団地の遊び 夜のサービスエリア
夜のサービスエリア
多分、小五か小六のとき。多分、社会科見学の帰りのとき。はっきり記憶してるのは、冬の時。
ずっとバスに乗っていた。そして、予定より遅れ、窓の外は、すっかり暗くなっていた。冬の夜は早かった。
バスは、とこかのサービスエリアに停まった。K先生が大きな声で、これが最後の休憩だぞ。もうどこも停まらないで学校まで行くからな。トイレは今のうちにすませておけ。
何人もの児童たちが降りた。自分もバスから出た。
いったいここはどこなんだろう?と思った。まだ埼玉のどこかである。寂しいサービスエリアだった。
建物は、一階建てでそれなりに大きいのだが、なんかさびれてる感があった。なぜなら、店がほとんど閉まってるからだった。
小学生の団体が、ゾロゾロ現れたので、サービスエリアの人たちが若干驚いた顔をしていた。とはいえ、まだ八時である。まあでも、やはり小学生が動く時間帯とはいえないだろう。
トイレに行くと、便器の数の多さに驚いた。男子用小便器がコの字形にズラーッと並んでいた。こんなにたくさんのトイレを見るのは、生まれて初めてである。個室もコ字形にズラリと並んでいる。
児童たちは、結構いるので、そのトイレは、七割ぐらいが埋まった。個室に行くヤツもいる。
自分は個室に行く。入ってみたかったのだ。
ニオイは、まあそれなりに公衆トイレのにおいではある。
用を済ますと、店のほうに言ってみる。要するにもう店は、閉店の準備をしていた。
パン屋みたいな所に入ると、ものすごく品揃えが悪かった。たいがい買われてしまったようである。
気づくと、女学級委員山岡が横にいた。だいたいコイツはいつの間にか横にいるのだ。
トイレどうだった?聞くと、たくさんあった、と山岡も驚いたようである。この女はものスゴい方向音痴なので、知らない所では、必ず誰かがついている。でないと、本気で迷子になる。自分たちの住む団地から一人では出られない女と真面目に言われている。
学級委員Rと三村夏子もいた。
何か買いたいのだが、いいモノがまるでない。カレーパンを買った。お土産がカレーパンというのもいかがなものか、と思うが、他になかった。山岡がメロンパンを買う。これでパンは、売り切れになった。
外に出た。広い駐車場には、乗ってきたバス、ほかはそれほど停まっていなかった。
大きな木があることに気づいた。駐車場のはしっこのほうに、あった。見るからに、由緒ある木という感じだった。夜にオーラが見えるようにわかった。
魅せられたようにいや呆然としたように、大きな木を眺めていた。気づくと、何人かが集まっていた。担任のK先生もいた。
先生、こういう木って、昔からあって大切にしてるんですよね。三村夏子が言った。そうだ。樹齢何百年、この木は三百年ぐらいかもしれんな。先生が近くで木を見上げる。
三百年ってことは三百歳ってことか、アホでバカな自分は山岡に確認する。するとキーちゃんが、すげえぜ、と感心する。
さわっていいんですか?山岡が聞く。少しぐらいならいいだろ、先生が答える。
みんなで木を囲み、軽く触れてみる。ざらざらした木の感触。夜の木の香り。
自分はすぐ登りたがるヤツなのだが、この木は、とっかかりがなかった。要するに、一番下の枝が、まるで高い位置にあったから全然届かなかった。
まるで心を読んだように、登っちゃダメよ、と山岡から注意を受ける。この木登ったらバチ当たるかもしれないぞ、先生が笑う。
なにしてるんですかー!?バスの方から大声が聞こえる。学年主任の木村先生(女)が叫んでいた。木村パンチという体罰で児童から恐れられていた。
行こう、K先生がさほど慌てるでもなく、みんなを促す。バスに戻ると、全員揃ってるようだった。
すると、前方の一組のバスから、木村先生が降りてきた。すでに二組、三組のバスは発車していた。
木村先生が手招きするので、K先生はバスから降りる。木村先生の所に行く。なんか話している。
学級委員の山岡と現学級委員高橋がバスから降りる。一組の児童も何人か降りていた。
高橋が走ってバスに戻る。一組三人いないんだってよ。なぜかバスの運転手のおじさんが、慌てるように立ち上がり、外に出た。
高橋が、誰も外出るなって言われてるから、そう言って、バスのドアの前に立つ。なんかすごい気迫があった。バス出たらタダじゃあすまねえぞ!そんなオーラを発してした。
バス運転手のおかげで消えた三人はすぐ見つかった。これは後で聞いた話だが、神隠し伝説と言われ、このサービスエリアでは、子供が時々いなくなるという。そして、いつも同じ場所で見つかるそうだーーー詳細を忘れた。申し訳ない。
みんなで見たあの大きな木はなんか関係あるのだろうか?そんなことをボンヤリ考えた覚えのある、冬の夜の出来事だった。