団地の遊び BCL

BCL

 この言葉を知ってる人は、かなり減っている。若いコは、ほとんど知らない。
 意味はbroad cast listening もしくはlistenerである。
 要するに、日本国内でもいいのだが、海外のラジオ放送を聴いて、受信報告書なるものを送る。すると、ベリカードというものを、もらえる、そういうやつである。
 受信報告書ってなんだ?というと、ラジオを聞く。何時に始まり、何時に何を話したか、何時にどんな音楽が流れたか、そういうことを、細かくキッチリと書き、放送中の電波状態を五段階評価で記す。そして感想でも書く。 
 文字通り、それが受信報告書である。
 海外のラジオ放送、ロンドンBBC放送とか北京放送とか色々あって、英語が圧倒的に多いのだが、日本語放送もやっていた。よって、そういうのをラジオで聞くわけである。
 海外放送はほとんどが短波放送である。FMでもAMでもない。短波である。だから、持ってるラジオによっては、短波が入らないモノもあり、それ専用のラジオが、必要になってくる。それ程オオゲサなものでなくても、まあ聞けた。しかし、そのうち、オオゲサな、本格的なものが欲しくなる。
 小学五、六年あたりから流行りだした。回りの仲良い友達は、みんなやっていた。
 ウチには、ラジオが二台あって
、一つは自分専用のラジカセであった。正確に言えば、専用にしてしまったラジカセである。抱え込んでいた。
 これはSONYのやつで、AM、FM、そしてなんと短波が少し聞けた。なぜ少しかというと、7MHzから15MHzぐらいまでしか聞けなかったからである。短波放送は3MHzから30MHzまでだった。
 始めたばかりの頃は、それでも良かった。短波だけではなく、ニッポン放送や文化放送、FM、ラジオだけでなく、テレビでも受信報告書は送ることができ、よって送った、すると、非売品の、絵葉書みたいなベリカードが届く。
 すると、すぐに国内は制覇してしまう。すると、今度は海外に目がいく。
 そんな時、会社帰りの父親から電話があり、おまえの欲しいラジオはなんてやつだ?と聞いてきた。なんか競馬か何かが当たったらしく、ヨドバシだかさくらやの前にいて、割引してるから買ってやるという。
 そんなわけで買ってもらった。これで、短波放送は全て聞くことができる。つまり、海外のラジオを問題なく耳にできる。
 海外放送を受信するのに、団地の四階は良かった。この時ほど、四階に住んでいて良かったと思ったことはない。なぜなら、電波の入りがいいからである。一階に住んでる奴は、すごく苦労していた。夜、家の外に出て、公園の滑り台の上に乗ってアンテナを伸ばし、受信報告書を書くのである。
 海外日本語放送は、ほとんどが夜であった。なぜなら、夜の方が、短波は受信しやすいからである。基本、ラジオは夜の方が受信はしやすい。
 一階に住んでいた友人は、団地の屋根までアンテナを伸ばした。確か、五階に住んでる人に頼んで、五階の窓から横の排水管経由で、屋根にコード状のアンテナをくくり付けた。金属のアンテナではなく、ロープみたいなモノである。それを一階まで垂らして、窓から引き込んだ。
 要するにコイツは、団地の高さ分、五階分の長いアンテナを作ったわけだ。
 そのアンテナは、排水管の横をずっと通っている。風が吹くとブラブラ動き、アンテナを留めてる碍子が飛び出ていて、なかなか危険ものを感じさせた。
 今、思うと、勝手にこんなことしていいのか、という話になるが、特別、注意はされなかったようである。
 しかし、努力の甲斐もむなしく、電波状態は、あまり良くならなかった。多少はよくなったらしいのだが、話を聞く限り、四階のウチのほうがはるかによく聞こえていた。
 理由は、ハッキリとはわからないのだが、おそらく団地の建物のせいだろう。
 この友人の住んでいた号棟は、ベランダが東向き、四畳半の部屋の方は西向きであった。
 団地はほとんどが、ベランダは南側の構造となっている。四畳半は北側である。
 友人の部屋は、一階の西向きの四畳半で、これが原因かどうかは、わからないけども、可能性の一つとして、考えられた。
 ともかく、みんなは、いかにして電波状態を良くして聴くか、ということを考えていた。
 夜、団地中央にあるグラウンド、文字通り中央グラウンドに行くと、誰かが、必ずと言っていいほど、いた。ラジオをベンチに置きイヤホンをしている。
 建物があると、電波がぶつかる。特に短波は、波長が文字通り短いので、ぶつかってばかりいる。その電波の谷間に入ったら、受信が困難になる、と言われているーーー電波は見えないので。ならば、広い所を、ということで、中央グラウンドに来る。
 幸いにして、四階に住んでいたので、ラジオまで持って中央グラウンドに行ったことはなかった。そのへんは余裕である。
 BCLは、昭和の遊びの代表の一つではなかろうか?今となっては知名度のない趣味として、それでもやってる人はいると思う。自分も久々にやろうか?そんなことをふと思うこの頃であった。



#創作大賞2023
#エッセイ部門

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?