
エントロピーあれこれ
科学や情報理論、統計学にはいろんな言い回しでエントロピーが出てきますので、気が向くままに展覧していきます
ファインマン「計算機科学」(https://amzn.asia/d/fOhtup7)より:
温度やエネルギーは微視的な性質の和から生じる巨視的な性質であるけど、エントロピーはそうでない、との見方をしています

この本の中でファインマンは、シャノンがフォン・ノイマンに従って平均情報のことをエントロピーと名付けたせいで情報理論と熱力学との関連が強調され過ぎているとしています。

ファインマン物理学 光熱波動(岩波書店)においても
・各原子はそれぞれあるエントロピーをもつかもしれない。そしてそれらを加え合わせると全エントロピーになるかもしれない←そううまくはいかない
・一つの分子当たりのエントロピーの増加は分子自身の性質ではない。
ことが強調されています。

ファインマン物理学 光熱波動(岩波書店)

ファインマン物理学 光熱波動(岩波書店)
「外から見ては同じに見えるようにして」内部でどれくらい並べ変えられるか
がエントロピーを決めると説明しています

ファインマン物理学 量子力学 (岩波書店)
励起状態の原子が光を放出する理由は、そのほうがエントロピーが増えるからであってエネルギーを失うほうこうに変化が起きているわけではない、と説明しています

ファインマン「物理法則はいかにして発見されたか」(岩波現代文庫)
エントロピー増大則を、エネルギーの有用さが常に減少することと説明しています。

ファインマン「統計力学」丸善
量子統計力学におけるエントロピー増大をヘルマン=ファインマンの定理と共に、また密度行列におけるエントロピーが時間変化せず一定であることを説明しています

フェルミ「熱力学」(三省堂)では
・孤立系で起こるいかなる過程に対しても、終わりに状態のエントロピーは初めの状態のエントロピーより小さくはなりえない
・孤立系ではエントロピー最大の状態が最も安定な状態である
・孤立系では、すべての自発的変化はエントロピーを増す方向におこる
ことなどが簡潔に説明されています

久保亮五 熱学統計力学 演習 https://amzn.asia/d/8lX3XCA
Fowler(ディラックの指導教員だった)による、「エントロピーの概念は統計力学では第二義的な重要性しかもたない」という発言を紹介しています

ゾンマーフェルト 理論物理学
エントロピーのほうがエネルギーより「指導者的」というEmdenの言葉を紹介しています

ゾンマーフェルトはまた、
・熱力学第二法則の本質はエントロピーがはっきり定義された条件下では減少できないことにある
・エネルギーの価値が低下する傾向が第二法則の本質なのではない(プランク)
ことを強調しています

シュレーディンガー「生命とは何か」(岩波文庫)ではまず熱力学のエントロピーを紹介してから、統計力学的エントロピーを紹介しています



シュレーディンガー「生命とは何か」では、温血動物は外気温との差による排熱dQが大きいのでエントロピーの排出が速いため生命活動が活発なのであろうとのべています

上記の水色部分(可逆的な小刻みな変化)は無限に小さなカルノーサイクルのことと思われます(または単なる準静的変化のことでしょうか)

シュレーディンガー「生命とは何か」では、
生物はカロリーではなく、「負のエントロピー」を周囲の環境(食物など)からとりいれている
と述べています

シュレーディンガー「生命とは何か」(岩波文庫) によると、ネルンストは化学反応においては、室温でもエントロピーの役割が小さいことを発見したそうです

久保亮五「統計力学」共立出版:
熱力学的エントロピーを不変にする準静的過程ではミクロカノニカル集団の孤立系の統計力学的エントロピーが不変であることが、古典力学の「断熱定理」によって保障される
と説明されています

朝永振一郎「量子力学1」(みすず書房)
エントロピーという用語をださずに、Q/Tがカルノーの原理を破らないという要求から空洞輻射のエネルギーが温度の4乗に比例するというシュテファンの法則の導出ができることを説明しています

ジャック・モノー「偶然と必然」(みすず書房)
エントロピーはある系内のエネルギーの散逸を測る熱力学的な量
と説明されています

マッハ力学(講談社)
「宇宙全体のエントロピーを決定することができたなら、それは事実上一種の絶対的な時間尺度を表すことになろう」と19世紀の物理学の限界の中で述べています

フォン・ノイマン「量子力学の数学的基礎」(みすず書房)
エントロピーに関する考察から、測定における「非因果的なふるまいは、またなんらかの熱力学的随伴現象と一義的に結びついている」としています

久保亮五演習書の
熱力学第二法則のトムソン原理

ゾンマーフェルト講義録のケルビン原理

ゾンマーフェルト講義録の「熱がすべて仕事に変えられる例」

ゾンマーフェルト講義録 熱力学統計力学(講談社)
、ネルンストはエントロピー概念を嫌って極大仕事+ヘルムホルツ自由エネルギーFの変化を好んだそうです

ゾンマーフェルト講義録(講談社)では、ボルツマンの原理の説明においてエントロピーを状態の確率に還元することや、リューヴィユ定理との関係をボルツマンが述べていたことを紹介しています。


マッハ「熱学の諸原理」(高田誠二訳 東海大学出版局)では、
「分子仮説とエントロピーの定理との融合」はエントロピーの定理にとっては幸いなことではないという見解が表明されています。

マッハ「熱学の諸原理」では、マクスウェルがエントロピーを、仕事をする気体の体積のようなもの、と力学的な概念とのアナロジーを論じていたことが記されています

操作主義物理学の提唱者パーシー・ブリッジマン(1946年ノーベル物理学賞)は「熱とエントロピー」(東京図書)において
「エントロピーは流れると言わざるを得ない」
「一度生成されるとエントロピーは、それ以上の非可逆性を必然的に伴うことなく、方々に輸送される」と述べています

マックス・プランク「熱輻射論講義」(岩波文庫)では
「自然界において多くの制御できない構成要素を含む状態、すべての過程は要素的無秩序である」という仮定が過程の一義的決定の保証である
一定の状態にある物理系のエントロピーはその状態の確率にのみ依存する
ことを述べています

シュレーディンガーの統計熱力学の本では
「マクロな観察者にとっては異ならないけれどミクロには異なる状態の数を数えることによって熱力学的な系の統計的エントロピーが決定される」
と説明されています。


ピエール・デュエムの熱力学の教科書では、
「宇宙の中で完全に孤立した系を考えると、その系に起きるいかなる実際の変化も全エネルギーを変えず、またエントロピーを増やす」
と説明されています
Thermodynamics and chemistry. A non-mathematical treatise for chemists and students of chemistry : Duhem, Pierre Maurice Marie, 1861-1916 : Free Download, Borrow, and Streaming : Internet Archive

ジョージ・ガモフ「トムキンスの冒険」(伏見康治ほか訳)白揚社
では、エントロピーについて、マックスウェルの魔、ボルツマンのH定理、準エルゴード性、ギッブス形式などと並んで説明されています。

アインシュタインの1905年の「光の生成と変換」
・分子論の方法でエントロピーを計算する際には、確率という言葉が、確率論の定義とは異なる
・熱のプロセスを扱う際には、いわゆる「統計的確率」を用いれば十分である
と述べられています。
(アインシュタイン論文集 「奇跡の年の5論文」青木薫 ちくま学芸文庫より)

プランクの熱力学講義(Max Planck, Treatise in Thermodynamics)
「熱力学第二法則によれば、可逆過程においては不変であり、不可逆過程においては増加する量が存在する。この量をクラウジウスに倣ってエントロピーと呼ぶ」

マクスウェルの熱の解説(Theory of Heat)では、
「断熱線たちを、測定可能量である物体の性質(property)の程度を表すと考えよう。この量をクラウジウスの命名を採用してその物体のエントロピーと呼ぶ。」と説明されています

マックス・ボルン「原因と偶然の自然哲学」(みすず書房)
カラテオドリの原理とエントロピー増大の関連を説明しています

シャノンら「通信の数学的理論」(植松友彦訳 ちくま学芸文庫)
確率的事象の選択性を測る尺度としてエントロピーが導入されています
ボルツマンのH定理が言及されています

ウィーナー「サイバネティクス」(岩波文庫)
マクスウェルの魔の不可能性について論証しないと、エントロピーなどについて価値あることを学ぶ好機を逃してしまうと述べています。

パウリの熱力学講義では、
準静的循環過程において、4つの条件たちが成立する場合に存在する関数をエントロピー関数としています。

竹村彰通「現代数理統計学」
カルバック・ライブラー情報量について説明する際に、エントロピーを紹介しています

JaynesのInformation theory and Statistical mechanicsでは、
エントロピーを含む統計力学のルールと統計的推測の関係が記されています。

