団地の遊び 塾での出来事
塾での出来事
団地の塾にいた。四畳半の狭い所に四人もいて、そこが塾だった。
隣の部屋で電話が鳴り、女の先生が四畳半から出て行った。何やら声が聞こえる。何を言ってるのかまでは、わからない。
部屋に戻ってきた。女学級委員山岡が今日帰り一人なので駅まで迎えに行けという。山岡がウチに電話した。塾にいることを知った山岡はコッチに電話してきた。
ええっ?と素直に思った。塾まで電話する普通?と。
するともっと驚いたことを先生が言った。
「ちゃんと迎えに行ってあげなさい」なんだその積極的発言は?と思った。「何してるの」「はい?」「早く行きなさい」「今ですか?」
そんなわけで、塾の最中に駅まで、迎えに行くことになった。勉強よりも迎えに行くほうが大切なんだそうだ。山岡はこの塾の生徒でもなんでもなく、何も関係がない。別の塾の帰りである。
外に出ると、片目の白犬シロ(仮名)がいるのでは?と思ったが、いなかった。過去、シロは山岡を迎えに行ったことがある。
駅の南口は夜八時過ぎで、閉まってるので、北口まで行く。なので、少し遠くなる。
駅の改札口の前に、山岡がいた。「今日、塾の日だっけ」まるで気にしてない口調で山岡が言った。墓場と神社の暗い道を歩く。とはいえ、帰り道を歩く人は結構いて、ヤバい感じはまるでない。
「シロは来てないな」団地に入る手前で言う。団地ギリギリがシロのテリトリーである。「だって今迎えに来てるじゃない」なるほど、そういうことか。自分が迎えに来てるから、シロはいない。もはやシロが心を読めるのは仲間内では、当たり前だった。
団地の塾に着いた。山岡が、先生に挨拶している。そして、ちょっとよってく?ということになった。
山岡さんもいることだし、という先生の発言で、なんとトランプ大会になった。しかも、七並べである。塾というのは、勉強するところではないのか?とバカな自分ですら思ったーーーとはいえべつにいいけどバカだから。
詳細は省くが、女が二人いた。山岡と先生を入れて女四人。男は自分一人だった。本来、もう一人、野球少年の男がいるのだが、コイツは休んでいた。
七並べはなんか意外に盛り上がっている。すると、五キロ離れた家からバスで来てる女が言った。「ブラジャーつけたことある?」
「ないよ」「つけるほど大きくなってない」
「この前、初めてつけたんだよ」
そして、女三人、ブラジャーについて語り始めた。確か小六だったと思う。窮屈じゃないかとか、意外にそうでもないとか、背中がこすれるんじゃないかとか、案外気にならないとか、好き勝手にしゃべっている。
女の先生は微笑みで聞いている。
そこで自分は、ふと思った。
「ブラジャーっていくらすんの?」
「買うの?」山岡が言った。「アホか」
「ホントは興味あるんでしょ」五キロ離れた家の女が言った。「あやしいわね」三キロ離れた家の女が言った。
「着けたいの?」山岡が言う。
この塾はなぜか大変人気があった。きっと女の先生の人徳だろう。どういうコネで、自分がこの塾に入ることになったのか覚えてないが、その時、山岡も誘われていた。そして一度、体験入塾した。
しかし山岡は断った。「あたしには必要ない」
バカな自分がいる塾である。やがて都内トップの私立中学に入る女からしたら、当然かもしれない。
「大きくなったら着けます」そう自分が答えると、女たちは大笑いしたーーーシャレとわかってんだろうな?
そのうち紅茶とコーヒゼリーが出た。なんだこのお茶会みたいなのは?と自分はレモンティーを飲むーーーミルクティーのほうが良かった。
次は怪談話を始めた。季節は秋だったと思う。
比較的、近所の神社のお化けの話をしている。五キロ離れた家の女までもが、この神社のことを知ってるとは驚きだった。幽霊系が出ると、よく言われていて、現に怖い目に遭った奴らが何人もいる。
山岡がコッチを見る。怖い目に遭った者としてーーー山岡はまるで怖がっていなかったがーーー何か意見でも求めてるような顔である。自分は無視する。
すると、めざとい三キロ離れた家の女が、「なに?何かあった?」
すると先生が、「あの神社はね。・・・・なのよ」申し訳ない。肝心なことを書かなくて。すまない。
へえーーと言ってみんな驚いていた。
帰る時間になった。送っていきなさい、という先生の指示が出た。
山岡と一緒に、たいして暗くもない団地の道を歩く。
すると山岡が言った。
「ブラジャー買うときは一緒に行くわ」
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