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バレンタイン・デーの思い出

僕は33歳になる。

正確にはあと1ヶ月先に33歳になるので、今は32歳。どうでもいい。

 バレンタインデーという行事(?)から遠ざかってしばらく経つが、なんと今年はいただけました。小学生になる娘からチョコレートの袋詰めを。娘にもらったチョコレート。大事にゆっくり食べたいけれど、早く食べろと急かされ急かされ、急いで食べている。なぜ、そんなに急かすのか。

 さて、バレンタインデーというと、今でこそ「友チョコ」という新たな文化が発祥し、女子が男子に渡すものというイメージも薄れてきているかもしれない。しかし、僕が小中学校の頃は、基本的には女子が男子に渡すチョコであり、世の男子はソワソワしていた。そう。ソワソワしていたのだ。(おそらく)

 僕の生まれた地域は、とっても田舎で人数の少ない学校だった。小学生の頃は同じ学年の女子たちが、男子全員に配って回っていた。はいはい、今年もやって来ましたよバレンタインデー。あげますよってな具合に、恒例行事みたいな感じで。そして、翌月、男子は女子に飴だのクッキーだのをお返ししていた。だから小学生の頃は、そんな行事なんだと思っていたので、あまりソワソワもしなかった。しかし、「本命チョコ」と言う存在を知ったことで、なんとも言えないソワソワが始まった。もはやゾワゾワしていたと言ってもいい。

 本命ということは、それはチョコを渡した男子のことが「好き」ということであり、つまり告白ということになる。と思う。まんまと、思春期を迎えた男子たちがソワソワせずに居れますかっての。ということで、年を重ねるごとにバレンタインデーに対して、なんとも言えない緊張感と期待感を抱く様になっていくのが、世の男子たちの習性だった。(多分そう。偏見?)

 小中学校時代に僕がどんなバレンタインデーを過ごしたのかについては、ご想像にお任せするとして、今回は僕が高校生の頃の思い出について皆さんと共有したいと思う。なんとも切ない、良い思い出。

 バレンタインデーにソワソワしている。ということは、彼女はいないということになる。そんな年のバレンタインデー。例年のごとく、ソワソワを隠せない僕は、とてもソワソワしながら学校へ出かけた。ソワソワが顔に、身体中に出ていたと思う。

 その日の午前中は、何事もなく時間が過ぎ、昼休みを過ごした。「ふっ。いつものことなんでね。」とバレンタインデーのドラマは半ば諦めかけていた。(高校生くらいになると、本当になかなかチョコなんかもらえない。お情けでくれる優しいお方も存在しますが。)

 昼休みを終え、午後の授業を受けるため机に座る。次の授業に使う教科書を取り出すために、机に手を差し入れる。すると、教科書めがけて差し入れた手の指先には、教科書ではなく何か少し柔らかい感触の板状のものに触れた。そしてそれの形状を確かめると、約5cmほどの高さがある箱状の物体であることを、僕の鋭敏な指先が感知した。

 バレンタインデーという日に、箱状の物体が、机の中にある。朝にはあったのだろうか?なかったのだろうか?いや、なかったはずだ。心臓の拍動が鮮明に聞こえる様な気がした。おそらく、高揚していたのであろう。

バレンタインデーハイ。


そう。期待していたのだ。バレンタインデーチョコではないかと。

 休み時間が待ち遠しかった。期待に胸膨らませながら、心臓をバクつかせながら待った授業の時間はとても長く感じた。

 ついに、休み時間を迎えた。ゆっくりと机に中に両手を差し入れ、箱を両脇から包み込む様に把持したうえで、静かに机から取り出した。

「・・・・。」

ティッシュ箱。


みなさんは、このオチ、見えていたんじゃないですか?見えていたでしょう。

バレンタインデーの切な良い(せつないい)思い出。


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