団地の遊び アブダクション

アブダクション

 七歳のとき、MM2(仮名)はUFOにさらわれたーーー本人談。つまり、アブダクションというものである。
 MM2は、日頃から、超常現象的なものを研究していた。特に、UFOと宇宙については、かなり勉強していた。
 団地の西南の空に、大きな雲がある。そのへんでの、UFOの目撃情報は、結構あった。MM2に言わせると、雲の中に、母船の葉巻型UFOが停まっているということだった。
「俺は芝生で寝転んでいたんだ」アブダクション帰りのMM2が、真剣な顔で、昔の話をしだした。
 団地内のいつもの公園横の芝生だった。大きな楠の木の下にいる。何人か、よく遊ぶメンバーが揃っていた。
 つまり、MM2がUFOに興味を持つようになったのは、自分がさらわれたから、というものだった。
 まるでXファイルみたいなヤツだが、コイツはこの話は絶対に本当だと言っている。
 もちろん、インチキくさいのだが、やはり、まだ子供なので、どこか、もしかして?と思ってる部分もある。
 それにMM2は担任のK先生にも話していた。K先生は、真面目に取り扱ってくれたそうだ。こういうところが、K先生が良い先生と言われる所以である。
 このアブダクションの話は、断片的には、いろいろ聞いている。だが、まとまった話としては、聞いたことはなかった。
 夏休みでヒマなのか、今日はやけに順序立てて話し始めた。夏の生暖かいゆるい風が吹いている。片目の白犬シロ(仮名)が、芝生にダラーと寝転がり寝ている。
 MM2が続ける。気づいたら、銀色の広い部屋にいた。仰向けに寝かされていた。匂いは何も感じなかった。音もしなかった。
 日本人だか外人だかわからない顔した背の高い女がいた。人間ではなく機械だという。しかし見た目は人間にしか見えなかった。
 宇宙旅行は、有機生命体では無理で、そのため機械人間が乗船してるのだという。自分で考え行動もできるが、遠隔操作することも可能だそうだ。
「なんで生き物は無理なんだろう?」学級委員Rが聞く。やはり宇宙線とか次元の問題とかブラックホールとかが、関係してるんじゃあないか?高橋がボール投げをせず、ミットにボールを入れたり出したりしながら言った。
 理由は聞いたんだが、難しくてわからなかったんだ。MM2が素直な言い方をする。
 女学級委員I山岡が、なんとなく一人冷めた顔でいた。コイツは基本こういった話は信じない女で、にもかかわらず、こういう集まりにはたいがい参加するヤツだった。
 自分とキーちゃんは、基本バカなので、ものすごく熱心に聞いている。意外に三村夏子もマジメに耳を傾けていた。
 団地を空から見て、その後、宇宙にも行ったよ。地球は青かった。
 青いんだってよ、キーちゃんが自分をつつく。聞いたことあるセリフだった。ガガーリンが言ったのよ、山岡が説明する。外人か、キーちゃんが頷く。
 体に発信器みたいなモノが埋め込まれているという。どこに?三村夏子が聞く。あちこちあるって、宇宙船の機械人間女が教えてくれた。
 その機械人間は名前はないの?キーちゃんが聞く。なかなか愉快な質問だと思った。名前は聞かなかったなあ、名乗りもしなかったし。MM2がまるで宇宙を見てるような遠い目をして答える。みんなでなんか笑う。そしてさらに、信憑性の高いことをMM2は次に言った。
 俺の体、磁石くっつくんだぜ。皆、驚いた顔をした。ーーー発信器かあるからさ。
 キーちゃんがポケットから、テレビの磁石を出した。小さな円筒形をした黒いモノである。結構重い。
 昭和の時代、テレビはブラウン管に真空管だった。壊れたテレビがゴミ捨場に落ちていると、必ず、磁石を探した。既に取られていなければ、必ず取った。みんな磁石が好きだった。五十年たった今でもまだ持っている。
 MM2がTシャツをめくる。ヘソの横あたりを指さす。キーちゃんが磁石を近づけると、カチッと音したようにくっついた。体を起こしても磁石は、落ちなかった。キャーと三村夏子が小さな悲鳴をあげる。さすがの山岡も驚いた顔をしている。次に心臓あたりを指さす。
 このとき、自分たちの空気は、相当冷えていた。夏なのに、冷んやりしていた。
 すると高橋が真剣に言った。やめよう。UFOに知られないほうがいい。
 なるほど。なんかわからないが説得力のある言葉だった。
 キーちゃんが素早く磁石をしまう。
 レントゲン撮ったらどうなるの?学級委員Rが聞く。写らない、MM2が答える。K先生も知ってるという。
 以上、記憶が間違ってなければ、全て本当の話である。
 そして、本気でバカな自分は、一応、聞いてみたいことがあった。ところがやはりバカなキーちゃんが、先に言った。
「鉄とか普段食べてないよね?」

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