『たいけん美じゅつ場 VIVAフォーラム2024』4つの問いで考える、まちの居場所のほぐし方―駅ビルで私たちの未来をともにつくるトークセッション「4つの問いへのアプローチ」プレインタビュー【前編】
取手駅(茨城県取手市)直結の駅ビル「アトレ取手」4階にある「たいけん美じゅつ場 VIVA」(以下、VIVA)は、東京藝術大学卒業作品を展示する公開型作品収蔵庫、工作室、ギャラリー、それぞれの目的で過ごせるパークなどからなる文化交流施設。3月には、毎年この1年間を振り返り、VIVAの価値や新たな活動の可能性などをゲストとともに語り合う「たいけん美じゅつ場VIVAフォーラム」を開催している。
今年は「4つの問いで考える、まちの居場所のほぐし方―駅ビルで私たちの未来をともにつくる」と題して、第一部ではVIVA運営メンバー等によるトークセッション「4つの問いへのアプローチ」を行い、それを踏まえて第二部では日比野克彦 東京藝術大学長、中村修 取手市長、高橋弘行 株式会社アトレ代表取締役社長ほかを迎えパネルディスカッション「4つの問いで考える、まちの居場所のほぐし方」を行う。
「トークセッション」はこれまでひとつのテーマで行ってきたが、今年は4つの問いを立てた。共同ディレクターの五十殿彩子さんと森純平さんは「夏頃からみんなで考え始めたのですが、スタッフそれぞれの持ち場で見えているものが蓄積されているようだったので、4つの問いを投げかけようということになりました」と語る。4つの問いをそれぞれひとりが代表してプレゼンテーションし、対談・鼎談も行う。
そこで、3月31日の「トークセッション」に向け、4つの問いがどのような思いから立ち上がってきたのかをインタビューした。まず代表して発表者に聞き、そのうえでVIVA運営メンバーも交えて、現場での経験談などを訊ねた。
「トークセッション」プレインタビュー(前編) メンバー:
武田文慶(アトレ取手店)、田中美菜希(たいけん美じゅつ場)、高木諒一(東京藝術大学)、五十殿彩子(たいけん美じゅつ場)
聞き手・構成:白坂由里(アートライター)
写真:星野祐司、冨田了平、加藤甫、中川陽介
地域のインフラとしてショッピングセンターが今、求められる変化とは
武田文慶(アトレ取手店 副店長)
―VIVAは、取手市、東京藝術大学、JR東日本、株式会社アトレの産官学連携により、アートを介したコミュニティづくりを目指して運営されている文化交流施設です。まず、アトレから見たVIVAの現在の状況について教えていただけますか?
武田文慶(以下、武田):アトレは恵比寿や品川など都心を中心に出店し、まちのターミナルとなるところが多いので、ショッピングセンターとしては堅調な運営を行うことができていた。ただ、取手と土浦のような郊外型2店舗では、人口減少や、近隣市の開発、団塊世代の退職等によって駅の乗降率にも変化があり、最盛期よりもかなり売り上げが下がってきています。
そうしたなかで、郊外型の駅ビルには、何か変化が必要だと考えて「地域のインフラとしてショッピングセンターが今、求められる変化とは?」という問いを立てました。2019年にVIVAができ、「コミュニティを育む」「シェアするスペース」という形ではやってきましたが、まだVIVAとショッピングセンターが融合しきれてないなと感じます。外から見て、ショッピングセンターの中に遊び場があるような感じにも見えるので、もう少し特色が必要だと思っていますね。
―現在のショッピングセンターの傾向として、買いものだけじゃなく、生活圏の中で何か他の役割を持つ場所にもなっているのでしょうか?
武田:駅ビルは生活の動線上にあり、買い物する利便性の高さが売りのひとつだったのですが、今やオンラインで買い物できる時代。すでにある郵便局やカルチャーセンターなどサービス機能を超えたところで、ただ便利な駅ビルというところから、この地域にとってなくてはならないショッピングセンターってなんだろうと模索中です。
―VIVAがあることで他地域からも訪れる人が増えたという利点はないでしょうか。アートと人、人と人をつなぐアートコミュニケータ「トリばァ」は、半数ぐらいが県外の方だとお聞きしました。
武田:そうですね。外からも入ってきてくれるのはありがたいです。こう言うと失礼ですけど、取手は外からわざわざ人が来るまちじゃないのに……ですよね(笑) 僕なんかもそうなんですけど、生まれた町に愛着はあっても、地域の担い手になるのは重いなという人も結構いるのではないかな。そうしたときに「多拠点を持つ」、自分の住むまちと、活動するまちがいくつかあると、ライトなかかわりができるのかなと思います。僕自身、東京から取手に通っています。
高木諒一(以下、高木):ああ、わかる気がする。仕事も生活も全部一緒になっちゃうのはなんとなく抵抗感がありますね。
武田:VIVAの場所が公民館や市役所の会議室ではなく、ショッピングセンターの中というのが気軽でいいのかなと思います。ショッピングセンターはさまざまな老若男女が使う場ではあるので、すでにほぐれているというか。そこにVIVAがどうつながっていくかなんだと思います。
―あるいは、VIVAで行われるコミュニケーションで、ショップのコミュニケーションに活かせる要素はありませんか?
武田:ショップでももちろんコミュニケーションを図りますが、店員に声をかけられるのが煩わしくてネットで購入するお客様もいらっしゃいますね。ビジネスコミュニケーションのようなのは求められていなくて、もう一歩二歩入って、カフェの常連さんのようなコミュニケーションが求められているのかなとは思うんですけど。
―ショッピングセンターは今どういう傾向にあるのか、他地域での具体例はありますか?
武田:ひとつには、テラスモール湘南などのように、そのまちならではの地域に根ざしたショッピングセンターが求められている動きはありますね。ひと頃の、金太郎飴のようにどこでも同じ店が入っているという利便性が重要ではなくなってきました。ショッピングセンターは今まで提供者であり、お客様が受給者という関係性だったと思うんですけど、ちょっとそれを崩さないといけないかもしれない。VIVAやトリばァというプレイヤーなどと「一緒に育っていきましょう」という関係性に。
ただ、地域に根ざした再開発と営利を見込んだ開発の両立は難しい。売上計画とだいたいイコールではないので、まちにフィットする商業施設を数値に落とし込むことは難しいですね。トリばァさんたちがショッピングセンターにどんな価値を見出すのか、VIVAがその開発においてどんな場所になるのか。それが僕らも大きな課題かなと思っています。お客様や地域に対して一方的じゃなくて、対話がすごく必要なんだろうな。お客様や地域のためと言いながら、駅ビルが地域の消費を独占してしまいかねない部分もあるので、その辺のバランスも考えないといけないでしょうね。
五十殿彩子(以下、五十殿):武田さんは取手に10年ほどいらっしゃるんですが、VIVAができる前から地域に出ていっていろいろなことをされていましたね。茨城の地酒を集めたイベント「SAKE MEETING」をVIVAで開催したり。それはまちに出ていったからで、ショッピングセンターの人の顔が地域に見えることって大事だなと思いました。
ー「顔が見える」という言葉が出てきましたが、VIVAとショッピングセンターをつなぐ何かヒントがあるのかもしれませんね。
オープンアーカイブはまちと人を育てられるか
田中美菜希(たいけん美じゅつ場プログラムオフィサー学芸担当)
―VIVAには東京藝術大学卒業制作の買い上げ作品などを展示する公開型の作品収蔵庫「オープンアーカイブ」があります。先ほどその中で実施しているプログラムである「たいけん美じゅつ研究所」(以下、VIVA研)を体験させていただきましたが、日比野学長の解説動画を導入とし、学芸員の作品調査になぞらえて自分の見方を書き込み、対話型鑑賞で他の人の見方も聞けるのが楽しかったです。
田中美菜希(以下、田中):ありがとうございます。オープンアーカイブにある作品の可能性を活用し、対話型鑑賞などを通じて作品の価値を探し直すようなことをしてきました。専門的な見方に依らずに、その人自身の作品の見方や価値観が出てきて、他の人の意見からも新しい見方が発見できるのが面白いと言われます。
―このオープンアーカイブの手法を「まち」に広げ、「まちと人を育てられるか」という問いに仕立てた理由を教えてください。
田中:今年度は取手市も関わって、取手市内の小・中学校との学校連携や新人研修などにVIVA研や対話型鑑賞を取り入れてくださいました。学校連携では今年が最も参加数が多かったので、やっと第一歩を踏み出せたなと思いました。もっと増えたら、まちが変わっていくのではないかと期待しています。事前授業でアートカードを使って作品鑑賞の練習をしたのですが、そのときは参加できていたのに当日のツアーに来られなくなっちゃった子がいたんですね。けれども班の子たちがそれぞれの好きな作品や理由などを覚えていて、「あれは欠席した子が好きな作品だ」と言ってくれたんです。作品が印象的だったのか、その子のお話の内容に共感して覚えていてくれていたのかはわからないんですが、感動しました。
―子どもの見方は大人と違いますか?
田中:子どもは寝転がったりしゃがんだり、低い目線で体を使って見るので、新たな発見があって面白いですね。大人は恥ずかしくて寝転がったりとかはあまりできないけど(笑)、子どもと大人が一緒に見ることもあります。
―「調査依頼書」に質問が書いてありましたが、私が体験した回では「作品をすこしだけ変えるとしたらどうしますか?」とありました。私には「作品は作家の選択の結果」という固定観念があるなと思い、変えたいところを考えたら自分が関心を持っている事柄にも気づきました。
田中:質問は他にも「別のタイトルをつけてみよう」「誰にあげたいですか」「どんな音が聞こえてきそうですか」など、全部で10個ぐらいあるんですよ。最初にみんなで100個ぐらい出してそこからいろんな意見が出そうな質問に絞りました。子どもたちは「少しだけ」でなく大きく変えようとしたり、別のタイトルを10個くらい書いてくれたりしたこともあります(笑)
武田:僕らの子ども時代にはなかった鑑賞教育なので、最初から本物に接して付き合い方を教えてもらえるって幸せだなと思います。
―ちなみに武田さんは、対話型鑑賞を体験してみてどうでしたか。
武田:僕はアート畑出身ではなかったので、こういう楽しみ方をしてもいいんだと身近に感じられましたね。それまでアートへの興味は少なかったんですけど、たまに旅行に行ったときに「美術館もちょっと行っちゃおう」とか。同僚も「初めて旅行で美術館に行った」と言っていて、行動の変化はあります。藝大の卒業制作展にも行きました。
田中:ちょっとでも美術との距離が近づいて嬉しいです。
―オープンアーカイブは展示替えが年に1回と聞きました。他にもいろいろなプログラムはありますが、リピーターはなぜまた足を運んでくれるのか。そこに鍵があるような。
田中:VIVA研は、質問をコンプリートするまで来る人もいます。対話型鑑賞は、参加する人によっても違うし、同じ質問でも、参加者やその日の気分でも意見が変わる。作品の入れ替えを増やした方がいいのかもしれないですけど、常設の良さもあると思います。
―トリばァがアーティストにインタビューすることもあるそうですね。
田中:はい。オープンアーカイブで実際に一緒に作品を見ながらインタビューを行うこともあります。インタビュー内容はnoteなどで公開し、作品目録から飛べるようになっています。作家さんの方でも「こんな見方をしてくれたんですね」「熱心に見てくれて嬉しい」という反響がありました。市内のスタジオを回るイベントを行ったこともあります。
武田:取手に来てから人生で初めてアーティストに会った気がします。いろいろなお話を聞いて、この人がこれを作ったんだと初めて頭の中でリンクしました。そういえば作品は「人の手によってつくられたものだった」という意識の変化があり、どういう意図なんだろうと思うようになりましたね。
高木:トリばァの中にも、取手でアーティストという存在に初めて会った人もいるかもしれませんね。卒業制作なので、アーティストとしての第一歩のような、僕たちも気軽な距離感で応援する気持ちで見られます。
五十殿:田中さん自身は、収蔵庫というセンシティブな環境に学芸員として配属されて、美術館の教育普及プログラムとも異なるコミュニティづくりとしてのプログラムを担当してどうですか? 田中さん自身の変化も、この問いにつながるような気がします。
田中:ああ、確かに変わったと思います。商業施設の空間にあり、作品への影響を考えて「それは無理ですよ」とか言っちゃうんですけど、作品との距離が近づくような鑑賞方法を借用先に確認もして工夫するようになりました。
武田:最初はフルで開けて誰でも気軽に入って見られたんですが、作品を消費財に変えたくないので、そこは考えた方がいいんじゃないかという意見があって、VIVA研などのアイデアが生まれましたよね。
田中:美術館では美術を好きな人が多く来てくれていますが、オープンアーカイブに来る人は美術が好きな人だけではない。そういう方たちにどう開いていくのか、トリばァさんたちとアイディアを出し合っています。
高木:自分の言葉で喋らなきゃいけないし、どう思われているかもわかっちゃうから、あんまり喋りたくないと苦手意識を持つ方もいますよね。誰かと一緒に見るときは「みんなバラバラでいいんだよ」という喋りやすい雰囲気をつくるようにしています。
田中:VIVAは美術館じゃないので、開いていってもいいかなと自分も楽しんでやるようになりました。最近は作品に貢献できたと思うことや、まちや人にも作用があるという自信が以前より持てるようになってきたと思います。トークセッションでは取手市の文化芸術課の方とも対談します。
―VIVAと教育機関が連携し、アートを通じて社会を開いていくさらなるきっかけになりそうですね。
後編につづきます。
時間|13:00-14:15
場所|アトレ取手4階 たいけん美じゅつ場
参加|無料
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