メルヘン翁(おきな)に学ぶ、家族の在り方
「メルヘン翁」というワードを聞いたことあるでしょうか?
普通に毎日生活をしていれば聴くことのない表現だと思います。「翁」とは男性の老人を指す敬称だとされていて、それが「メルヘン」なんだから普通のはずがない。
これは、ちびまる子ちゃんの作者として有名な、さくらももこさんのエッセイ「もものかんづめ」のなかに掲載されている話の一つです。
そう、これは作者であるさくらももこさんの翁、おじいちゃんの話。
簡潔に内容を説明すると、祖父が老衰で亡くなり、その死に顔があまりにも間抜けで、家族で大笑いしたという、なんとも不謹慎なお話なんです。
一部ではこの内容に対して批判もあると聞きましたが、僕自身はこれを読んで不覚にも笑ってしまいました。
書評ライターの三宅香帆さんは、ある書籍の中で、さくらももこさんの作品の面白さの秘密について、以下のように語っています。
「古畑任三郎方式」とはよく言ったものだなぁと思う。
皆さんご存知の通り古畑任三郎とは、俳優の田村正和さんが演じる刑事が犯人をじわじわと追い詰めていく人気ドラマですよね。その、独特の語り口や振る舞いは、多くのモノマネ芸人のネタにもなるほど個性的なものでした。
ドラマ「古畑任三郎」シリーズでは、多くの場合犯人が最初に明かされます。視聴者は犯人がわかった上で、犯人が古畑に追い詰められていく様をヒヤヒヤしながら見ていくわけです。
三宅さんは、その犯人が先にわかるという方式を「古畑任三郎方式」と呼んでいるのです。さくらももこさんのエッセイは、まさにその方式が多く使われていて、先に紹介した「メルヘン翁」という話もそうでした。(多分そうです。違ったらごめんなさい。)
「メルヘン翁」では、早い段階で、
最初の最初で笑いの種を明かしておくんです。おじいちゃんの死に顔を見て思わず笑ったって、最初に書いてあるんです。そして、それを見た家族のリアクションや棺桶に入った祖父の顔、敷き詰められた花々、それぞれの家族から出てくる言葉など、笑いを増幅させるエピソードどんどん被せてくるんです。笑っちゃいますって。これは。
読んでいると「もうわかりました。わかったから!(笑)もうやめてぇ〜!!(爆笑)」みたいな感じで、追い討ちをかけられていくんです。
人の死で、ましてや身内の死で笑って、不謹慎だという意見はもっともだと思う。でも笑っちゃうんです。そういうふうに、笑いを起こさせる様に読ませるのが上手なんだろうなと思います。古畑任三郎方式もその技術の一つなんでしょう。
中高生の頃、さくらももこさんの書く文章が好きで、文庫本を買ってよく読んでいました。この「もものかんづめ」は特に好きな一冊で、メルヘン翁は特にオススメ!
何が良いって、ただ面白いだけじゃないんです。メルヘン翁は、表面だけ読むと、祖父の死を笑う不謹慎なものにも見えるかもしれない。しかし、何か家族の温かみや、家族らしさを感じるんです。
人生を生き抜いて、老衰で最後の時を迎えて大往生。そして残された家族は、死に顔見てつい笑っちゃう。なんか、あったかくないですか?
たしかに、文章の中では死んだ祖父を笑い、悪口だって書いてるんですが、そんな家族もあるんやろなと感じるんです。
よく、夏休みなんかに、昼間にやってたファミリードラマ(今もやってるんでしょうか?)みたいな、ザ・あったかいファミリーみたいなのが、家族の在り方みたいに想像されるかもしれないけれど、実際の家族って色々あるじゃないですか。
そもそも、お父さんとお母さんはもともと他人です。一歩間違えれば、僕は生まれないなんてこと平気で起こりうる。そんなところでギリギリなんとか成り立ってる。それが、家族なんだろうと思うんです。だから、さくらももこさんの書く家族を見ても、こんな家族があっても不思議じゃないなぁって思うし、むしろ現実的で、あったかさすら感じる。
こんなエピソードを、こんなに笑えるエッセイとして世に出している。しかも、ほぼ文章だけで。(たまに挿絵がありますが。さくらももこさんは漫画家ですから。)素晴らしいことだなと思います。
僕はこのエッセイを読んで、笑い、「ぶーっ!!」っと吹き出しました。多分結構大きな音だったんでしょう。教室中の同級生たちが一斉に振り向きましたから。(高校時代)
「メルヘン翁」を読んで学んだことが二つあります。
ひとつめ、
家族の形って色々ある。
良い家族ってこんな感じって決めつけてはいけない。理学療法士みたいに、人と関わる仕事では、その家族関係も重要な要素の一つだから。自分の価値観だけで、その家族の在り方や良し悪しなんかを、勝手に判断したらダメだ。(基本的には)
ということ。
ふたつめ、
人がいるところで読んではいけない。
ということ。恥ずかしい思いしますからね。
「人前で読むことはお勧めしません。」って注意書きしてくれんかな。
【本記事でご紹介した書籍】
※本記事は、あくまで私が書籍を読んだ上で咀嚼し、私というフィルターを通して表現しているものになります。よって、基本的には私の個人的見解を多く含んだ内容になります。その点ご了承いただいた上で、ご興味を持っていただけたのであれば、是非、参考書籍を手に取っていただければと思います。
最後まで読んでいただきありがとうございました。 はましょー
※私はAmazonアソシエイトメンバーです。