団地の遊び ウサギのゲーム

ウサギのゲーム

 団地中央には、ストア、商店街があった。
 その中で、もっとも行ったのが、パン屋だった。ここは、お菓子を売っていて、十円二十円のモノを買っていた。
 店の前には、ガチャガチャもあった。あの時代、ガチャガチャは、ほとんどが十円であった。もっとも、中身は、たいしたモノではなく、スーパーボールとか、とてつもなくショぼいミニカーだとか、なんかそんなものである。
 その店の前に、高さがそこそこある立方体のモノがあった。中には、ウサギとレールがある。
 これは、十円入れると、そのレールを十円玉が滑り降り、前後に動いてるウサギがその十円をパクッとくわえようとするやつである。もし、タイミング良くくわえることができたら、賞品がもらえる。下のほうから、なんか出てくる。すまない。なんだったか、覚えていない。多分、巨大なスーパーボールだった気がする。
 これは、みんなが知っていて、みんなが、ウサギが十円に食いついたことは一度もない、と言っていた。
本当に十円くわえることあるのか?と疑う奴もいた。もっともな話である。
 ある日、またなんかお菓子でも買い食いして、帰りぎわにウサギのやつをやって、十円取られた。一緒にいた、友人のKA2(仮名)も取られた。
 そこへ、同じクラスの友達、学級委員と副学級委員が来て、「これ当たったことある奴いる?」そう学級委員が言ってきた。
「いない。今も取られたよ」KA2が答える。
 すると、副学級委員が、「今日、時計持ってるんだよ。これさぁ、時間計れば出来るんじゃないの?」
 ものすごくまともなことを言ってきた。「なんかいつも取られて腹立たない?」学級委員が言う。
 学級委員と副学級委員二人は、成績もクラスで一、二位である。
 ちなみに、自分とKA2はバカである。
 そんな頭のいい二人が、本気で、このウサギヤローに勝とうと言い出したのだ。要するに、いつも十円取られて、感じ悪いパン屋を儲けさせてるのが、腹が立つということらしい。
 早速、やり始める。腕時計をはずし、手に持つ。とりあえず、十円を入れるところを計り始める。ウサギが動く。十円はすでに通り過ぎたあとだ。ウサギが十円を取るはずのところまでの秒数を知る。
 時計を見ながら、そして、前後に動くウサギを見ながら、十円を入れる。しかし、ウサギは十円を口でつかまない。
「時間は合ってるはずなのに、なぜだ?」副学級委員が首を傾げる。カンタンにウマくいく、そう思っていたら、そうではなかった。
 そこへ、もう一人の学級委員山岡(仮名)が現れた。女代表としての学級委員である。買い物カゴを持っている。スーパーはすぐ横である。
 何やってんだコイツら?という顔で無言で横を通り過ぎる。
 その間にも、ウサギゲームは、続いている。十円は順番で出した。
「もしかしてウサギの動きって一定ではないんじゃないの?」自分の発言は、無視される。
 そこへ買い物を終えた女学級委員山岡が通り、「まだやってんの?」「計算が合わないんだよ」副学級委員が答える。
 ちなみに、女学級委員山岡は、さらに成績が良く、学年一位と言っていいレベルであった。慶應にストレートで入った女だ。
「それ、ウサギの動き、微妙にちがうよ」「なんだと?」
 さっき自分が言ったのだが・・・わかっているのは、横のKA2だけであった。
 慶應にストレートで入る学年一位の女の意見はちゃんと聞く二人は、時間を見ながらウサギの動きを観察する。
「山岡、十円くれ」学級委員が言う。「意見を言った以上、おまえも参加する権利がある」「なんであたしが・・・」よくわからない論理でも、山岡は金を出した。女学級委員の金でやったら、確かに、毎回、一秒違うことに気づいた。五回で元に戻ることを知る。
「ムダ使いしないのよ」山岡が去って行く。「はい」自分一人が答える。
 ウサギが完全に真後ろに下がってから四秒後に十円をいれる。ハズれた。
「やっとわかった」副学級委員が、確信ありげに言い、次は、やめろ、と言う。ちなみに副学級委員は理系で算数が異常にデキる。ノートを覗くと、見たこともない方程式のようなもので、計算した痕跡があった。
 ウサギの動きは五ターンである。
 十円入れる準備をする。副学級委員が、時計を見ている。「今だ」自分が金を入れる。十円玉がレールを下っていく。ウサギが動く。そして、口でつかんだ。
「やった!」全員で声を上げた。
 ものすごい満足感があった。
 下から出てきた景品など、どうでもよかった。勝ったことが大切なのだ。
 翌日、学校で、女学級委員山岡が、話しかけてきた。
「そう。良かったじゃない。幾ら使ったの?」「五百円ぐらい」
 山岡は、ため息をつき、「ヒマね」そう言って去って行った。

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