拳銃の思い出/元警察官
警察学校に入ると、拳銃射撃訓練が毎週ある。半日近く訓練はおこなわれる。私が生まれて初めて貸与された銃は、コルトガバメント45口径だった。進駐軍の払い下げで年代物の自動式拳銃だった。
初心者が持つべき銃ではない。45口径といえばダーティハリーだ。大砲みたいな銃だった。反動がすごい。腕を持っていかれる。20メートル先の的に当たらない。的下の砂に当たると砂が凄まじく舞う。的の柱に当たると、的自体が吹き飛び、教官に怒られた。発射音も大きく、訓練が終わると耳がジンジンした。訓練が苦痛だった。
数ヶ月後、回転式銃に変わった。ニューナンブという国産の拳銃だ。38口径で5発装填できる。回転式銃つまりリボルバーは撃鉄を起こして引き金を引くタイプ。2つの動作が必要なのでダブルアクションという。いきなり引き金を引くこともできるが、力が要るので「ガクビキ」が起こり、的に当たらない。
それに比べて自動式拳銃はシングルアクションなのだ。引き金は引きやすい。子供でも簡単に撃てる。安全装置をかけておかないと危ない。暴発の危険が高いので銃の取り出しが多いとされる地域警察官は回転式を携帯するのが常だ。
今度はまともに撃てると思っていた私は、またもや裏切られた。全然当たらないのだ。50点中30点しか取れなかった。よく見ると与えられた銃は「つぎはぎ」だらけだ。銃の部分ごとに色が若干違う。余った部品を組み立てた銃だった。検定試験が近づいて来た。
合格点は35点、29点で落ちた。再試験になった。再試験でもダメだった。そこで、教官が初めて私の銃を調べ始めた。一言、「この銃は当たらない」と。
教官の銃を借りて、再度試験をおこなった。40点を取り合格、警察学校を卒業できた。
だが、当たらない銃はそのまま貸与された。巡査部長になるまで10年間。
一線の警察署に配属されると、拳銃射撃訓練は年に一度、普段は手入れがほとんど、勤務時間中携帯しているが、使うことはない。
巡査部長に昇任して異動した時、新しいニューナンブが貸与された。ほぼ新品。この銃はよく当たった。
制服が変わり、女性警察官が増えると、銃身が長いニューナンブは携帯しにくいという理由からスミス&ウェッソンの32口径の回転式銃に変更された。手のひらサイズだ。銃身が短い。撃つと手の中で暴れる。
銃は使わないにこしたことはないが現役時代、使うことを常に想定していた。使うときは死ぬことを覚悟する。幸い、35年間現場で使わずに済んだ。発砲事件がほとんどない日本。この平和は守らなければいけない。