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織川一_Interview オートハープとの出会い、調整池と森

千葉県、鎌取出身のニューエイジ・ミュージシャン織川一。即興音楽集団、野流の創設メンバーでありながら、野流のライブで姿を見せることは少なく、もっぱら自宅でオートハープを奏で、自然のなかでサックスを吹き鳴らす。1st Album『穂遊』の音楽性について、あるいは彼の自然観について、千葉県、鎌取まで足を運び話を聞いた。聞き手はインディペンデントレーベル造園計画の島崎。

1. 「ギターキッズ」ならぬ「オートハープキッズ」のオートハープとの出会い


‪──‬まずは今の活動を始めた経緯を教えてください。

織川:音楽を始めるきっかけは、2019年くらいにオートハープ奏者であるLaraajiのライブを観て、オートハープという楽器と出会ったことです。その日Laraajiは、オートハープとドラを使ったパフォーマンスをしていたのですが、お寺でのライブだったので天井が高くて音がよく響く環境も相まって、「こんな音楽があるのか!」という衝撃を受けました。もちろん音源でも聴いていたんですけど、ライブで聴くと全然印象が違ったんですよね。楽器を演奏した経験は全くなかったんですけど、「自分もこうなりたい」、「こういう音楽をやりたい」と漠然と思いました。

‪──‬ギターキッズがバンドの演奏を見て衝撃を受ける感じでLaraajiに衝撃を受けたわけですね!

織川:ライブを観たり音楽を聴いたりするのはずっと好きだったんですけど、自分でやりたいと思ったのはそれが初めてでした。ライブの後エフェクターの写真も撮影しました…(笑)。

‪──‬それもギターキッズ的ですね…(笑)。

織川:それからオートハープを買ったんですけど、チューニングとかもよくわからないから、Laraajiの音源を聴きながらそれっぽいコード感を掴んで、自分なりにチューニングして演奏してました。でもオートハープって36弦もあるから、そのやり方だとめちゃくちゃ大変なんですよ…(笑)。
音源を巻き戻してチューニングして、音源を巻き戻してチューニングして…というのをひたすら繰り返していました。もちろん、その時のチューニングは普通の人からしたら不協和音に聴こえるようなものだったと思うんですけど、その時はそれが気持ちよく聴こえて、家とか朝方の誰もいない公園で演奏していました。

織川一とオートハープ

──‬その頃は何かを録音して聴かせるということではなく、演奏自体が目的だったわけですね。

織川:はい。でもそのうちに宅録したい気持ちになってきてオーディオインターフェースを買って、宅録を始めました。それから写真を撮っていた、Laraajiが使っていたエフェクターも買いました…(笑)。
同じくらいの頃、幼馴染だったHyozo君と一緒に何か演奏しようっていう話になって、その時Hyozo君が働いていた千葉のカセットテープショップのゴヰチカであったり、近くの公園で一緒にオートハープを演奏するようになりました。そこで初めてチューニングを教えてもらって、ピアノの黒鍵部分に合わせた黒鍵チューニングというもので演奏するようになりました。


‪──‬ピアノの黒鍵だけで演奏すると自然とオリエンタルな響きになりますが、それをいかしたチューニングですね。初期の野流の音楽性がそこで形作られたと。

織川:そんな感じで二人で試行錯誤したり、ぼくはぼくで宅録したりして、一年位してから新高円寺のoto labで野流の1st『梵楽』の録音をしました。『梵楽』ができてから、野流とは別で宅録した音源をBandcampにアップするようになりました。

‪──‬なるほど。そこで本格的に単独での制作が始まっていくわけですね。一番最初の音源はぼくもチェックしていましたが、「誰かに聴かれている」という意識が存在しない音楽というか、「演奏しているものがたまたま録音されていた」みたいな、そんな印象を受けました。でも『朝焼け』あたりから急激に「録音物を作る」という意識が出てきたように感じます。

織川:自分でもその変化は感じます…(笑)。そもそも入っている楽器の数も違いますからね。とはいえ明確に何か「これがあって変わった」っていうことは特になくて、続けていくうちに、もっと音があったら楽しいぞっていう気持ちで色々つけ足していったらああなった、という感じです。でも、KORG minilogueというシンセを買って色々できるようになったのは大きいかもしれません。

‪──‬やはりニューエイジをよく聴いていたんですか?

織川:はい。Sounds of the Dawnというレーベルが開設したYouTubeチャンネルがあって、ニューエイジの楽曲が沢山聴けるんですがそこで聴いたり、あとIasosという作家も好きでした。自分の手持ちの楽器でそこら辺の音楽の雰囲気を出せないか、自分ができる範囲で目指したのが『朝焼け』でした。

‪──‬そこからどんどんいい音源をアップするようになりましたよね。ちなみにサックスはいつから始めたのでしょうか?今回のアルバムでも多用されています。

織川:Pharoah Sandersみたいにサックスを吹いてみたいという憧れがあって、ゴヰチカで遊ぶようになったあたりに始めました。なかなか練度は上がらないですけど、自分の楽しめる範囲でやるというスタンスで続けています。

──‬今回のアルバムの表題曲『穂遊』でも、サックスが大々的に使われています。あの曲はどうやって作ったんですか?今回のアルバムはこの曲以外は自宅で作ったものが多いということでした。

織川:宅録で作った『朝焼け』が自分の中で手応えのあるものに仕上がったので、オトラボの録音環境や機材を使って、さらに長くてゆっくり浸れるような曲を作りたいと思い作り始めたのが『穂遊』です。なので『朝焼け』の発展形ということで、仮タイトルは『asayakeⅡ』でした。
まず Roland JUNO-106というシンセで作ったドローンにサックスやエレピやオートハープなど重ねていく形で雛形を作りました。曲の雛形ができた後、1年程眠らせていたんですけど、造園計画にリリースのお話をもらってから制作を再開して、声などを追加録音して、ミックスもして今年の5月頃に完成しました。


‪──‬『穂遊』はニューエイジ的なコーラスも美しいですが、「パパパ」とか「チーツッツ」といった、言葉ではないし、なおかつ擬音でもないような、不思議な声が入っているのも面白いですね。

織川:色々な音を入れたいなという気持ちはあったので、試行錯誤しているうちに出てきたっていう感じです。何か元ネタがあるわけではないです。ニューエイジっぽいコーラスに関しては、Les gabriel Laheartの『Flying Dolphins』という曲や、Ayami Suzukiさんの『Mugenkaidan』という曲からの影響が大きいと思います。

2. 壮大ではない自然観、調整池と森


‪──‬曲のタイトルを見ていると曲はほとんどが自然モチーフですよね。やっぱり自然が好きだからですか?

織川:そうですね。川が流れていて波紋ができる瞬間とか、風が吹いたときに聞こえる葉の擦れる音が気持ちよくて大好きです。自分の中では音楽と自然は親和性が高いというか、同じ心地よさであったり面白さを持っているように感じます。だから自ずと作る音楽のモチーフも自然に近づいていくんだと思います。

‪──‬一方で生物はどうですか?織川さんの音楽のなかには生物がいない感じがします。

織川:確かにそうかもしれない!でも淡水魚は好きですよ!

‪──‬ああ、魚は住んでそうな音楽ですよね。でもデカい生物はいなさそう、というか…。

織川:うん。確かに魚はいるけど獣とか人間はいないですよね。でも猫とか犬とかも好きですよ(笑)。動画みたりしますし。でも音楽を作るとなると消えてくるのかもしれません。本当は興味ないのかな…(笑)。

‪──‬同じくデカい自然もない感じがします。ニューエイジって、海とか空とか宇宙とかボヤッとしたイメージに行きがちですが、織川さんの音楽はもう少し小さい対象を取り扱っている気がします。宇宙とかは好きですか?

織川:うーん、宇宙は映画で見るくらいですかね…。そんなに好きじゃないかもしれないです。それから自然讃美みたいなところも全然なくて、「周りにあるものの中から見つけた誰とも共有しない自分だけの楽しみ」が曲になっているので、そういう大きいもののイメージが音楽のなかにないんだと思います。

‪──‬ちなみに今日は織川さんがつい最近まで住んでいた実家があるという、千葉の鎌取まで来ています。鎌取はどういう場所ですか?

織川:適度に自然があって、モールみたいなものも駅前にあって、住みやすいベッドタウンではあると思います。音楽を聴ける場所がないのは物足りないですけど、東京も電車で行ける範囲ですし、そういう意味では便利な場所です。生まれは豊橋なんですけど、小学生一年生くらいに鎌取に引っ越してきて、そこから20年くらい、つい最近まで住んでいました。

‪──‬さっきまで駅前のモールのなかのサイゼリヤでご飯を食べながら話を聞いていましたが、そういうインフラもありつつ駅前を離れると自然も多い。確かに住みやすそうです。

織川:ここにある自然は大自然ってわけではないですけど、そのなかで美しさや面白さやあらゆる感情を見出していくのが好きなんです。例えば、電柱の下に生えているちっちゃい植物とかが好きなんですよね。そういう植物ってえも言えない愛らしさがあるじゃないですか。そういうものを見つけ出して、頷いて「よし」みたいな、そういうことを日々やっています…(笑)。

‪──‬今は織川さんのお気に入りの場所ということで、鎌取駅から歩いて10分くらいのところにある池の前に来ています。「池の前」といっても、池の周りには大量の木や草が生い茂っていて、その区画全体が立ち入り禁止になっているようです。ここはどういう場所なんですか?

鎌取駅近くの調整池

織川:あの池は調整池と言って、水量を調節するために人工的に作られたもののようです。その周りにある森の区画も含めて、市や地域が自然保護の目的で管理してるみたいです。地元の人はその周りで犬の散歩をしたり走ったりしてるので、実際に森の中に入れなくても皆あの場所が好きなんだと思います。僕も散歩するときに立ち寄ったり小さい頃は鬼ごっことかもしてました。この場所から見える景色や空が好きなんです。

‪──‬この区画に出たとたん急に空が開けて気持ちがいいですね。この景色と織川さんの音楽が持つ「広さ」と「狭さ」には近いものを感じます。大自然ではないけど、それなりに「おお。デカい。」と感じるスケール感というか。

織川:そうですね。実はこの池を見ながらサックスの練習をすることが多いんです。アドリブで吹いたり、Pharoah Sandersの曲を聴きながらそれっぽいものを吹いたり。風が強い日は水面が揺れているので、それを見ながらだといい気分で吹ける気がするんです。それに、例えば渋谷のど真ん中で吹くのと、こういうところで吹くのでは、全然違うものが出てくると思うんです。

‪──‬演奏する場所によってアウトプットが変わるって、考えてみれば当たり前のことですよね。譜面という形で固定化されているジャンルならまだしも、即興的な要素の強いジャンルではその変化はより大きい気がします。では今後の制作について聞かせてください。

織川:今のところ次作の展望は全くないんですけど、音楽は作り続けるんだろうなとは思います。体調がいい時は自然と音楽ができてきますし、曲の雛形ができたらそれを完成させたいというモチベーションができるので、それを足掛かりにして作っていこうと思います。

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織川一『穂遊 (TAPE)』

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