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気候変動の5千年

(お読み下さい:訳者からのお知らせ)


気候変動の「標準的な物語」では、気候は20世紀まで比較的安定していたが、その後から工業的な排出が顕著になり始めたと主張します。このことが気温について当てはまるかどうかに関わらず、水に関していえば過去2〜3千年の間に気候の激変がありました。地球は著しく乾燥化し、その原因のほとんどは、そう、人類文明にあるのだと私は思います。

ある研究者によると、二酸化炭素とメタンの蓄積は産業革命のはるか以前からずっと続いてきました。ウィリアム・ラディマンは、この2種類の気体の濃度が(以前の間氷期に比べて)異常に高まった時期は、新石器時代に森林破壊と農耕が始まった時期に一致していたと主張します[35]。彼の論文には歴史学、考古学、地質学の多種多様な根拠が集められていて、大規模な森林破壊は今から2千年前までに中国、インド、中東、ヨーロッパ、北米、そしてある程度は南北アメリカ大陸でも起きていたことが分かります。当時の温室効果ガスへの影響は産業時代の2倍で、産業時代はそれまで続いていた長期的な傾向を加速しただけだったとラディマンはいいます。

ラディマンはこの問題の議論を従来の温室効果というレンズで見ていますが、水と生物ポンプの視点から見れば、状況はさらにいっそう憂慮すべきものです。あなたは地球の衛星画像を見たとき、拡大を続ける巨大な砂漠がアフリカ西海岸からアラビア半島を通って遠くモンゴルまで1万3千キロも延びているのを見て、不吉な前兆にぞっとしたことはありませんか? 他にも弟分の砂漠がアメリカ南西部、南米西海岸、オーストラリア大陸の大半にもありますね? アフリカ南部は言うまでもなく、今ではスペインとブラジルの一部まで? これらの地域のほとんどは、かつて緑に覆われていました。モンゴルが砂漠になったのは、わずか4千年ほど前のことで、これまで信じられていた数百万年前ではなかったのです[36]。サハラ砂漠は6千年前には青々としたサバンナでした。地球の機械論的な先入観を持つ科学者は、砂漠化の原因を地軸の傾きが変化したことに求めるのが普通ですが、深刻化の原因はおそらく人間の活動です[37]。ローマ時代以前の見事な都市は、森で覆われた流域をもつ河川に潤されていましたが、その森はもう失われ、都市が建っていた場所は今では砂漠になっています[38]。文明の揺りかごである中東は、同じようにかつて肥沃な楽園でしたが、森林破壊の記録はギルガメシュ叙事詩にさかのぼり、地中に埋もれた花粉と木炭からも証拠が見つかります。ジフの森やベテルの森など聖書に出てくる森林は今では砂漠になり、レバノンのスギや、ギリシア神話のアルテミスが狩りをしたエーゲ海の島々の森も消えました。森林破壊はローマ時代に加速しましたが、それがローマ帝国滅亡の原因だとされることが多いのです。

対話篇クリティアスで、プラトンは森林破壊の影響について鮮明で正確な記述を残しています。

豊かで柔らかな土は今では全て流し去られ、ただ残された裸の地面は病んだ体に浮き出した骨のようだ。昔なら…平野は土壌に満ち山には溢れるほどの木々があった。…一年間に降る雨が大地に実りをもたらしていたのは、水が裸地を海まで流れ去ることがなかったからだ。…かつて泉のあった場所に、今は聖堂が残るだけだ。

多くの場所で砂漠が拡大を続け、新しい砂漠が生まれています。2000年から2012年の間に地球は残る森林の3%以上を失いました。現在、地球には文明の夜明けの頃に存在した樹木のおよそ半分しかありません[39]。米国は過去10年でメイン州と同じ面積の森林を失いました。ブラジルの森林破壊は2016年に29%増加し、その速度は2017年に少し落ちましたが、それでも2012年より高い水準でした。オーストラリアのクイーンズランド州は2015〜16年に4千平方キロの樹木を失い、流出土砂が隣接するグレート・バリア・リーフを苦しめました[40]。世界では、2016年に樹木被覆の消失速度が51%増加しました[41]。

全体像はこういうことです。先進国も途上国も同じように、森林の広さと質が悪化しています。他にもさまざまな土地と水の酷使によって、砂漠化が世界で毎年1千2百万ヘクタールの土地を飲み込んでいると国連の調査は報告しています。さらに砂漠化は、地球上あらゆる地域と生物群系に広がっている全般的な生命の窮乏化の、最も目立つ現れにすぎません。まったく砂漠のようには見えないような場所でさえ、ほとんどどこでも生命は衰退に向かっています。

言い換えれば、古代から今まで続くのと変わらず、大地はあなたの目の前で死にゆくのです。私たちは大地を殺すことをやめなければなりません。これは温室効果ガスの排出削減よりも大きなことです。それは、何千年も文明の一部だった私たちの土と海との関係を逆転することです。申し訳ありませんが、いわゆる再生可能エネルギー源へと単に切り替えるだけでは不十分です。「私たちは何のためにここにいるのか?」「地球上で人類の正しい役割は何か?」「地球は何を求めているのか?」といった深い問いを発することを、私たちは求められているのです。

このような問いを探求していくと、気候活動家が推奨する方策の中には、新たな動機と重要性を与えられるものがある一方、古い関係をまた繰り返すだけのものもあることが明らかになるでしょう。大型水力発電所や、果てしなく続くソーラーパネルと発電風車、そして特にバイオ燃料プランテーションは、その場所にある生態系を傷つけます。新たな関係の中では(文明にとって新しいだけで、土着先住民にはそうでないのですが)、大地から何かを取るときはいつも、大地を豊かにするような方法で行うよう務めるのです。私たちが与える影響に無意識であることはなく、私たちの影響を最小限にしようとするのでもありません。私たちは、あらゆる生命に奉仕するような美しい影響を与えるよう務めるのです。

(私たちは何のためにここにいるのか?など)先ほどの問いへの答を、私は本書の後段で探っていきますが、それは本章と次章で述べるように、生命が生命生存のための条件を作るということの理解から始まります。そして、私たち人類は何者なのでしょうか? 私たちも生命です。私たちは、ある形をもち、特有の資質をたくさん持って生まれた生命です。すべての生命と同じように、私たちの目的は生命に奉仕することです。今ある生命と、それが育ち移り変わった姿の両方に奉仕することです。生命はけっして留まらないからです。積み重ねてきた生命の複雑さの上に、さらなる複雑さが花開いてゆきます。生命は何を夢見るのでしょう? 次に生まれようとしているのは何で、私たちはどうすればそれに奉仕できるでしょう? このような問いをもって、古い文明の問いを置き換えなければなりません。それは「どうすれば最も効率的に地球から資源を採取して人間の世界を造れるか?」という古い問いです。


注:
[35] ラディマン(2003).

[36] ヤンら(2015)。さらに詳しくはイールカ(2015)。

[37] たとえばワイズマン(2008)を参照。

[38] ヒューズ(2014)p. 3。

[39] クラウザーら(2015)。

[40] ロバートソン(2017)。

[41] ヴァイセ、ゴールドマン(2017)。


(原文リンク)https://charleseisenstein.org/books/climate-a-new-story/eng/five-thousand-years-of-climate-change/

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クリエイティブ・コモンズ・ライセンス「表示4.0国際 (CC BY 4.0)」 
著者:チャールズ・アイゼンスタイン
翻訳:酒井泰幸



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