アリエル・ルービンシュタインによるゲーム理論の有効性の議論について
著名なゲーム理論家のアリエル・ルービンシュタインの記事
https://fivebooks.com/best-books/ariel-rubinstein-on-game-theory/
(日本語解説はhttps://himaginary.hatenablog.com/entry/20120610/ariel_rubinstein_on_game_theory )
をみて、この方は意外にも他分野の研究の知識や非学問的知識が少なめかもと思いました。ひとまず一読して気が付いた点をざっと列挙します。
"The word “game” has friendly, enjoyable associations. It gives a good feeling to people. It reminds us of our childhood, of chess and checkers, of children’s games. The associations are very light, not heavy, even though you may be trying to deal with issues like nuclear deterrence. I think it’s a very tempting idea for people, that they can take something simple and apply it to situations that are very complicated, like the economic crisis or nuclear deterrence. But this is an illusion."
「ゲーム理論の『ゲーム』という言葉が楽し気な連想をもたらしているだけです。我々はこの言葉からチェスなどの子供時代のゲームを思い出しますが、このようなゲームは核抑止論とはほとんど関係しないのです。単純なものごとを入り組んだ事柄、たとえば経済危機や核抑止に応用できるというアイデアは魅力的ですが、幻想です」
→勢力均衡論に基づいた外交による国際秩序形成で有名なヘンリー・キッシンジャーは、戦略ボードゲーム「ディプローマシー」の愛好家です。さらに、キッシンジャーは、1950年代後半には、ハーバード大学やRAND研究所において、ゲーム理論家であるトマス・シェリング、モルゲンシュテルンやダニエル・エルスバーグと戦略思考の研究会を開催していました。
Did Thomas C. Schelling Invent the Madman Theory? | History News Network
"In the late fifties, Schelling, Morgenstern, Kissinger, and Ellsberg (as well as others) were part of a circle of strategic thinkers centered at Harvard and RAND who were concerned mainly with the problem of the instability of the nuclear arms race and nuclear deterrence."
また、著名な投資家ウォーレン・バフェットやビル・ゲイツはブリッジを好んでプレイすると伝えられています。バフェットは週に8時間はブリッジをするそうです。実世界での政治危機や経営危機への対処方法をこれらのゲームから学べるのかもしれません。
2.” Logic is a very interesting field in philosophy, or in mathematics. But I don’t think anybody has the illusion that logic helps people to be better performers in life.”
「論理学は数学や哲学の分野としてとても興味深いですが、人生を送る助けになるという幻想は皆さん持っていないでしょう。」
→日本では、命題論理学の基本概念(対偶、逆など)を、大学や大学院に進学しない生徒にも学んでもらっています。生活を送る際に役立つ面があるからではないでしょうか。イスラエルではもしかしたら中学生や高校生に論理学を教えるカリキュラムになっていないのかもしれません。
3.” it’s not directly practical in the sense of helping you figure out how best to behave tomorrow, say in a debate with friends, or when analysing data that you get as a judge or a citizen or as a scientist.”
「それ(論理学)は明日どうしたらよいかとか友達とのディベートとか、判事や科学者としてデータを分析するときに直接は実用的ではありません。」
→米国ロースクールの入学試験LSAT(Law School Admission Test)には論理学の問題が出題されますし、物理、化学、生物学、工学などの学生向けにも論理学の講義があります。また高校でも日本では学びます。
4.” Maybe somewhere in a Sherlock Holmes or Agatha Christie story there was a situation where the detective was very clever and he applied some logical trick that somehow caught the criminal, something like that. ”
「ゲーム理論が役立つことがあるとしたら、シャーロック・ホームズやアガサ・クリスティの小説の中のようなロジカルなトリックが出てくる状況だけでしょう」
→コナン・ドイルは本職は医師であって、医学教育を受けていた時にエディンバラ大学の外科教授の聡明な医師に接して、その洞察力に感嘆したため、彼の観察や推論の方法をモデルにしてシャーロック・ホームズを創始しました。このことは、手術や医療といった実用志向の知識体系においても、ルービンシュタインが「お話の中だけ」といっているようなゲーム理論的、論理的思考法が役立つことの例証になっているのではないでしょうか。またアガサ・クリスティも、論理学やゲーム理論の教育を受けていたわけでなく、薬剤師として大戦中に野戦病院で働いていて様々な原因による死傷者多数に向き合った経験からポアロシリーズなどを執筆したといわれています。これも、ルービンシュタインが考えているほど、ロジカルな思考法と実践的活動が離れていないことを示しているでしょう。