読む長澤まさみ講談『昼寝〜ビューティフルマインド』
『昼寝』
「日焼けするよ」
と言ったのに、彼女はカンカンと照る陽光を全身に浴びて寝入ってしまった。小さな庭に百均で買ってきたビニールシートを敷いて、ふたりで大の字に仰向けになった。真っ青な空を眺めている。
「こんなに良い天気で、綺麗な空が広がって、スーッ、空気も美味しいのに、手いっぱい洗って、マスクしなきゃならないって、不思議だね」
そう言って、彼女は目を閉じた。僕はしばらく、彼女の寝顔を横から眺めていた。君はかわいそうだね。だって、空と空気しか美しいと思えない。僕にはそれに加えて君がいる。
穏やかな寝息が心地良い。でも、日焼けしたら大変だ。僕は彼女を起こすべく、彼女の大好物を作った。シャリシャリシャリとこの音を聞けば、飛び起きてくる、と思ったが、彼女が起きてくる気配がない。結局、氷は削り終わってしまった。色気はないが、丼に氷を盛る。変わらず綺麗な寝顔の彼女に、
「日焼けするよ」
といって、顔の上にかき氷の器をかざす。鼻を中心に円形の影が浮かんだ。このまま日焼けしたら面白い。想像して、「ぷっ」と僕が吹き出すと、彼女は右目を開いた。
「はい、かき氷と…」
僕たちのシロップは、いちごでもレモンでもない。言わずと知れたカルピスだ。