セカンドハーフ通信 第62話 理想の上司

理想の上司

長いサラリーマン生活の中で印象に残る上司が何人かいる。その中でも特筆すべき人はボブというアメリカ人の上司だ。

がっちりした体格で身長も1メートル80センチはある典型的なアメリカ人のボブは私が外資企業の人事部長をしていた時、本社の人事のトップとして入ってきた。彼は日本にも赴任したことがあり、多少の日本語も話す日本びいきだ。

彼がある時、国際電話をしてきた。「ケンジ、今度日本の会社を買収することになった。会議をするのでアメリカまで来てほしい。」私はアメリカ本社で行われる買収に関する会議に出席した。

本社で行われるこの手の会議に子会社の人間を入れることは少ない。しかし彼の場合は違った。彼はこんなことをいった。「ケンジ、日本人として今回の買収について思うことがあればなんでも言ってくれ。」

また、こんなこともあった。人事の組織を変更することになり、私のレポートラインがボブからリージョンのVP、つまり彼の部下になった。私のレポートラインが1つ格下げになったのだ。

私との会話の中で彼はこういった。「ケンジ、レポートラインを変えることにしたよ。でもなにか相談したいことがあったらいつでも直接連絡してもらっていいんだよ。」ボブは人の気持ちを思いやれる上司だった。だからなにかを決定する時も相手にとって一番受け入れやすい説明を考えている。

この会社は、ある時、品質問題で大きな危機を迎えた。そしてM&Aの話が持ち上がった。ほとんどすべての経営陣が退陣する中、ボブは危機管理のため一時的な社長に選ばれた。いくつかの会社が買収に名乗りを上げ、その中の大手が買収することになった。買収された後もボブは先方から請われて1年半社長を務め、次の社長へとバトンタッチした。

彼はどんな状況でも、自分のスタンスが変わらない人だった。常に部下への思いやりをもち、交渉相手にも自分のスタンスを変えない。だから危機の時にもリーダーになれるし、買収相手にも一目置かれる。彼は今でも私の理想の上司である。


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