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大切ないのち、ペットショップで買わないで。

幼い頃から、お隣のよく吠えるスピッツ、大きな秋田犬、祖父の家のダルメシアン癖のある犬が周りにいたが犬は動物が大好きだった。母に犬や猫が欲しいとしつこくお願いしていた子供だった。近所に住む叔父夫婦宅のペキニーズが父親のわからぬ子供を産んだ時、母からその一匹をもらっていいとの許可が出た。どんな贈り物よりも嬉しかった。ちょうど宇宙船アポロが月に向かって飛ぶという時期で、二匹の子犬はアポとポロと命名されていた。我が家に来たのはアポ、極めて昭和的犬の飼い方をしていた。父が作った犬小屋、母がキャベツと煮干しを炊いたものをあげていたまさにサザエさん的昭和の光景。ペットショップやドッグフードという言葉すらなかった、犬は外で飼うもので、それ以外の飼い方があるとは夢にも知らなかった。<今や我が家の犬は、私と枕を並べて眠ってる。>

そのアポは1982年、12月29日の朝に調子が悪くなり、獣医さんに連れていく間もなく、母の腕の中で息を引き取った。初めて経験した愛犬の死だった。がっくりとしながら暮れの買い物に行ったデパートで、偶然にも目についた悲しげな目のビーグル犬、50%引きと。犬のバーゲンなんて酷すぎると怒り、その子犬をアポの生まれ変わりかもと、母と一緒に買ってしまった。1980年代になると、高度成長期を経て、バブル直前。大手百貨店の中に、ペットショップができていた。予定した買い物を、全く忘れて、ちょうど3ヶ月になったその子犬を家に連れて帰り、ビーナスと名付けた。お正月の間に、その犬は咳をして、鼻水を垂らすようになった。獣医さんに連れて行くとこれはケネルコフだから親犬とか犬舎でうつったのだろうね、ダメかもしれないから買ったお店に話に行くようにと言われた。そしてペットショップに行くと、じゃあ交換しましょうか、と言われて私は目が点になった。洋服じゃないんだし、生き物に対してその答えは全く想像もしなかった。連れて行った獣医さんが、偶然にもそのペットショップの獣医さんでもあったので、一部の支払いは同意された。獣医さんから死亡率が高いのは、子犬は鼻水を舐めてしまうために、次に胃腸がやられると言われた。だから徹底して綿棒で鼻水を拭い、こんこんと咳をしているのを看病し、ビーナスは生き延びた。私のベッドで眠り、子供のように甘やかされて育った。私が結婚して、海外に住むときに環境の変化には無理だろうと、実家に託した。家族に可愛がられ甘やかされて、14歳の時には2回にわたる乳がんの手術を受け、21歳まで生きたビーグル犬だった。

ヨーロッパは2000年のEU統合に向けて、動物パスポートを作成、マイクロチップが義務化された。パスポートにはマイクロチップの番号、ワクチン、狂犬病、などの記録が記入される。長期休暇のあるヨーロッパでは夏冬にはドイツから、ノルウエーからベルギーから、イギリスから南スペインに、犬も連れで移動というのはよくある話。EUになり、国境の検問はなくなったが、その代わりに犬のパスポートの携帯は必要。盗まれたり、迷子になった時も首にあるチップで探すことができるし、所有者がわかるようになっている。誰かが捨てたとしても、所有者を発見して罰金を課することもできる。

昨今のネットで、気がついた日本の野良猫、野良犬、捨て犬、捨て猫事情。今なおペットショップで動物の生体売買があの40年以上も前と同じく可能であること。そして80年代に私が受けた、ペットショップの対応、「買った犬が病気なら交換します」がまだ続いていることも知った。17年間のスペイン生活で2000年になるまでにスペインはEU統合で大きく変化をしたのに。先進国と信じていた我が祖国での動物の命の軽さに唖然とした。最近見たショックなニュースはダックスフンドがペットショップで100円で売られている話。どんな人に買われるのだろうか。。。。そして幸せになれるのだろうか。

現在私はスイスで暮らしている。2018年にスペインから連れてきた愛犬が亡くなり、その一年後夫がレオを見つけてくれた。レオは、スペインのコンポステラスで産まれた正真正銘の雑種犬。放置された母犬と三匹の子犬を知人が救い出し、獣医さんで登録をして、その犬達に去勢手術を施してスイスに連れ戻った。そして自分の友人や知り合いのところにその犬を育ててもらう家を見つけた。その一匹がうちのレオである。もうすでに1歳近くになっていた。犬を引き取る際にはこのパスポートを受け取り、獣医さんでパスポートの登録のチップナンバーが正しいかの確認してもらい、新しい所有者になったことを記入してもらう。その後パスポートを市役所で提示して登録、犬税金を納める。もう一つ犬が何かを壊したりした場合の損害保険の提示も求められる。毎年1月に犬税を納める、犬の税金は大きさに関わらず、一匹につきのお値段。それぞれの自治体によって金額は多少違うが、大体日本円にして二万円ぐらい。

スペインの田舎で路上生活をしていたレオ、最初に我が家に来た時から、粗相を家ですることもなく、他の犬とは友好的。家の中のものを壊す事もせず、とっても楽だった。トイレは散歩に出かけて全部済ませ、テラスでも粗相はない。 

もし犬が逃げたり迷子になった場合は、警察にマイクロチップの番号を含め届ける。亡くなった時は獣医さんに連れて行き、そこでチップを確かめてもらい、死亡証明証を発行してもらう。その用紙を役所に提出したら、登録から外され、税金の義務から外れる。もしこの報告義務を履行しないと、税金は取られ続ける。いなくなった場合も、その犬が戻って来ない行方不明である場合は警察から一定の期間をおいて停止できるのだと思う。

スイスは生体を販売しているペットショップがない。ペットショップは、動物の餌、おもちゃ、乗馬の用品が売っている。犬が欲しいときは、自治体が経営している保護犬の施設に行くことができる。そこは飼い主が亡くなったり、捨てられていた動物を譲ってもらうことができる。選択肢は限られているのは、スイスには捨て犬がほぼ居ないから。純粋犬が欲しい場合は、ネットでブリーダーを探し、直接交渉をする。次の子供が生まれた時の予約をする。オスメスの希望がある場合は2年ぐらい待たされることもあるらしい。そして血統書付きの犬の場合は遺伝病がないという証明も出される。母犬と共にできるだけ長く生活させるブリーダーが多いので、引き取れるのは4ヶ月近くになってから。その方が体も元気で、精神的にも安定した子犬になるらしい。子犬を迎えたら10回程度の犬のトレーニングにほとんど半強制参加することになる。実は犬のトレーニングというより、これは飼い主のトレーニングで犬にとっても飼い主に取っても必要だと思う。だから犬を飼うことは靴下を買うように簡単にはできない。本来は生き物を飼うということはとっても覚悟がいることだから。

数年前になるが、ドイツのモーターホームのキャンプ場で、年老いたボーダーコリーを連れた80代のドイツ人のご夫婦と隣り合った。自分たちの犬を亡くした後、飼い主を亡くしたこの犬と知り合い、この子の年齢なら最後まで面倒をみれるだろうと引き取ったと。本当にドイツ人らしくよく配慮した犬との人生設計だと、感心した。

イギリスの管財協会のひとつに、他人の犬や猫を御世話するのがある。それは地域でボランティアメンバーを募り、その地域の誰かが困った際には、別の人が助け合える、そのような互助協会。誰かが入院するので、その間、猫を預かるとか、病気で自宅には居るが、動けないので、犬の散歩に行ってあげるというようなお手伝い。飼い主が亡くなった時、引き取り手のいない動物の行き先を探すというような。自分が行動できるときにはボランティアで誰かを助ける事が当たり前になっている。だから自分の番が来たら誰かに助けを求めるのも自然。ヨーロッパでは自分の家の鍵束に、<犬が家にいます>と書いたキーホルダーをつけている人もいる。万が一倒れた時や、事故にあった時、自宅に犬がいるということを気がついてもらえるように。それが動物との共生だと思う。

日本の動物虐待、多頭飼育、ペットミル、そして捨て犬、捨て猫、その上野良猫、犬の多さ。先進国においてこの数は異常だ。もちろんレスキューするグループもあるが個人の慈善でできることは限りがある。子ども食堂ですら民間の慈善でやりくりされている、という現在の日本の事情を知ると、弱いものに本当に冷たい国になったと溜息するばかり。
ソーシャルメディアには、レスキュー犬の里親募集、迷子犬のお知らせ、各自治体からの殺処分のお知らせは多すぎるし。それらが首輪のつけられた、人に慣れした老犬それも大型犬が多すぎる。発見され、警察に届け、保健所に届けられてもお迎えの家族が来ない。いなくなった犬を探していないからだろう。そして犬のマイクロチップも行き渡っていない。犬をお金儲けの為に飼い、ケージに閉じ込め、繁殖だけに使用し、散々子供を産ませ、それをホームセンターやペットショップで子犬として売る。その犬達は閉じ込められ、自由もなく、病気になっても適当に放置され、帝王切開を麻酔なしでされている。そしてそのような犬の行く末が、どうやら捨てられて放置されているようなのである。要するにペットミル会社は、最後まで面倒を見るということもしない。日本の殺処分は安上がりな一酸化炭素ガスでの処分、犬達は長時間苦しむ。でもそれを言ったところで変化は起きないのであれば、法律を作ることそれしかない。スイスのように、犬を迎え入れた時に、チップを入れ、市町村に登録し、亡くなった時に獣医さんからの証明を持って登録を外すこと。犬を飼うことに責任を負わせない限り、犬の命は軽く扱われる。

ヨーロッパの獣医さんは、ボランテイア活動をする人が多い。スペイン暮らしの私が参加していたレスキュードッグの施設は、数人の獣医さんがボランティアで来てくれていた。支払うのは薬代だけ。マイクロチップ、避妊手術、獣医さんのやるべき仕事は山ほどあった。日本のソーシャルメデイアから知る限り、ボランティアをしてくれる獣医さんの姿は全く浮かんでこない。レスキュー施設が連れていく獣医さんへの支払いのためのクラウドファンドがあるくらいだから。そしてもう一つ驚くのはマイクロチップの失敗例についての話。スペインで百匹前後のレスキュードッグを見てきたが、全ての犬はマイクロチップが基本、子犬も新しい飼い主に渡す前にマイクロチップを済ませ登録していた。その間にマイクロチップでの失敗例は一つも聞いたことがない。

動物を飼いたいと思う人は、どうかペットショップからだけは買わないで欲しい。親犬は、麻酔なしでの帝王切開、繁殖のためだけに使われてボロボロになっている犬の子供がペットショップに並ぶ。犬の寿命は大型犬は10年、中型犬は14年、そして小型犬は17年前後。犬達は人間の1日を5日ぐらいのスピードで生きている。人生には病、事故、離婚、家族の死、仕事で予測のできないことが起きる。でも犬を飼うときに、大型犬なら10年後のあるべき自分と犬の姿を想像してほしい。老犬を介護する可能性も大いにある。果たしてどのぐらいのサイズの犬ならば10年後の自分が面倒見れるであろうかと。犬や猫を飼う限りは、最後まで自分が面倒を見ると言うことがセットで考えて欲しい。新しい洋服を買うように、可愛いというだけで絶対買うことはやめてほしい。

少なくともペットショップ、ホームセンターで犬を飼わないようにする、それが市民にできる唯一の抵抗。お天道様に恥ずかしくないように、どんな小さいいのちでも、大切にしていかないと、きっとバチがあたると昭和の婆さんは思う。