あおのクレヨン
幼稚園にかよっていたころ、僕は絵を描くのが大好きでした。
画用紙に描いた僕の絵は、先生よりもじょうずです。
波を描いてヨットを浮かべて、太陽と雲を描きます。
あとは母さん、犬と猫。
みんな楽しそうに笑ってるの。
絵を描いている僕が楽しいから。
僕は、クレヨンのラベルの「あお」という文字をしっかりとたしかめて、青のクレヨンを手にとりました。これが青色。
空と海をぬらないといけないから。
空と海は青色。太陽は黄色。ほかは、じぶんで決めた色。
僕はクレヨンに書いてあるラベルをぜんぶ上向きにして、いつでも見えるようにしていました。
先生に聞かれたとき、自分が描いた絵の、色の名前が答えられるように。
クレヨンケースのふたの裏には色の名前が書いてあって、僕はその順番どおりにクレヨンを並べていました。
この順番を変えてしまうと、クレヨンが短くなったとき、ラベルがなくなって答えられなくなっちゃうからね。気をつけないと。
僕は、小学生になったら、色の名前も、漢字も勉強してかしこくなろうと思っていたんです。
小学校にあがってしばらくして、担任の田中先生によばれて保健室に行きました。
「おごしくん。この点々のなかに書いてある数字をあててみて?」
「先生、これ4年生とかで習うやつでしょ?、だから僕まだわかんない」
「そうね、まだわかんないね」
色覚テストでした。
教室のうしろに、僕が図画工作のときに描いた神社の境内の絵が、みんなの絵といっしょに飾られていて、やっぱり僕のが一番じょうずでした。(じぶんで言う?)
ただね、境内の木が一斉に紅葉してたの、春なのに。
空と雲の色以外は、全部でたらめなんだって。
この絵のうわさは、またたくまに学校中、ご近所中にひろまりました。
かわいそうな子がいると。
いなかって、結構残酷なのね。
車の運転はできないし、まともな職につけないだろうって(まともって?)。
まして結婚などとんでもない。くわばら、、くわばら。
ここで、泣いてばかりいた、小学生の自分に伝えたいことがあります。
すきなだけ泣いていいと思うよ、泣きたいんでしょ。
死にたいって思っても全然かまわない。死なないから。
自己肯定感は、そうだなあ、あったほうがいいかもしれないけど、ないものはしかたないねえ。
世間体はくそくらえだ。
君は、中学生になって、苦手だった球技の部活を初めます。
そして、高校3年生の時、君のチームは県大会を制覇します。
生活保護生活はここでおしまい。
君は、大学に行けます。車の運転免許証もとれます。
海外を一人旅して、普通に就職できます。
結婚して、女の子が生まれて、ちいさな家を建てて、車を買います(ローンだけど)
娘は大人になって遠くに住むことなになるけれど、娘に男の子が生まれます。その男の子の世界には、ちゃんと色彩があります。
隔世遺伝はしません。
君が今、絶対にムリだと思っていることは、たいていできちゃいます。
願うことすらかなわなかったことだって起こるんだから、可笑しいよねー。
ウケる。
あと一つだけ。
君が大学1年生の時にできる、ガソリンスタンドのアルバイト先で、オートバイとパンクロックの楽しさを教えてくれた友人を一生大切にしてください。
死ぬまで後悔することになるから。
(これだけはおどしておきますよ)
君は、2022年の夏までは生きる予定。
それからどうなるかは僕も分かりませんが、きっとだいじょうぶ。
君は、君が思っているほど弱くないから。