団地の遊び テレビ三昧

テレビ三昧

 土曜日の夜だった。理由は忘れたが、親がいなかった。ウチの親は子供を信用していない、つまり自分を信用してなかったわけだが、そのため、一人で過ごさせないようにした。
 自分の子供より信用している学級委員Rと、女学級委員山岡が来ることになった。この二人なら安心。これはいつも言われていた。
 だが、なんらかの事情で、学級委員Rがいなかった。山岡だけだった。
 確か夕食は、カレーであった。すでに作り置きのやつを山岡が温めたものを食べた。ジャワカレーである。
 そして、テレビタイムになった。団地のテレビは、どこの家も南側の六畳のベランダ横と、ほぼ決まっていた。理由は、アンテナの接続部が、ここしかなかったからである。ここを使わないなら、室内アンテナしかない。
 7時から「はじめ人間ギャートルズ」を見る。マンモスの肉がうまそうである。山岡は勉強している。
 七時半からは「連想ゲーム」。バカだからよくわからない。山岡は勉強している。
 八時からは、「8時だよ全員集合」。学校コントであった。山岡は勉強している。
 次のコーナーは少年少女合唱隊であった。志村けんさんが、東村山音頭を始める。山岡は勉強・・・この時だけやらず見ている。
 ゲストのキャンディーズが「年下の男の子」を歌う。山岡は勉強している。
 九時になる。テレビばっかり見て目が痛くならないのか?と山岡が呆れて言ったあと、お風呂!と叫んだ。
 風呂は沸いていた。山岡が一人でなんかやっていたようである。勉強だけではなかった。テレビに夢中で、全く気づかなかった。
 夏なのでベランダの窓が開いている。こっち側は、団地がなく、畑が広がり、その向こうは住宅街である。四階なので、要するに見通しがいい。
 一階に住む山岡からすれば、とても良い環境といえる。
 でも今日は曇っていて、星はあまり見えなかった。UFOは、ときおり見かける。そのUFOの基地と言われるーーー友人MM2(仮名)いわくーーー西南の大きな雲もよくわからなかった。月も出ていない。
 いいから早くお風呂入りなさい!怒った山岡は左腕に噛みついた。手首の近くである。この女は怒ると噛みつく悪いクセがあった。結構痛い。
 それより歯型が残り、友達に、なんだまたオマエ噛みつかれたのかと、からかわれるほうがイヤだった。
 風呂に入る。煙突のある木の狭い風呂である。噛まれた腕が少ししみる。
 風呂から出ると、学級委員Rがいた。なんか赤い顔して汗をかいている。
 多分酔っ払いと思えるオッサンに追いかけられたという。やっぱ夏の夜は変なの多くて怖いな、そう言って、自分で持ってきたコーヒー牛乳を飲む。
 テレビをつける。なぜか九時半から映画が始まっていた。「ナバロンの要塞」の後半である。前半のあらすじをやっている。なんておもしろそうなんだ!と思い、後半を見ることにする。
 まーたテレビ見るの!山岡が文句を言ってくる。そして再び勉強を始める。
 そういえば、山岡と学級委員Rは仲があまり良くなかった。でも今日は一緒である。仲良くなったのか?とどうでもよく考え、映画を見る。
 映画は大変面白かった。山岡は勉強している。学級委員Rは、映画を見てる途中寝てしまった。
 テレビは箱根登山鉄道をやっていた。確かNHKである。
 昭和の時代、深夜番組というのは、ほとんどなかった。たいがい一時頃には、テレビは終わった。その後は、砂の嵐と言われるザーッというやつが、午前五時頃まで続く。
 しかし今日は土曜日だからなのか、日本の電車みたいな番組をやっていた。
 これスイッチバックするんだぜ、バカなクセして、たまたま知ってる専門用語的なことを、成績学年一位女に自分は言った。何スイッチバックって?電車がバックするんだ。それって、そんなにすごいことなの?
 言われてみたら、それほどスゴいことなのだろうか?と、ふと考えた。
 なるほどね。山岡が、駅に停まった登山電車がバックして今度はアッチが先頭になり、山の坂を登っていくテレビ画面を見て言った。
 すごいとこ走るんだね。素直に感心している女学級委員だった。
 それにしても全然眠くなかった。
 そして山岡が怒った。いったい何時間テレビ見てるのよ!まあ確かにその通りだが、こんな日は滅多にないので、まあいいじゃあないかと、鷹揚に答えた。
 夏なので、雑魚寝した。朝、起きたら、山岡だけ布団を敷きタオルケットをかけ寝ていた。
 そしてまた自分はテレビをつけた。夏休み朝だけのマンガ番組(まだアニメとは言われていない時代)である。
 そして、すでに目覚めてる学級委員Rが言った。
「なんだまた噛みつかれたのか」


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