interview/大山田大山脈
2019年からひっそりと奇妙な電子音楽のリリースを続ける大山田大山脈。10年代後半から盛り上がりを見せているアンビエント〜レフトフィールド的な音像と呼応するようにも見えつつ、そのような「時代の気分」では包摂できないような「微妙さ」を彼女の音楽は示し続けている。その「微妙さ」への足がかりとして、大山田大山脈へのインタビューを敢行した。聞き手は大山田大山脈の作品のリリースをおこなうインディペンデントレーベル「造園計画」の島崎。
バンド音楽から電子音楽へ
島崎:ではまず、大山田大山脈での活動歴について聞かせてください。大山田大山脈を始めたのは何年頃ですか?
大山田:大山田大山脈で制作を始めたのは2018年の秋頃ですね。そのあと2019にkumagusu主催の「POSSE」というイベントに合わせて『POSSE Exhibition 2019 Limited Edition 』という作品をリリースしました。翌年にそこから選曲して、リミックスをほどこした『Selected Early Works』という作品をサブスクリプションで配信リリースしています。
島崎:大山田大山脈で活動を開始する前は、股下89というバンドで活動されていたんですよね。フジロックのルーキーアゴーゴーにも出演されていたりと、かなり本格的に活動されていたようですね。
大山田:股下89は2008年に活動を始めて、わたしはボーカルをやっていました。2018年ごろから活動休止しています。
島崎:その時の曲作りはどうしてましたか?
大山田:曲はみんなで作ってました。私は基本出来たものに歌を乗せる役割で、あとはリフを持っていくくらいでした。
島崎:いわゆるバンドらしい曲の作り方ですね。股下89はボーカルが強烈なバンドだと思うのですが、大山田大山脈は初期の音源からすでにもう歌なしのエレクトロミュージックになってるじゃないですか。何か心境の変化があったんですか?
大山田:そうですね。その頃歌がない音楽も聴き始めていて、自分でもやってみたいという動機がありました。ボーカルをやっていると自分の歌をずっと聞いていないといけないので、「歌疲れ」していたんですよ。それに歌詞を書くのも結構苦痛で、言葉が入ってこない音楽をやりたかった。
島崎:曲作りとしてはなにか変化がありましたか?
大山田:いやあ、どうでしょう。テクノに精通してるわけではないので、やっぱり作り方のフォーマットがロックにあるんですよね。リフにさらにリフを乗っけてみたいなやり方しかわからなくて。
島崎:歌詞や歌に疲れたって話でしたが、『Selected Early Works』は歌詞がないどころか、曲名も♯記号に番号だけですよね。
大山田:そうですね。もうタイトルにも言葉をつけたくないと思っていました。
島崎:言語で表現できない番号だけで曲を作る時って、どういう方法で曲を作っていくんですか?
大山田:MIDIキーボードを使って作曲はやってるんですけど、最初に鳴らした音を手がかりに作っていきますね。パーって鳴らして、「じゃあ次はこの音だな」という行程を繰り返して作ります。なかには「ダブをやろう」ってテーマをもって作る場合もありますけど、何のイメージもなく出来上がるものが多いです。
島崎:おお、すごい。じゃあ基本はランダムに音を鳴らしてそこから作っていくんですね。一方で2ndアルバムの『大山田大山脈』には曲名が付いてますよね。
大山田:それはかなりやむを得ずなところがありました。いま♯シリーズが60個くらいになってきて、自分で区別がつかないんですよ。それでやむを得ず曲名を付けることになりました。まあ結果ついててもいいのかな、とも思っています。
ゲーム音楽と大山田大山脈
島崎:では音楽的なリファレンスを聞けたらと思うのですが、1stアルバムの『Selected Early Works』は架空のゲームのサウンドトラックというテーマがあったようですが、大山田大山脈におけるゲーム音楽の位置付けをお話してもらえますか。
大山田:そもそもゲーム音楽を作ってみたいなという気持ちがありました。「電子音楽をやってみたい」と思った時、まず初めに初期のポケモンのBGMを耳コピして打ち込みをするところから始めました。
島崎:へえ。面白いですね。言われてみると大山田大山脈ってシオンタウンのBGMですよね(笑)。
大山田:たしかに(笑)。
島崎:ほかに影響を受けたゲーム音楽ってありますか?
大山田:『ゆめにっき』とか『KOWLOON'S GATE』とか、そこら辺のゲームが好きです。
島崎:『KOWLOON'S GATE 』は蓜島邦明が作曲を務めているサイバーパンク的な世界観が特徴の作品で、『ゆめにっき』はドットのゲームが流行る走りというか、2000年代の中頃から10年後の流行りをすでにやってるような、フリーゲームの金字塔ですね。その二つのゲームのどういったところが好きですか。
大山田:『ゆめにっき』は穏やかで懐かしい雰囲気、『KOWLOON'S GATE 』は東洋的で仰々しい雰囲気で、それぞれ全く違うゲームなんですけど、どちらも共通して不穏で奇怪な感じがあって、一般的なゲームやその音楽から大きく逸脱した印象があります。どちらもゲーム性を蔑ろにしてまで異世界に没入する事を目的とされたゲームだと思います。『Selected Early Works』でゲームのサントラを作りたいと考えたのも、独自の世界観に没入するものを作りたいと思っていたからかもしれないです。
島崎:なるほど。では音楽関係なく好きなゲームはありますか?
大山田:『MOTHER』シリーズは好きで全部やりました。あとは『妖怪ウォッチ』のゲームが大好きです。キャラが可愛いものが好きです。
島崎:ほお。『妖怪ウォッチ』ですか。ハードはなんですか?
大山田:3DSです。基本的には妖怪と友達になって妖怪同士を戦わせるっていうコレクション要素のあるゲームなので、ポケモンと近いんですけど、もっと「小学生の夏休み感」があるんですよ。虫を集めたり、魚を釣ったり、そういう妖怪と関係ない要素もあって、凄く細かく作り込まれたゲームです。音楽もかわいらしくて凄くいいです。
島崎:面白そうですね。そもそもゲーム音楽のどういう所が好きですか?
大山田:子どもの頃やってた時はゲーム音楽って全然意識しなかったんですけど、大人になってから、ゲーム音楽を聴いた時の思い出を喚起させる力に魅力を感じるようになりました。それに古いゲーム音楽って限られた音色で作ってるじゃないですか。そこもいいなと思います。
島崎:制約があるっていう話でいうと、『Selected Early Works』まではGarageBand(Macに初めからインストールされているDTMソフト)で作っているんですよね。
大山田:そうです。元々股下89時代にデモを作るときにちょっと使ってて、それを引き続き使う形で制作していました。作っている時はそんなに不便は感じなかったですね。『The Left Side of Body Held Evil Spirits 』というEPからlogicを使うようになりました。logicはプリセット音源の数がすごい多くて、逆にそれで音選びが大変になりましたね。
「ジャンル」的ではないもの、キャラクター性
島崎:「安易かな」と思いつつ、大山田大山脈の作品をリリースをする時、アンビエント/ニューエイジという売り文句に頼ってしまうのですが、実際そういったラベリングが似合う部分もありつつ、微妙な部分もあるなと思うのですが、アンビエント/ニューエイジというジャンルとの距離についてうかがいたいです。
大山田:うーん。そうですね。ジャンルについて詳しくなりたいという思いは常にあるんですけど、実際それでディグってみて、「あ、このジャンルのものはすべていいな」って思ったことがないですね。なのでニューエイジやアンビエントもそんなに深く聴いてるわけではなくて、王道が好きです。Brian EnoとかHarold Buddとか。あと最近聴いてるのはNaran Ratanという作家の作品ですね。
島崎:日本のニューエイジは聴かないんですね?
大山田:あまり聴かないですね。
島崎:レフトフィールドテクノについてはどうですか?
大山田:基本はAphex Twin、LFO、Boards of Canadaとか、その辺のテクノが好きで、最近のものだと、Andy Stott、Arca、OPNなどが好きです。今でこそTzusingとか聴いてますけど、似ていると言われて初めて聴きました。最近まで知らなかったです。
島崎:Tzusingは今敏の『Perfect Blue』の劇中曲をサンプリングをしているのもそうですし、ジャケットデザインなんかも含めて、日本のサイバーパンク的なイメージからの影響も大きい作家ですが、大山田大山脈はTzusingから直接に影響を受けていないものの、リファレンス元が似た物だから結果似てる、ということかもしれないですね。
大山田:基本的に自分が今聴きたいと思ってるものを作ってると思うのですが、わたしが作りたいのは単純にテクノとかアンビエントとか、ジャンルで言い表わせるものではなくて、じゃあそれが具体的にどういうものかっていわれたら、ある音階の使い方、ある音響感とか、そういういい方しかできないんですけど、あえてそれをいいあらわすとしたら、「電子ドラッグ」みたいに、精神に局所的に作用するような音楽を作りたいんだと思います。
島崎:なるほど。電子ドラッグって具体的な記号性が存在せず、微妙な色の変化の集積がその「作用」につながるわけですから、ジャンルという枠組みをすり抜ける「色彩性」みたいなものが大山田大山脈の音楽にはあるのかもしれないですね。その話とつながるかはわからないのですが、アンビエントやレフトフィールドなどのエクスペリメンタルな音楽の隆盛とともに、「テクスチャー」という語が音楽を評価する際によく使われるようになったなという印象があって、大山田大山脈の音楽はそういった時代の気分に呼応しているようにも見えながら、メロディのウェイトが大きいと思うのですが、メロディという要素をどのように捉えていますか?
大山田:そもそもGarageBandから作曲を始めたというのもあって、音質とか質感が悪くてもそれでもなおいい音楽を作りたいと思っています。歌モノの音楽がまず好きですし、テクノを聴く時もリズムとか質感よりもまずはメロディを聴いている気がします。Aphex Twinが好きといいましたけど、リズムセクションにはあまり興味がなくて、自分はAphex Twinの音階使いが好きです。あとメロディや音階でいうと、エリック・サティをやろうとしてる部分はあります。
島崎:サティですね。なるほど。ナマコの曲とか大山田大山脈っぽいですよね。
島崎:先ほどからお話を聞いていると、ポケモン、妖怪ウォッチ、『ゆめにっき』など、「可愛いもの」の話が多い気がしていて、サティもどこか可愛らしさがある作家だと思いますし、この「可愛いもの」というのは大山田大山脈にとって何かキーになるものでしょうか。
大山田:作曲をするとき、基本的には可愛さとかひとなつっこさということは意識していないんですけど、愛着が湧く感じというか、人の印象に残る曲作りというのは意識していて、楽曲毎に独立した印象を与えるようなものを作りたいとは思っています。言葉にしたらそれは「キャラクター性」と言えるのしれないですね。
島崎:なるほど。確かに、『大山田大山脈』はそれぞれの曲のキャラクターがはっきりしていますよね。なかでも『ES-1』はかなり「キャラ立ち」している曲ですよね。Soundcloudにアップされたときはドットで作られた犬がサムネイルでしたし。
大山田:『ES-1』に関しては可愛いものを見たときの童心に帰るような気持ちを曲にしてるところはあると思います。ポケモンを耳コピした時の経験がいきてますね。最近作っている次のアルバムにもそういう曲が収録される予定です。
島崎:おお。それは楽しみですね。次のアルバムはどういった作品になりそうですか?
大山田:寝る前に聴く音楽を作りたくて、アンビエント的なものを目指した作品になります。基本はビートレスで。ベースもなくて、ウワモノが点々と鳴ってるイメージです。
島崎:それはかなり大きい変化ですね。
大山田:元々アルバムを通して同じ気持ちで聴けるようなコンセプチュアルなものを作りたいなと思っていて、二枚目のアルバムはそういう意味では失敗していて、その揺り戻しというか、今度は完全にコンセプトのあるものを作るぞ、という強い意志で作っています。
島崎:なるほど。レーベル云々ではなくまず1人のリスナーとして楽しみにしています。では最後にひとつだけ質問です。大山田大山脈さんはなんていう呼び名で呼ばれたいですか?「トラックメイカー」とかって表現はあんまりしっくりこないですよね。
大山田:呼ばれたことないからわからないですけど…(笑)。やっぱ音楽家ですね(笑)。
島崎:お、いいですね。音楽家。では「電子音楽家」の大山田大山脈さん、ということで…。今日はありがとうございました。
大山田:ありがとうございました。
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さていかがだったでしょうか。インタビュー内でも話が及んだようで、現在大山田大山脈は新作を制作中です。造園計画としても次回のリリースの準備を進めている段階で、夏頃にリリースをおこなえたらと思っています。お楽しみに。
また大山田大山脈のフィジカル作品は以下から購入可能です。それぞれフィジカル版のみに付属する未発表音源の特典などもあり、大山田大山脈の音楽をより深く知ることができると思います。特に『大山田大山脈』の方は在庫残数少なめですのでお早目に。
https://ooyamada-daisanmyaku8.bandcamp.com/album/-
https://ooyamada-daisanmyaku8.bandcamp.com/album/selected-early-works-outtracks
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大山田大山脈
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帯化/造園計画
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【shop】https://taikafasciation.bandcamp.com/music
東京を拠点にする二人組ロックバンド、帯化。2019年3月に『末梢変異体/群島理論』を自主レーベル造園計画からリリースし活動を開始。2020年2月に1stアルバム『擬似縁側型ステルス』をKlan Aileenの澁谷をエンジニアとして迎え制作。リリースされたカセットテープはブルーシートで梱包され、麻紐で縛られた形で流通。同年6月には多摩川中流にてアコースティックギター、メタルパーカッションなどを持ち込み自主録音した2ndアルバム『河原結社』を多摩川で拾った「石/ゴミ(DLコード付)」という異例の形態でリリースする。音楽性は民族音楽、アンビエント、クラウトロック、フォースワールドなどの影響下にありつつも、あくまでそのスタイルは「ロックバンド」。2022年には3rdアルバムをリリース予定。
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