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【エッセイ】愛すべき悪あがき
「このチョコ、おいしいですよね。なんて名前でしたっけ」
終業後、隣の同僚が話しかけてきた。視線の先は私と彼女の間にあるゴミ箱だ。その中には私が捨てたチョコの袋があった。
「いつもこれ食べてますよね」
笑顔で聞く同僚の前で、私は答える前にペットボトルのお茶を一口飲んだ。
私は万年ダイエッターであるにも関わらず甘いものが好きだ。ただやはり体型も気になるお年頃なので量は控えめにしているつもりだ。
そんな私の今のお気に入りはガ●●だ。手のひらサイズの袋に七から八粒ほどのチョコが入っている。特筆すべきはその食感。初めて食した時は、これまでにない舌触りに驚き、そこから虜になっている。まさに量も味も私好みで、私のために作られたのではなかろうかと思うくらいだ。
パソコン仕事は頭と目を使うため、糖分補給は大事だ。私が好きな飲み物にロイヤルミルクティーがある。特に温かいのがベターだ。口にチョコを一粒入れ、ロイヤルミルクティーで溶かして食べる時間は至福の時と言っても過言ではない。この楽しみのために頑張って働くのだ。
しかしある朝、コンビニの温かい飲み物コーナーでふと気がついた。私、甘いもの摂りすぎじゃないか。どちらか一方ならいいが、両方を毎日はさすがにダメだろう。気づくのが明らかに遅いが、頭の中でチョコとロイヤルミルクティーが戦い始めていた。
悩んだ挙句、私は一本のペットボトルを選ぶ。デカデカと『内臓脂肪を減らす』と書いてある。たった一回で減るわけがない。しかもチョコと一緒に摂ったところで、よくてプラスマイナスゼロ、むしろカロリーがプラスだろう。しかし、私の中では、これで少しは防げるという思いしかなかった。プラシーボ効果なら、確実に痩せられる自信はある。私はそのままお菓子コーナーに行き、ガ●●を一つ手に取る。
これで今日も食べられる。意気揚々とレジに向かう。どちらも時々にすればいいのだが、それができないのが私なのだ。せめて内臓脂肪が減るお茶を飲めばいいと自分に言い聞かす。これは私の愛すべき悪あがきなのだ。
目の前の同僚に、悪あがきを悟られまいとした私は意味不明なことを口走ってしまう。
「内臓脂肪が減るお茶と一緒に摂ってるんで」
ドンマイ、私。
そして私は今日も愛すべき悪あがきを携えてコンビニに向かうのだ。