読む長澤まさみ講談『侵入〜赤い花①』
『侵入』
おんなが帰宅すると玄関のドア前に赤い植物が転がっていた。こんな物、どこから飛んできたのだろうと不思議に思いながらも、捨てるでも、拾うでもなく、ソッと玄関の脇に移動させた。翌日、帰ってくるとまた、ドア前に、その赤い植物は移動していた。風で飛ばされたのかと、不振がることもなく、手に取った。
「彼岸花?」
植物に特別知識があるわけではないが、その形状から、ふと彼岸花が連想された。でも、正解は分からない。女は手にとって、玄関の下駄箱の上に置いた。翌日、帰宅すると、きのう下駄箱に置いた赤い植物が、嫌に気にぬった。幹から切り離された植物なら、水も与えずに放っておけば、みずみずしさを失い、朽ち果てゆくはずなのに、この赤い植物は、まったくそうした気配がない。気味の悪さを感じつつも、女はその正体不明の植物に、
「あなたは誰?どこから来たの?」
と植物に語りかけていた。女は植物に話しかける自分の姿を想像すると可笑しくなった。
夜、女が寝ていると、キューキューと音がする。次第次第にその音は大きさが増していく。
「何の音」
女は台所、洗面所、トイレの蛇口を閉めたり、ガスや機械の音がもれそうな物を調べてみたが、どこにも異常はなかった。女は恐る恐る、足音をなるべく立てぬように玄関に来ると、ドアスコープから外の様子を覗いた。もしかしたら空巣や物騒なことが起こっているのではないか…人影もなく、表は穏やかな様子だ。すると、女のすぐそばで、キューキューと音がなった。そこには、あの赤い植物があった。女は手にして、
「あなたなの?」
とまた、植物に話しかけていた。
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