教育AI最新事例:GPT-4oなどを使った個別最適な学びの最新デモ集、自動採点やフィードバック生成、非認知能力の見取りなど
5/13、 14と連続してOpenAIとGoogleの発表ラッシュがありました。
教育に関するものも複数あったのですが、なかなか刺激的で面白い内容だったので、そのあらましをまとめてみました。
ざっくりとお伝えすると、「AIを活用した個別最適な学び」に該当するかなと思います。
また後半では、私が東京学芸大学と取り組んだ、文科省のプロジェクトに関しても簡単にまとめました。
こちらはAIによる自動採点やフィードバック生成、非認知能力の見取りなどに関する内容になっています。
では早速見ていきたいと思います。
リアルタイムに会話しながら、図形の問題を教える
こちらはGPT-4oのデモです。リアルタイムに会話しながら、図形の問題の解き方を、子どもに寄り添って教えています。
以下、動画の内容です。
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まずはじめに親が、「数学の問題を教えてほしい。答えは教えずに、質問をしたりしながら導いてほしい」と、AIに指示を出しています。
親: OpenAIに息子のイムランと一緒に招待されて、彼らの新しい技術を試してみることになりました。息子にカーンアカデミーで数学を教えるのにどれだけ優れているか興味があります。では、始めましょう。
ここで、ChatGPT-4o(以下、ここではChatGPTと短縮)に画面の表示内容を確認してもらうよう、操作します。その上で、以下のようにChatGPTに語りかけます。
親: こんにちは。息子と一緒にここにいます。この数学の問題を教えるのを手伝ってほしいのですが、答えは教えないでください。質問をしたり、正しい方向に導いたりしてもらえますか。ただ、彼自身が理解していることを確認したいと思います。彼は同じ部屋にいるので、直接話しかけてください。
するとAIは快諾します。問題内容としては、「三角形の中で sin(α) を求めなさい」です。
AI: もちろん、喜んでお手伝いします。一緒に問題を見てみましょう。まず、三角形の中で角αに対する対辺、隣辺、斜辺はどれか分かりますか?
生徒は画面に描き込みながら、AIと対話します。
生徒: この角がαだと思います。
AI: そうですね、正解です。三角形を見て、どの辺が斜辺だと思いますか?
生徒: うーん、斜辺ですか。よくわかりません。多分これかもしれないと思うんですけど、本当によくわかりません。このAC辺です。
生徒は早速つまづきますが、AIは寄り添います。
AI: あなたは近いです。実際、AC辺は角αに対して隣辺と呼ばれます。斜辺は直角三角形の最も長い辺で、直角に対して反対側にあります。となると、斜辺はどれだと思いますか?
AIの説明で、生徒はまず斜辺を把握できました。
生徒: ああ、なるほど。えーと、斜辺はAからBまでの、この一番長い辺だと思います。合っていますか?
AI: その通りです。よくできました。斜辺を特定したところで、角αに対して対辺はどの辺か特定できますか?
その流れで、対辺も把握します。
生徒: そうですね。えーと、さっきこれが隣辺だと言ってましたよね。そして、これが斜辺だとわかっているので、このBC辺が対辺だと思います。
AI: 素晴らしい推論ですね。大正解です。角αに対するすべての辺を特定したので、直角三角形の角の正弦を求める公式を適用します。覚えていますか?
辺を特定したので、AIはsin(α) を求める公式を確認します。
生徒: はい、えーと、正弦は対辺を斜辺で割ったものに等しいというのは知っています。
AI: 完璧です。またまた大正解。それでは、特定した辺の長さと公式を適用して、三角形のsin αを求めてみましょう。
ここまで確認した辺の情報と公式を組み合わせて、生徒は問題を解くことができました。
生徒: そうですね。BC辺の7がこの対辺で、斜辺は最も長い辺だから、AB辺の25だと言ってましたよね。だから、答えは7/25ですかね?
AI: 素晴らしい。正解です。sin α = 7/25です。辺を特定し、正弦の公式を使うのを上手にやりましたね。他に質問があれば、どうぞ聞いてください。
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これまでもChatGPT等を使い、生徒に寄り添いながらAIが一緒に考えるということ自体は比較的できていましたが、あくまでテキストベースでの話でした。
今回は、画面上の図形を把握しつつ、リアルタイムに、自然な対話をしながら教えることができているという点で、大きなブレイクスルーのように感じています。
対話は本当に自然なので、ぜひ動画を見てみてください!
紙でも同様のことができる
先程のデモは凄かったですが、あくまでも専用アプリ上での動きのように見えました。
それだと、利用のハードルはちょっと高い気がしますね。
ところが、ChatGPTの次期バージョンでは、同様のことをスマホのカメラ機能を使って実現できてしまうようです。
以下も、先日発表されたGPT-4oのデモの一部です。
手で書いた方程式をアプリのカメラで撮って、解き方を教えてもらっています。
以下、やり取りの内容の書き起こしになります。
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男性: 数学の問題を解くのを手伝ってほしいのですが。
ChatGPT: 承知しました。今日はどんな数学の問題のお手伝いができますか?
男性: 紙に一次方程式を書くので、それを見せます。そして、それを解くのを手伝ってほしいのですが、重要なのは答えを教えないでください。ヒントは与えてください。
ChatGPT: 了解です。ああ、見えました。
男性: いや、まだ見せていませんよ。ちょっと待っててくださいね。
ChatGPT: すみません、興奮しすぎました。準備ができました。
(男性が問題となる数式を紙に書きながらスマホカメラで写す)
男性: 今、問題を書いたのですが、見えますか?
ChatGPT: ああ、今見えました。【3x + 1 = 4】と書かれていますね。
男性: そうです、正解です。これを解くための最初のステップは何でしょうか?
ChatGPT: 最初のステップは、xを含む項を片方の辺に、定数をもう片方の辺に移項することです。そうなると、まず、+1をどうするのがいいと思いますか?
男性: 両辺から1を引いてみます。そして、どうなるか見てみます。
ChatGPT: いいアイデアですね。両辺から1を引くと、どうなりますか?
男性: こんな感じになりました。どうですか?
ChatGPT: いいですね。xを含む項を片方の辺に分離できました。【3x = 3】ですね。次にxを求めるためには何をすればいいと思いますか?
男性: わかりません。もう一つヒントをください。
ChatGPT: もちろんです。3xがあって、xの値を求めたいのですよね。乗算を元に戻す演算は何でしょうか。
男性: 引き算でしょうか?
ChatGPT: おしい。3xは3 * xを意味するので、乗算の反対を考えてください。
男性: 分かりました。除算だと思います。両辺を3で割ってみて、何が得られるか見てみます。
ChatGPT: その通りです。両辺を3で割ってみてください。
男性: こんな結果になりました。そうですか?
ChatGPT: 完璧ですね。解けましたね。【x = 1】です。よくできました。
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この機能は、数週間以内にリリースされていくようです。しかも、話によると無料だと思われます。
誰でも簡単にダウンロードできるChatGPTアプリでこのようなことができるのは、なかなかの衝撃ですね!
AIと相談しながらプリントをやるという未来が、もう目の前に来ています。
複数のAIと、テーマに沿って対話
ここまではGPTt-4oのデモでしたが、Google I/Oでも教育に関連するデモがありました。
資料をUPすると以下のことができるといった内容です。
簡単に資料に基づく教材を生成できる
資料の内容を元に複数のAIが会話をすることで、理解を深められる
さらに、生徒もその会話の中に入ることができる
NotebookLMというアプリで、まだ米国のみでの公開のようですが、早速中身を見ていきたいと思います。
まず、これ自体は執筆の支援アプリのようで、UPした資料をもとに、色々なことができるようです。
このデモでは、科学のワークシート、教師からのいくつかのスライド、図が満載のオープンソースの教科書を追加したとのことです。
それを元に、役立つ概要を含むノートブックガイドが即座に作成され、学習ガイド、FAQ、クイズなども生成できるようです。
ここまではこれまでもありそうなAIアプリですが、ここからがポイントです。
左側のすべての資料を入力として使用し、自分用にカスタマイズされた「対話」として出力できるようです。
以下、物理をテーマにしたAI同士の対話の内容です。文字だけではなく、AI同士が音声で流暢におしゃべりをしています。
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AI1: それでは物理学に飛び込みましょう。今日のメニューは何ですか?
AI2: まず、基本から始めましょう。力と運動です。
AI1: なるほど。
AI2: そうなると当然ですが、アイザック・ニュートンと彼の3つの運動法則について話さなければなりませんね。
AI1: ああ、そうですね、物体の動きと相互作用を理解するための基礎ですね。
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さらにここからが見せ場で、このAI同士の会話に、人間も参加できるようです。
以下、プレゼンテーターであるジョシュ・ウッドワードさんがAIとの会話に参加したところの書き起こしです。
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ジョシュ・ウッドワード: ちょっと待ってください。質問があります。
AI1: どうしたの、ジョシュ?
ジョシュ・ウッドワード: ええと、息子のジミーにバスケットボールの例を挙げてもらえますか?
AI2: やあ、ジミー! それは素晴らしいアイデアだね! 実は、バスケットボールは力と運動を可視化するのに最適なんだ。
AI1: 詳しく説明しよう。まず、バスケットボールがコートに置いてあるだけだと想像してみて。
AI1: 動いていないよね? それは、ボールに働くすべての力がバランスしているからなんだ。重力が下に引っ張る力は...
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ここでAIを止め、ドヤ顔で「すごいでしょ? 息子がこれを初めて聞いたとき、目がどれだけ大きくなったか見てもらいたかったよ! 」と話しています。
「彼は引き込まれていた。彼らは彼に話しかけていた。彼はバスケットボールの例を通して科学を学んでいたんだ。彼の大好きなスポーツを通してね。」
また、事前にアップした資料の中では一切バスケットボールに関しては触れられておらず、息子さんの年齢に合わせて、AIがバスケットボールの例を作り出したと話しています。
最後に、「Geminiには多くの情報をどんな形式でも与えることができ、それが個人に合わせてインタラクティブな方法で変換されるんだ。」と強調していました。
資料をもとに、AIで教材を自動作成できるのみならず、教材を元にした対話の生成や、そこに人間も加わることができるというのは、新しいですね!
生徒の自習はもちろん、授業に取り入れても面白そうです。
自動採点とフィードバック
ここまでは、最近発表されたGPT-4oやGeminiの教育に関わる最新デモでしたが、私自身としても、生成AIを教育現場に導入する検証を進めています。
いくつか取り組みがあるのですが、ここでは前年度に東京学芸大学と取り組んだ、文科省のプロジェクトに関して簡単にご紹介させてください。
概要としては以下の2点になります。
GPT-4を利用して記述問題の解答を分析し、評価観点に従った点数やフィードバックを自動生成
AIによる評価支援の妥当性や、教員の負担軽減、評価力向上などへの効果を検証
また、結果としては以下の示唆が出ました。
AIによる点数付けやフィードバックの納得感は高い
教員にとって高負荷だった記述問題の採点負荷が減ることで、授業の構成等をより本質的なものに変えられるかもしれない
AIの採点を見ることで教員の振り返りにも繋がり、教員の指導力向上にもつながるかもしれない
ちなみに採点時間が減った分の時間は教員自身の振り返りや、本来やりたかった仕事に使われたため、教員の労働時間削減には繋がりませんでした。
ここで、生徒の記述内容と評価観点(ルーブリック)をもとに、AIが作成した先生向けのコメントがなかなか面白いのでみてみてください。
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質問:聖徳太子が目指す政治を行う上でどんな悩みを抱えているのか、そのお悩みの内容を詳しく述べてください。
A:蘇我氏の復権以外の要素についても、事例を挙げて列挙している 11-15点
B:蘇我氏の復権への懸念について述べている 6-10点
C:不十分 0-5点
まずは、満点の回答へのコメントです。
次に、15点満点中、8点の回答に対するコメントです。
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こういった取り組みを色々な教科に対して行い、先生からのヒアリングを実施しました。以下はその一部なのですが、AIに対する戸惑いや、未来への示唆が現れていると思います。
AIの結果を見ると、自分の採点力が可視化されるようで、ドキドキする。
AIは生徒一人ひとりのことは分からない。評価は一部できるかもしれないが、評定は難しそう。
AIと私の点数付けの違いが出る点をよく見ると、生徒に関する情報の差がでているように思える。私は生徒の取り組みの姿勢なども踏まえた評価をしていることに気づいた。一方AIは、採点基準のみに沿った点数付けをしているようだ。
AIによる点数を上からソートして見て違和感のあるところのみ修正すれば、これまで数時間かかっていた採点の時間が相当短くなりそう。これまでは正直採点が大変で、あまり記述式の問題を出せていなかった。AIを上手に活用することで、本来出題したかった記述式の問題を、もっと気軽に出せるようになるかもしれない。
また、一部に関して然るべき手順を踏んだ上で生徒にAIのコメントを見せたところ、以下のようなコメントも出ています。
(生徒のコメント)AIのコメントは納得感がある。
(生徒のコメント)先生はここまで言ってくれない。
まだまだ検証中ではありますが、ここまででも以下のような示唆が出ており、これからが楽しみです。
教員にとって高負荷だった記述問題の採点負荷が減ることで、授業の構成等をより本質的なものに変えられるかもしれない
AIの採点を見ることで教員の振り返りにも繋がり、教員の指導力向上にもつながるかもしれない
詳しい内容は、こちらの資料を御覧ください。
非認知能力の見取り
東京学芸大学との文科省のプロジェクトでの取り組みにおいては、もう1つのテーマでも実証を進めていました。
それが非認知能力の見取りです。
世界がVUCA(Volatility、Uncertainty、Complexity、Ambiguity)とよばれる「予測が難しく、不確実で、複雑で、あいまいな」状態になっていくことを前提に、教育はコンテンツを学ぶだけでなく、望ましい未来を実現する力をつけていこうという方向に向かっています。
詳しくは、以下のnoteに書いてみました。
そのような背景もあり、非認知能力は注目されているのですが、現場の先生が不慣れだったり、一人で何十人もの非認知能力を扱うのは大変だったりします。
そこでAIで何かできないかということで、まずは授業中の生徒同士の対話の中から、非認知能力を見とれないかということにチャレンジしました。
複数のグループを作って同時に対話しているので、普通にやったら1人の先生では把握できない状況です。
まず、こちらが実際に行われた対話の書き起こしです。
これだけみると、果たしてここから非認知能力が見取れるのか、ぱっと見ではよくわからないと思います。
実際に、見取ろうとしている非認知能力は以下になります。
あの対話から本当にこれが見て取れるの?と思われるかもしれませんが、実際AIにかけた場合の出力は以下となりました。
実際に普段A、B、Cさんに接している先生から見ても納得の結果だったようで、だいぶ驚かれていました。
AIのフィードバックは今回生徒には見せていませんが、現時点のAIでこれだけできるということは、これから非認知能力を扱っていく上で、大きな示唆になりそうです。
これらの内容は、こちらの資料の後半にありますので、自動採点とフィードバックの内容とあわせてぜひ御覧ください。
まとめ
5/13、 14と連続してOpenAIとGoogleの発表ラッシュがあり、教育に関するものも複数あったので、最新の事例をまとめてみました。
AIの会話や視覚が強化され、かなり自然な形で生徒に寄り添い、個別最適に近いかたちで学習の支援ができそうだと感じることのできるデモだったかと思います。
また、後半では私自身の教育へのAI導入の取り組みを紹介させて頂きました。
世界がますますVUCAになっていく中、「望ましい未来を実現していく力」を生徒一人ひとりが身に着けることにより、それぞれがウェルビーイングな人生を歩みやすくなるのではと思っています。
そんな中、日々やってみたことをフィードバックを受けながら振り返り、一歩一歩進んでいくことが、これからの時代ではますます大切になってくるんじゃないかとも感じています。
そんな未来に向けての第一歩が、今回の取り組みでした。
人が人にフィードバックするのは負荷が大きいですし、素直に受け取れないケースも多いと感じます。
その部分をAIで代替していくことで、振り返りの力を身につけたり、ひいてはそれぞれの望ましい未来を実現していく力を伸ばすのに繋がるのではないかとも思います。
ここに関しては今各種の取り組みを行っているので、まとまってきたらまたご紹介させてください!
また、以下の動画で今回のChatGPT-4oや、同時期に発表されたGoogleの取り組み等をより詳しく解説しているので、こちらもぜひ、併せてご覧ください!
過去記事: