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獅子座のレオ
2019年6月30日、レオが我が家の家族になった日。それからもう3年。レオは、親バカというフィルターをかけて見ても賢い犬とは言い難い。とっても可愛いし、甘えん坊、愛嬌がある。が、今まで私が飼った犬の中では一番お馬鹿さんだと思う。この1年間お手お代わりを、食事の前に教えているけれど、いまだに確固たる信念を持ってしない。。。いや、できない。
レオは生まれてから1歳近くになるまでスペインの北部、サンチアゴデコンポステラスに近い街で母犬と2匹の姉妹と共に放置されていた。たまたまスペインにお里帰りしたスイス暮らしの人が見つけてくれた、そしてスイス人の裕福で動物愛護に満ちた友人に救いを求め、友人からの金銭的な援助を取り付けた上で、スイスで落ち着き先を探そうということで連れて帰る手配をした。その動物好きの女性のところに最初に現れて、触らせてくれたのがレオだったらしい。お母さんと姉妹は時間がかかったらしい。レオは今でも男性よりも女性の方が好き。
ヨーロッパでは動物の移動には動物パスポートが必要である。そしてそのパスポートには体内に埋め込まれたチップの番号が記入され、狂犬病、各種ワクチン接種やダニなどのコントロールについても記入される。だから飼い主はマイクロチップを仔犬にする義務がある。国境では税関でチップとパスポートを確かめられる。もちろん獣医さんに連れて行った際にも、まず既にマイクロチップが入っていないか確認される。<盗まれた犬でないかどうかを確認する意味もある。> 彼女は全ての犬に去勢手術をした上で、パスポートも整えて輸送も手配をした。一旦は全て彼女の家で引き取る準備を整えて。その上でスイスの地元の新聞に広告を出した。
前年に私はスペインのレスキューセンターから引き取ってきた愛犬を癌で失っていた。夫は二人で旅行に行きたいから犬は要らない、って思っているのを知っていた。だから犬のいない生活をしようと1年間試みた。でも犬のいない生活は空白部分が多すぎた。だから夫に犬をもらうことを納得させた。でも今更、どれだけ可愛くっても、子犬をしつけて育てるには、夫が忍耐できない事も分かっていた。綺麗好きの夫には仔犬のトイレトレーニングが終わるまで、そして歯がちゃんと揃うまであちこちを噛んでちぎられたりする事、1年間耐えれないだろうことは容易に想像できた。だから誰かが育てられなくなった成犬を探すことにしていた。スイスにも動物レスキューセンターはあるが、数が本当に限られている。スイスで捨て犬捨て猫を見ることはほとんどない。迷い犬はいるが、それだって、マイクロチップが義務化されていると、飼い主のところに必ず戻る。
ある日新聞で、離婚で飼えなくなった犬がいるということを知り、連絡をして犬を見に行く予定をしていた。ところが当日になり一歩先に犬を見に行った方がその犬を引き取ったため、私の予約はキャンセルとなった。とってもがっかりしたその日、うちの夫は新聞広告を目にし、私には内緒ですぐにその番号に電話をしていた。その女性の声と発音から夫はたまたまこの女性を知っていることに気がついた。夫は語学が達者、6カ国、7ヶ国語喋れる。そしてドイツ語に至っては、スイスの我が地域のドイツ語から現在のドイツでのドイツ語まあ、見事に話す。マイフェアレディのヒギンズ教授なみに、ドイツ語だったら地域まで当てることができる。同じゴルフクラブで一緒にコンペに参加したことのある彼女の言葉の方言を覚えていたのである。だからこの里親ご対面はとんとん拍子に進んだ。私は雌犬を欲しかったのであるが、2匹の彼の妹たちはすでにもらわれていくところが決まっていた。だから残り福でレオ君しか選択はなかった。
母犬と妹犬といっしょに10ケ月間の路上放置暮らし。一応飼い主はあったのだが、その老人が入院して戻ってこなかった。その間に放置されていた母犬が子供を産んだ。 カトリックの国スペインでは、宗教的な意味からも犬の避妊、去勢手術はほとんどしない。その上、ラテンの国は、アングロ・サクソンやゲルマンの動物に対する態度が違う。多くのスペインの田舎では番犬として庭に放しっぱなし、餌も残飯、水だってひどい時はスイミングプールからの水を飲んでることだってある。日本と違い敷地面積は広い。
なんとひどいと言いたいが、戦後すぐから高度成長に入る前の日本もこんなものだった。ドッグフードなんてなかったから、基本的には人間の残り物。私の幼い頃、犬は冷や飯にキャベツ鰹節がかかったのを食べていたと思う。獣医さんだって、あの当時は満足になかった。犬は基本的に庭に犬小屋を与えられ、鎖で繋いでいた。家の中で飼われている犬はほとんど存在していなかった。狂犬病の注射は義務になっていて、保健所でしてくれるた。その時に鑑札をくれて、家の表に貼ってあったのが昔の主流だった。犬と一緒の散歩もそんなにしていなかったような気がする。父が近所をサッと歩いていた。犬の権利はなかった。
スペインで生き抜いたレオ達の主食は硬くなった古いパンだっただろう。そしてスペインの街の路上で、子供達にサッカーボールで意地悪されたり、揶揄われて自転車で追っかけられたりしたのか、レオは子供がものすごく苦手。私が心配したのはあちこちの家具におしっこをかけないかという事。この子はいつトイレするんだろうと心配するほどしなかった。だから家に連れてきた日から、レオのトイレトレーニングは完了だった。私は家の中に犬のトイレを一切置かない。一日3回、ちゃんと朝昼夜と外に連れて行きそこでして終わり。お腹を壊したり調子の悪い時には、犬はちゃんと飼い主に知らせてくれる。そして、レオは他の犬にはとっても社交的なので、大きな犬、小さな犬、喧嘩をすることもないし、アグレッシブになることも全くない。この2つに関してはとっても幸運だった。
レオのパスポートは8月1日誕生日で登録されている。スイスの建国記念日である。だから獅子座ということでこのレオの名前がついている。そのように連れて帰って来た女性が配慮をしてくれたようだった。だから我が家は全員8月生まれの獅子座である。今年は夫の大きなお誕生日なので、家族揃って8月のお誕生日旅行を予定。スイスはほとんどのホテルに犬を連れて行ける、もちろん犬料金は加算されるが、レストランも連れて行けるところが多い。
スイスは公共交通機関も大丈夫。レストランでそれぞれのテーブルの下に1匹犬が寝そべってるってことも結構ある。犬同士吠えるっていう問題も、ほとんどない。臆病で、大勢の人のいるところに行くのがものすごく苦手なレオであるが、レストランでも一旦入ってしまったら、テーブルの下でずっと静かにしている。
スイスでは新しく犬を飼う時に登録を市役所でする。そして犬を飼ったら、家具などと同じように家の保険に犬を登録する。それは万が一犬が、他の車にぶつかったり、何かを壊したりという時に必要な保険。市役所に登録の時に、その保険もパスポートと一緒に提示した上で犬の税金を納める。州によって違うが、私のいる地域では日本円にして年間で15000円ぐらい。あと犬を飼った時には、犬の社会性、飼い主のマナーを習うために犬の講習に行くのも義務付けられている。もちろん犬が亡くなった場合には獣医さんのところで証明をもらって、登録を削除してもらう。さもなければ、犬の税金を払う義務から逃れられない。
ヨーロッパの主要国は、生体を店頭で販売することはない。ペットショップで犬猫を販売はされない。犬が買いたいと決めたら、個人のブリーダーに連絡を取り、次に生まれる動物を予約することから始める。最近では3ヶ月以上になってようやく親から離すというブリーダーも多い。ブリーダーから正式な譲渡証明を受け取り、市役所での登録にも必要である。日本でもこの仕組みを取り入れてほしい。最近のSNSを見ていると日本は異常に捨て犬が多いような気がする。それも老犬が。早くマイクロチップが義務化されて、多頭飼いをするブリーダーという子犬大量生産工場がなくなり、ペットショップでの生体販売がなくなって欲しい。
でも、人の権利がちゃんと護れる国でない限り、動物を護る事はできない。現実はぎちぎちに詰め込まれた養鶏場、鶏の動ける場所はA4の紙一枚分、そんな気の毒な状態で大量の安い卵を生産させている日本なのだから。とりあえず、先に子供や老人、障がいを持つ人を護ってほしい。それができない限り、他の生命を持つものに優しくなんて到底できないだろうから。
レオはスイスに来れて、本当にラッキーな犬。レオ、お誕生日おめでとう!