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Journal du 6 août

この机ゆれる、だめだ。メモの切れ端を机のしたに挟む、治った。必要なのは切れ端、紙全体ではない。

クリストファー・ノーランの『オッペンハイマー』をアメリカで見てきたというツイートが流れてきた。店内にはカーペンターズが流れている。昨日と同じ喫茶店で、昨日の二つ隣の席に座り、アイスコーヒーを頼む。昨夜、縞模様の服の女性が川底に沈んでいる光景が眠りに落ちる直前にふっと眼裏に浮かんで、これはどうもおかしいとおもった。向かいの席に若い男二人が座っている。暴力的な喧嘩を暴力的な検索結果に空耳した。

暴力的な検索結果と言えば、昨夜ネットサーフィンをしていて、尾行を見破る方法という記事が目に留まった。そこには、普段と違うパターンの行動をすると調査員を少し動揺させることができてボロを出させやすいとあった。
今日は一〇時ごろに起きて、オムライスを食べ、自転車で昨日とすこし違うコースで三条に向かった。鴨川は水位が下がって、浅くなったところに藻が発生していて、ふだんはしない匂いがする。最近雨が降っていないのだったか。

昨日はバイト先で、お客さんが鴨川の上流で釣ってきた鮎を食べた。レモン汁をかけた鮎に頭からかぶりつくと、ビールが飲みたくなったので、コンビニでビールを買ってきた。鮎は二匹食べた。
むかし貴船の川床で鮎を食べたときは、母方の祖母が一緒だった。箱のような座敷に、弁当のバランのような葉がわさわさと侵入していて、焼いた鮎がひっきりなしに運ばれてきた。
父親の運転する車に乗って貴船から降りてきて、下鴨のあたりに差し掛かると、突然激しい雨が降り出した。川は大粒の雨でまっしろになる。車の中で坂本龍一の"Asience-fast piano"が流れてきて、花王のアジエンスのCMが流れ、浅田真央がまっさらな氷の上でイナバウアーする。

浅田真央がイナバウアーした年に、祖父が亡くなった。祖父の葬式は下鴨のお寺で行われ、その後どこかで親戚が集まる宴会があった。和室に机が二つほど並べられて、黒い服を着た人たちが座っている。この人たちが全員じぶんの親戚だというのは不思議なことだった。
その後、五条あたりの町中のビルで告別式があった。もう日が暮れていて、喪主である父の運転する車に乗って、下鴨から五条の街中まで出る。大きな通を北に斜めに入ったすぐのところの、ただのマンションのようなビルを、黒い服を着た人たちが出たり入ったりする。その列を横切るように車が、前の道路をひっきりなしに北に斜めに入っていく。父親は駐車場を探すのに手間取っていて、先に降ろされた僕はビルの外と中を行ったり来たりしているうちに、ビルの一室にいた黒い服の人たちは増えたり減ったりした。

その父方の祖父は今、下鴨のお墓に眠っている。僕は毎年お盆になるとそこにお墓参りに行く。今年もその季節がやってきたのだ。
去年のお盆はどうしただろうか。バイト先から送り火をみたのを憶えているから、京都にいたということだから、実家には帰ってなかったはずだ。お寺の近くのコンビニで五〇本入りの線香を買う。それは毎年のことだ。当然四八本ほどの線香が余ることになるのだが、夏が終わった頃に部屋の片付けをしているとそれを発見してしまい、この束をどうにか処理しないといけない気がしてしまう。試しに火をつけてみる。線香は先のほうから灰色になって曲がる。曲がって、ポロッと折れる。

今年の送り火は、点ではなく線、すべての火が灯る。今日も同じ喫茶店で書く、カリブ風の、街が空いている午前十一時の喫茶店。奥の席のほうの壁がニッチになっており、穏やかな黄色の照明が、厚紙をカッターで切り抜くように、壁を四角く切り抜いている。夏休みを、送り火という線で切り抜いて、お盆にする。お盆とは、八月の切り抜かれた空白である。

(日本語:1438字)

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