ハリー・ポッターと炎のベンチャー part2
(世の中には、4種類の魔法使いがいるフォイ...
ひとつめは、労働者の魔法使い。二つ目は、自営業の魔法使い。三つめは、ビジネスオーナーの魔法使い。そして、四つ目は投資家マルフォイだフォイ。
世の中の大半は一つ目か二つ目だフォイ。でも、富の分配は残りの...)
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早朝
目覚まし魔法が鳴り響く。今朝は絶対に遅刻してはならない研修初日という意識もあり、5分刻みで音が鳴るようにセッティングしていた。今のところ、ホグワーツで学んだ魔法で普段使いできているのはこういう日常的な魔法ばかりだ。
夢の中に、金持ちマルフォイが出てきた。もうあの本を何度も繰り返し読んだからだろう。
ロンに勧誘されて入ったホグワーツのサークル「成功法則研究会」であの本に出合ったから、今僕はこうしてリスクテイクのうえで怪しげな、しかし可能性を秘めたベンチャー企業に進むことが出来たんだ。
(確か会の初代メンバー代表が例の名前を言ってはいけないおじさんだったと聞いた。)
昨日のアズカバン・ショックから続いている脳裏のもやもやを振り切り、成功への渇きを朝の一杯のかぼちゃジュースで潤す。
研修中は杖と移動用の箒、電子機器が没収対象になるらしいので、やむを得ず列車に飛び乗って集合場所の本社ビルに向かうことにする。
魔法枠で採用されたのに、魔法アイテムを取り上げられるのは不本意だけど、まあしょうがない。
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本社ビル前に着くと、内定者の話し声が聞こえてきた。
昨日のミーティングルームの初めの賑やかさとは明らかに質的に異なる、賭博黙示録的なざわつきだった。無理もない。
後ろからバシバシと肩を叩かれた。昨日のドビーだ
「お前今日来ないかと思ったわ~」
そう思われるのも仕方ないか。一応僕だってQuidditchで体育会の経験はあるから、打たれ強さで負けちゃいないけど。
ドビーと冗談の応酬をしながらたむろしていると、社員がビル前に現れた。
昨日の社員とは絶対に違うタイプの人だった。ドビーを上回る程の体格で、目はトロールのように爛々として僕たちに不安をいだかせる。
そして、「人財になろうよ 」という大きなプリントが入ったTシャツを着ていた。
内定者の群れ中から「えぐいて...」と小さく呟く声が漏れる。Japanの年末に放送されるという、笑ったら尻を殴打されるテレビ番組を思い出した。
人財トロールはざわめく内定者に対し言い放つ。
「"社会人"としての覚悟があるのはこれで全員のようですね。」
辺りを見回してみると、内定者の数が微妙に昨日より少ない。
今ここにいない内定者は、もう永遠に現れないのだろう。昨日アズカバンの話が出た瞬間から今日の身の振り方を決心していたに違いない。
「では、これから研修所に移動しますので、バスに乗って下さい。魔法アイテムと電子機器はここで預かります。」
何人かの内定者がおずおずとスマートフォンや杖を預けに行った。こういうの正直に申告するタイプの人種もいるんだな。
実は、杖や箒なんかのかさばるものは持ってきてないんだけど、透明マントを小さく折りたたんで懐に忍ばせてる。今まで何回もこのマントに助けられてきたから、何となく気休め程度に持っておきたいって気がしたんだ。
人財トロールは内定者のアイテムを没収し終わると、軍事訓練のような気迫で乗車を促した。これは、もう逃げられないぞ...。
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アズカバンに着くと、我こそはと息巻いていた内定者たちもさすがに表情を曇らせ始めた。敷地に入った途端に気温が露骨に下がったからね。
ちなみに、ドビーはまだ平気な表情を見せているようだった。大したやつだなあ。
バスの前方に、アズカバンが運営する研修施設「アズカバン・ヨットスクール」の門が見える。門には "Arbeit macht frei"と荒々しい文字列がアーチ状に刻まれている。どんな意味なんだろう。
研修所に到着すると、僕たちは整列させられた。
人財トロールが大声を張り上げる。
「今日から皆を徹底的に成長させてくれるメンターを紹介する。」
トロールの手が示す方向を見ると、一匹の屈強な吸魂鬼が立っていた。
ディメンターじゃないか。
そういう一種のジョークなのかもしれないが、僕たちは笑えなかった。久しぶりに大量の人間を目の前にしたディメンターは明らかに良くない興奮の仕方をしており、内定者たちの魂を品定めするかのような素振りを見せる。
「メンターです。よろしくお願いしますね。フーッ、フーッ!!」
実際に吸魂された経験があるので、あのときの感覚が背筋を這い上ってきて気が滅入りそうになる。
でも、ここで負けちゃいられない。投資家マルフォイになった自分の未来を思い浮かべ、研修所の門をくぐった。
(続)
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