団地の遊び ホットケーキ

ホットケーキ

 「ちびくろサンボ」という有名な童話がある。差別的表現とか言われてるようだが、差し当たり、これから書くことは、差別的とはまるで関係ないので。
 ストーリー的なものは、とりあえず省略させていただく。それから、ネタバレな内容なので。
 問題は、トラにあった。トラとは、虎のことである。あの猫科の大きいシマシマのヤツである。
 コイツがグルグル回って体が溶けてバターになってしまう、というわけである。これだけ書くと、ものすごく問題のある物語に聞こえる。
 トラがバター?MM2(仮名)が言った。これはあきらかに異常なことだぞ。高橋が言った。小五か小六のときと思う。
 いくら子供だからって、子供をバカにしすぎてないか?高橋が言う。
 いいじゃない、童話なんだから。山岡しおりが言った。
 虎がもしバターになったら、それは文字通り、動物性蛋白質というこになるな。マーガリンは植物性蛋白質だよ。学級委員Rが言う。
 トラがバターになったら、そのバター、ケモノくさいんじゃあないかしら?三村夏子が言った、
 これは自分的には、ものすごく説得力があった。確かに動物臭いバターって気がする。
 団地の中の、いつもみんながなんとなく集まる場所である。東は公園、西は長方形グラウンド、その間の細長い芝生の所。大きな楠の木の下にいた。
 ここにいる連中は、自分とキーちゃんを除けば、みんな成績が良かった。
 そして、みんなの意見を聞くまで、バカだからなんにも考えていなかった。思ったのは、そのバターでホットケーキを作り、それがすごくおいしそうに見えたことである。
キーちゃんも同じことを言っている。
 それが、成績の良い連中からは、上記のような意見が出てるわけだった。
 でも、ホットケーキうまそうだよ、おそるおそる自分が言うとーーーキーちゃんが横で頷いている。そこなんだ問題は!高橋が力強く言った。
 ホットケーキが実ににうまそうなんだよ。つまり、最終的に、その一点になるんだ。なぜか高橋が、握り拳で言った。
 ホットケーキ食べたくなった、三村夏子が言う。よし、集会所行ってホットケーキ作ろう。高橋が立ち上がる。
 そんなわけで、団地中央のストアーに向かった。マジか?と思った。集会所のキッチンは、使ってもいいことになっている。なぜか知らないが、この当時、なんか自由に使用してよかったらしい。
 もっとも高橋の母親は、自治会長だから、とりあえず問題ないのだろう。知らんけど。
 ストアーで、ホットケーキの素みたいなモノを買っていた。この時代、昭和の頃、簡単ホットケーキ的なモノがあったのかなかったのか、まったく記憶になかった。
 集会所に入る。高橋が集会所の人に何か一言声をかけているーーー普通に考えて使用確認であろう。キッチンのある所に行く。こんな場所があるとは、まるで知らなかった。フライパンや鍋なども揃っていた。
 これにはビックリした。なぜこのような設備があるのか?
 まあともかく、女子たちが作り始める。女子は二人しかいないけど。なんかMM2が張り切っている。料理できるらしい。
 焼く前の肌色した液体状のドローとしたやつがおいしそうだった。なので、これ食べてもいいの?と聞くと、山岡が、お腹こわすわよ、と冷静に答える。
 焼くといい匂いがしてきた。ホットケーキを食べるのは、初めてではないのだが、なんかはじめて見るもののように見ている。
 できたホットケーキを食べる。ハチミツとマーガリンをつけた。なんだか家で食べるより、はるかにおいしく感じられた。気のせいと思うが、やっぱり家より全然うまかった。いや、人生で、一番おいしいと思ったホットケーキという気がする、今現在において。
 いったい何枚作るのか、どんどん山岡とMM2が作っている。
 部屋を子供たちが覗いていたーーー自分達もガキなのだが。高橋が、食べたいならおいで、と、信じられないぐらいやさしく言った。こんなに優しい言い方をコイツがしたのは、見たことがない。
 恥ずかしそうに笑顔で子供が三人入ってくる。小二だという。
 自治会長の息子高橋が言うには、共働きの子供たちなどに、食事やおやつを提供する案件なのだという。要するに今でいう子供食堂の役割といえた。
 だから、冷蔵庫の中も、いろいろ入っていた。
 おいしい?三村夏子が聞くと、女の子の一人がおいしいと笑う。
 なんだか、涙が出そうな話であった。三人ともホットケーキ食べたことかないと言っている。キーちゃんが、良かったな、と、ほんとに泣いていた(マジか)。
 そんなわけで、特に自分はなんにもしてないのだが、これが計画的なのか偶発的なのか、記憶にないが、ともかくホットケーキ作ってよかった、という話であった。






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