのはこの作品で間違いないと思っている。「アメリ」とは2001年も今年も公開時期が被ってて、めっちゃ素敵だよね・・ 15歳とは到底思えない擦れ方をしているスカーレット・ヨハンソンへの注目はもちろん、ビビッドなプロダクションデザインやファッション

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          映画『正欲』のお話 物足りなさ 不愉快 救い

          『正欲』観ました。受け入れられないシーンもあれば、この作品に出会えてよかったと思えるシーンもあって、鑑賞後にぐるぐると考える時間がいつもより多かった。ぜひ残しておきたい。原作は未読、というか朝井リョウの小説自体読んだことがないし、特に読もうとも思っていないけどそれは許してください。 ○フェティシズム まず特殊な性的指向が物語の鍵となる一方で、それが「水」にまつわるフェティシズム(こうは呼称したくないが、便宜上以下「水フェチ」)であることに現実味を感じられないという声が多いよ

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