団地の遊び 雪だるま
雪だるま
楠の木の下にも雪が積もっていた。横の公園では、幼稚園児ぐらいの子たちが、砂場の所で雪ダルマを作っている。
高橋が、雪の積もった長方形のグラウンドで、ボール投げをしている。壁に当たったボールは、当然雪の上を弾まない。
楠の木の下の、芝生は雪だらけだが、大きな石やら縁石やらに、みんな座っていた。
団地は雪に埋もれていた。雪の新鮮なにおいが十全と漂っている。
今年の冬は寒いなぁ、まだ小学生のクセして、年寄りみたいな言い方を、学級委員Rがした。息が白い。
息を吐き出し、冷凍光線!というのも、飽きていた。
MM2(仮名)がグラウンドのすみで、さっきから雪だるまを作っている。結構、デカかった。なぜなら、コイツは朝から一人で作っていたからである。
幼稚園児たちが、ビックリしたような顔で、MM2の雪だるまを見ていた。そして、三人の子たちが、MM2の所に行く。何か話し合っている。
MM2が雪だるまを両手で抱えた。子供たちも手伝おうとする。「高橋!」MM2が言うと、ボール投げを中断し、雪だるまを抱えに行く。そして、それを公園とグラウンドの間の雪の芝の上に置いた。
「一緒に作ることにした」MM2が言った。子供たちが、異常とも言えるほどはしゃぎ、飛び跳ねて喜んでいた。
そんなわけで、手伝うことになった。自分は人生で、雪だるまを作ったことはないし、作りたいと思ったこともなかった。
山岡から、派手なピンクの手袋を借りて、グラウンドの雪を集める。毛糸の手袋は、すぐに手が冷たくなった。グショグショである。
なので、山岡と交代する。
キーちゃんが突然走り出しどこかへ向かった。オシッコかもしれない。山岡の手もすぐ冷たくなる。
それでもみんなは雪だるまを作り続ける。
するとキーちゃんが戻ってきた。手にはなんと、スキー用のようなスゴい手袋を持っていた。「フフフ」キーちゃんが不気味に微笑む。あきらかに、大きすぎる手袋をはめたキーちゃんは、雪をかき集める。
子供たちも、一生懸命に雪を集め雪だるまにくっつけていく。
お母さんの一人が、大きな鍋を持ってやってきた。なんとおしるこであった。ひと休みして、皆で食べた。
このおしるこは、うまかった。冷えた体に熱く甘いおしるこは、まさに生き返るようであった。
やがて暗くなってきた。家に帰る時間である。この雪だるまは、明日はないだろうと思った。誰かが壊すに決まってる。
ところがお母さんの一人が、雪だるまに紙を貼った。ーーーみんなで作ってます。こわさないでくださいーーー。
果たして効果があるのだろうか?と本気で思った。山岡、高橋、MM2の号棟の窓から、この雪だるまは見える位置にあった。美沙子ちゃんと麻美ちゃん(幼稚園児たち)の号棟からも見えそうだという。
時々、窓から様子を見ると言って、解散した。
翌日の朝。雪だるまは、まだあった。まったく、壊された形跡もなく、存在していた。雪は降ったりやんだりしている。
再び、皆で作り始める。集会所から脚立を借りてきた。つまり、それほど高さがあった。そして、集会所の協力、つまり自治会が応援を始めた。
自分はかなりのバカだが、なんだかオオゴトなことになってきたことには、バカなりに気づいていた。元々、ただの雪遊びだったのである。そう学級委員Rに言ったら、まっいいじゃない、と気楽に言ってきた。山岡は、子供が遊んでただけなのにねと正論を言った。
高橋の母親、つまり、この団地で一番権力を持つ、自治会長までやってきた。あたしの名前出しな、これで全てを解決してしまう、スゴい方が「立派なものできたね。なんかあったら、あたしの名前出しな」そう言って、去って行った。
そしてみんな言った。自治会長さんが味方につけば、怖いものなしだよ。
片目の白犬シロ(仮名)もやってきた。飼い主の良美ちゃんもいる。シロも大きな雪だるまを見上げ、すごいなあ、と感心してる犬顔を浮かべていた。
そしてついに完成した。正確に言うと、キリがないからもうやめよう
ということになった。MM2がもっとデカいやつと言い張ったためである。
充分、大きかった。五メートル以上あったと思う。目玉もつけた。横幅もある。怪獣みたいであった。
みんなで写真に撮った。集合写真みたいに撮った。団地新聞にも載り、団地中の人が見にきた。
超常現象好きのMM2が、皆の念がこもってる雪だるまだからな、そう真剣につぶやいた。そうかもしれない。
しかし、次の発言は、そうではないかもしれない。
「あの雪だるま、夜になったら動いてんだぜ」